ユーザーインタビューの質問を設計しよう

2021年2月19日(金)
羽山 祥樹 (はやま よしき)

はじめに

前回は、インタビューでする質問を設計する材料として「かんたんなネットリサーチ」をする手順を説明しました。

今回は、「かんたんなネットリサーチ」の結果を基に、実際にインタビューの質問を設計していきます。

インタビューの質問をつくる

まず「軸になる質問」の前に訊かなければならないこととして、インタビュー対象者の属性があります。いまからインタビューすることが、ざっくりどのような概要をもっているのかを知るためです。

一部の質問項目は第7回 ユーザーインタビューの対象者をアンケートで絞り込もうの内容とかぶります。しかし、重要な項目はインタビューの冒頭で再確認しておいたほうが良いです。インタビュー対象者がアンケートを記入したときは細部まで気を配らずに、どちらかというと感覚的に回答していることのほうが多いためです。

まずは「どの資格を持っているのか」と「最近はいつ資格を取ったのか」を確認しておきましょう。

【質問1】
お持ちの資格をすべて教えてください。

【質問2】
そのうち、最近取った資格を教えてください。

また、本連載では「語学の資格アプリを作成する」という例で進めていますので、語学について、もう少し状況を確認しておきましょう。

【質問3】
お持ちの語学の資格をすべて教えてください。また得点(TOEICなど)や級(英検など)も教えてください。

ほかにも、これからはじまるインタビューを理解するのに、事前に訊いておいたほうがよさそうな項目はあるでしょうか。「かんたんなネットリサーチ」の過程で、学生の声と社会人の声がありました。特に学生のエピソードは学校に密接に紐づいているケースが多いので、大まかな職業はあらかじめ訊いておいたほうがよさそうです。

【質問4】
あなたは学生ですか、社会人ですか。

なお、これらのインタビュー対象者の属性を確認する質問は、前述した「軸になる質問」の5~8件には含みません。ただ、インタビューの場では、これらの質問をしたタイミングで色々なエピソードを話し出して、インタビューの本編に入る前に時間を取られてしまうこともあるので、あまり多くの質問はせず、必要なものだけにしましょう。

最初にインタビュー対象者の属性を訊く

「かんたんなネットリサーチ」の結果を
インタビューの「軸となる質問」へと落とす

いよいよ、具体的なエピソードを訊いていきます。「かんたんなネットリサーチ」の結果を、インタビューの「軸となる質問」へと落とし込んでいきます。

まず「資格を取得するきっかけ」を訊いてみましょう。質問は「きっかけはA.~、B.~、C.~のどれですか」といったクローズ質問にせず、「きっかけはなんですか」「背景はなんですか」といったオープン質問にします。「きっかけ」や「背景」を訊くことは、どのようなインタビューでも最初の質問として使うことができます。

また、話があっちに行ったりこっちに行ったりしないように、「どの資格について話しているのか」を明確に進めます。そして、できるだけ記憶が新しいものについて話してもらいます。

【質問5】
ここから、最近に取った資格についてお聞きします。
その資格を取ろうと思ったきっかけを教えてください。

ここからは、「かんたんなネットリサーチ」の内容を振り返りながら進めます。おそらく【質問5】を話し終えたタイミングで、ネットリサーチで見つけた要素のうちのいくつかが話題になっている可能性が高いです。もちろん別の話題のこともありますが、まず大枠としてありそうなものをベースに考えていきます。

ネットリサーチで見つけた要素とは、以下のことでした。

  • 希望の仕事に就きたい
  • キャリアアップしたい
  • 資格の勉強をする動機づけしたい
  • 受験するにあたり不安を感じる
  • 将来への保険として資格がほしい
  • ちゃんとした内容を学びたい
  • どの資格を取るべきか知りたい

【質問5】で出た話題をより深掘りするかたちで、「きっかけ」のときにどのような思考を巡らせたのか訊いてみましょう。

例えば、複数の資格を並べて「どの資格を取るべきかを知りたい」といった葛藤があったかもしれませんが、「どの資格を取るべきか知りたいと思いましたか?」と直接的な質問をしてはいけません。それでは回答を誘導してしまいます。「どの資格を取るべきか知りたかった」という答えが返ってきそうな、より背景を聞き出す質問にします。

【質問6】
その資格以外に検討していた資格はありますか。その中で、なぜその資格を選んだのですか。

「希望の仕事に就きたい」「キャリアアップしたい」「将来への保険として資格がほしい」のように、資格を取ることで期待していたのはなにか、を訊いてみましょう。

【質問7】
その資格を取ることで、どんなメリットがあることを期待していましたか。

逆に、受験に当たってどのようなことが気持ちの葛藤になっていたかも重要です。「受験することに不安がある」「ちゃんとした内容を学びたい」のように、気がかりに思っていたことがないか訊いてみましょう。

【質問8】
その資格を目指すにあたり、不安に思ったり、気になったりしたことを教えてください。

もうひとつ、「資格の勉強をする動機づけがしたい」という要素がありました。受験までどのように勉強を進めたのか、そしてその期間、どのようにしてモチベーションを維持したのか、訊いてみましょう。

【質問9】
受験までどのように勉強を進めたのか、教えてください。

【質問10】
受験までの期間、どのようにしてモチベーションを維持したのか(あるいはしなかったのか)、教えてください。

これで「軸になる質問」は6問です。1時間ほどのインタビューでは適切なボリュームでしょう。

「かんたんなネットリサーチ」の結果を「軸となる質問」へと落とし込む

改善に活かすことができる良い質問とは

プロジェクトの状況によって、「かんたんなネットリサーチ」以外のところから質問を追加することがあります。代表的なパターンは「プロジェクトを進める中で、チームメンバーが疑問に思っていること」追加するケースです。

しかし、ここで陥りやすいのが「気になったことをどんどん訊いてユーザーへの理解を深めたい」という気持ちで質問を散漫に詰め込んでしまうことがあるため、注意が必要です。

そうすると、インタビュー後に「色々と聞いたのに、インタビュー結果をどう活かして良いか分からない…」となります。その原因のひとつは「それを聞いたら何が解決できるのか、狙いがないままに聞いてしまった」ことです。

例えば、資格取得アプリを改善しようとしているときに、プロジェクトチーム内で「就学後や就業後の、夜の時間に資格の勉強をすることが多いのではないか」ということが議論になった、としましょう。

これをインタビューで訊いていけないわけではありませんが、そのまま質問にしてしまうと、次のようになります。

【質問】
就学後や就業後の、夜の時間に資格の勉強をすることが多いですか。

この質問の回答には「はい」か「いいえ」の2択しかなさそうです。

しかし、ここでインタビュー後のことを想像してみてください。仮に「はい」という回答が多かったらどうするのでしょうか。夜専用の資格取得アプリをつくるのでしょうか。通勤や通学の合間に勉強したい人たちを対象外にして良いのでしょうか。さらには「いいえ」という回答が多かったら? 夜は使えないアプリをつくるのでしょうか?

考えてみれば分かりますが、インタビューでこの質問をしたところで、次の改善にうまく活かすことができません。あまり意味のある質問ではない、ということになります。

さらに、この質問は不適切な誘導をしています。「多い」とはどれくらいの頻度を指すのでしょうか。モデレーターは毎日を想定していたかもしれませんが、インタビュー対象者は月1~2回でも「多い」と思って回答したかもしれません。

また「多いですか」という語尾で質問を投げられると、人間は無意識のうちに「この質問は『多い』と答えてほしいのだな」と誘導され、モデレーターが満足するような回答(今回では「はい」)をしてしまう傾向があります。これではインタビュー対象者に無意識の同調を求める質問になってしまいます。

では「就学後や就業後の、夜の時間に資格の勉強をすることが多いのではないか」という疑問は、どのようなかたちにすれば、意味のある質問になるのでしょうか。

ポイントは「どんな回答が得られるにしろ、それを知ることで次の改善に活かせる質問か」です。そのためのテクニックは「視点を上げる」ことです。例えば「就学後や就業後の、夜の時間に資格の勉強をすることが多いのではないか」という疑問が浮かんだら、次のように思考します。

【疑問点を適切なインタビューの質問にするまで思考の流れ】

「夜の時間に勉強をする」というのは視点を上げると『時間』についての質問だ。人によっては朝かもしれないし、通勤や通学の合間かもしれない。会議中や授業中という人もいるかも…。

ということは「夜に勉強をしていますか」という決めつけた質問ではなく「どんな時間に勉強をしますか」という質問をすれば、ユーザーの状態を正しく知ることができそうだ。

また「どんな時間に勉強をしますか」という質問は、視点を上げると、そもそも勉強をしない人もいる可能性がある。そういう人が無意識に同調した回答をしないように、意見ではなく過去の行動を訊くほうが良さそうだ。

すると「最近に取った資格では、どんな時間に勉強をしましたか」という質問が良さそうだ。

また、回答が仮に「通勤や通学の合間」だったとして、視点を上げると、それは「スキマ時間を活かしたい」ということだろうか? それとも「通勤や通学では、ほかにすることがなくてヒマ」なのだろうか。さらにほかの理由があるだろうか。また、仮に「夜の時間」だったら、視点を上げると、それは「夜に自分の時間がもちやすい」ということだろうか、「夜のほうが静かで集中できる」ということだろうか。

すると「最近に取った資格では、どんな時間に勉強をしましたか」という質問の後に「それはなぜですか」と理由を訊く質問をすれば、ユーザーの真意がわかりそうだ。

「最近に取った資格では、どんな時間に勉強をしましたか。それはなぜですか」という質問であれば、どんな回答が得られたとしても、ユーザーの時間管理に関わる価値観はわかる。もしそれが「スキマ時間を活かしたい」であればスキマ時間で学べるアプリにすれば良いし、「夜のほうが自分の時間がもちやすい」ならその時間に通知で学習を促すことができる。

【質問11】
具体的にどんな時間帯に勉強をしましたか。それはなぜですか。

この質問なら、どんな回答が得られても、アプリの改善に活かすことができそうだ。

このように、ただ気になったことをそのまま質問にするのではなく、くりかえし視点を上げて、それを知ることで次の改善に活かせるという質問にします。

どんな回答が得られるにしろ、それを知ることで次の改善に活かせる質問か?

目的は「次の『定性分析』ステップ」に
できるだけ多くの情報をわたすこと

インタビューで回答を誘導するような質問をつくってしまう原因として、「ついインタビューの場で答えを得ようとする」傾向があります。

インタビューの目的は、その場で結論をもらうことではありません。頭の良い人、すばやく正解を出して先に進むことが得意な人ほど、この点につまづく傾向にあります。

第4回 ユーザーインタビューは次の「定性分析」ステップへいかに豊かな材料をわたせるかが目的という話を思い出してください。インタビューした後、ユーザーの発言をそのまま結論として使うのではなく、「定性分析」というステップで「加工」して、はじめて「結論」になりました。

やってしまいがちなのが、気になっていることに「結論」をもらおうとすることです。ユーザーが「結論」めいたことを口にしても、結局、その発話を「定性分析」というステップで「加工」しなければ信頼できません。

頭の良い人ほど、すぐに「結論」を出したがります。しかし、インタビューの場で「結論」が出ることはありません。インタビュー対象者の発言は生々しくリアリティがあるがゆえに、頭が良い人ほど、それが「結論」だと飛びついてしまいやすいのです。

そうならないために、インタビューの場では、以下の3点に集中しきることです。

  • インタビュー対象者に、できるだけ多くの発話をしてもらう。(量)
  • インタビュー対象者に、できるだけ深い心理状態について発話をしてもらう。(深さ)
  • インタビュー対象者に、できるだけ多様な心理状態について発話をしてもらう。(多様さ)

インタビューは、次の「定性分析」ステップの「材料を集める」行為です。言ってしまえば、発話の「量」「深さ」「多様さ」こそが成否を測るものです。くりかえしになりますが「結論めいたもの」が出るかどうかは成否の条件にはなりません。

このことを念頭におくと、インタビューでする質問は、できるだけ「量」「深さ」「多様さ」のある発話が得られそうな質問こそが望ましい、ということになります。

インタビューの目的は「次の『定性分析』ステップ」にできるだけ多くの情報をわたすこと

おわりに

今回は、「かんたんなネットリサーチ」の結果を材料に、インタビューの質問を具体的に設計しました。

次回は、設計したインタビューの質問をシートにまとめ、事前にインタビュー対象者へ送付する「事前アンケートシート」のテクニックを紹介します。

著者
羽山 祥樹 (はやま よしき)

日本ウェブデザイン株式会社 代表取締役CEO。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。使いやすいプロダクトを作る専門家。担当したウェブサイトが、雑誌のユーザビリティランキングで国内トップクラスの評価を受ける。2016年よりAIシステムのUXデザインを担当。専門はユーザーエクスペリエンス、情報アーキテクチャ、アクセシビリティ。ライター。NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事。またIBMの社外アンバサダーであるIBM Championの認定を受ける。

翻訳書に『メンタルモデル──ユーザーへの共感から生まれるUX デザイン戦略』『モバイルフロンティア──よりよいモバイルUXを生み出すためのデザインガイド』(いずれも丸善出版)、著書に『現場で使える! Watson開発入門──Watson API、Watson StudioによるAI開発手法』(翔泳社)がある。

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