「事前アンケートシート」のテクニックでスムーズにインタビューしよう
はじめに
前回は、「かんたんなネットリサーチ」の結果を材料に、インタビューの質問を具体的に設計しました。今回は、設計したインタビューの質問をシートにまとめ、事前にインタビュー対象者へ送付します。この「事前アンケートシート」のテクニックを紹介します。
「軸になる質問」を
A4で1枚のシートにまとめる
前回で作成した「軸になる質問」をA4で1枚のシートに記載します。これは後述する事前アンケートシートとして、事前にインタビュー対象者へ送付したり、当日に印刷して机の上に置いておくためのものです。
下図は、著者がA4で1枚にまとめた事前アンケートシートです。
オンラインでインタビューする場合は画面に投影することになりますので、スライドにしておきます。プレゼンと異なり、アジェンダとして使いますので、やはり1枚に収めます。
プレテストをしておく
質問シートが完成したら、プレテストをしておきましょう。練習として、身近な人に質問シートを使ってインタビューをしてみます。
このときの相手はプロジェクトチームのメンバーでも良いですが、チームメンバーの場合はプロジェクトに思い入れが強いあまり、恣意的なインタビューになるケースがあります。できればプロジェクトに利害関係の薄い人、例えば社内でプロジェクトに関わりのない人で、今回の想定ユーザーに近い人や家族、友達などが良いです。
プレテストをしてみると、話しづらいところや、質問の言い回しが意図せず誘導になっているところ、想定外の回答が来るところに気がつきます。その場合は質問シートを修正しましょう。
また、プレテストとして、1回、そのテーマでのインタビューを経験しておくことで、本番で慌てることが減ります。
質問シートを事前アンケートシートとして
事前にインタビュー対象者へ送る
質問シートは事前アンケートシートとして、事前にインタビュー対象者へ送ります。これは第8回 ユーザーインタビューの対象者にアポをとろう(サンプル文面つき)でもチラリと紹介しました。
事前アンケートシートは細かいテクニックではありますが、筆者のオリジナルです。そのため、一般的なユーザーインタビューの書籍などには書かれていません。
実のことを言うと、筆者は会話下手です。会話下手をカバーするために事前準備を入念にすることで、会話能力に依存せずインタビューができるように試行錯誤して見つけたTIPSなのです。
事前アンケートシートは、2つのシーンで使います。
- インタビュー対象者に事前の案内メールに添付して送る
- オンラインインタビューなら1ページのスライドにして最初に表示する。リアル会場のインタビューなら印刷し、最初にテーブルに置いておく
モデレーターがインタビュー中に困惑するシーンのひとつは、インタビュー対象者に本来話してほしいと思っている話題から大きく脱線したまま、ずっと話してしまうことです。
インタビュー時間は限られているのに、どうも本来の主旨とはあまり関係なさそうな話で時間がどんどん過ぎていってしまう…。しかし、不用意に話の腰を折るのもインタビュー対象者の心証を悪くしてしまいそう…。どうやってインタビューを本線に戻すべきか、モデレーターとしてとても焦る瞬間です。
このようなときスマートに場をコントロールする方法を、筆者は新入社員のころにトップセールスの先輩に教わりました。それは「アジェンダを最初に場に出しておく」ことです。シンプルですが、非常に効果的です。
事前アンケートシートをアジェンダとして提示することで
インタビューの話の流れを切り戻すテクニック
インタビュー対象者が本線から脱線したままずっと話をしてしまうのは、単に「本線がどこだか伝わっていない」からです。
事前アンケートシートをアジェンダとして提示しておけば、次のようにして話を本線に戻すことができます。インタビュー対象者の話を大きく切っていますが、嫌味がありません。
【インタビュー冒頭】
モデレーター:(画面に事前アンケートシートを表示して)本日は、いま画面に表示しているテーマについて、お話をうかがっていきたいと思います。(1)資格を受験したきっかけ、(2)その資格以外に検討していた資格があるかどうか、(3)……です」
【インタビュー途中で脱線してしまったとき】
インタビュー対象者:(「(1)資格を受験したきっかけ」から大きく脱線して話を続けている)
モデレーター:(話が一区切りしたタイミングを見計らって)なるほど、ありがとうございます。今日にお伺いしたいことのうち「資格を受験したきっかけ」については、ずいぶんお聞きできました。それでは、次の話題「その資格以外に検討していた資格があるかどうか」についてお聞きしていきたいのですが…
事前にアジェンダを共有したうえで、このように切り出すと、インタビュー対象者は「ああ、そうだった、他にも話さないといけないことがあるんだった」となり、自然に次の話題に移ってくれます。
インタビューの場で話が脱線することをあらかじめ想定してレールを用意しておくことで、焦ることなくスムーズに場を整えることができます。
事前アンケートシートは
インタビュー対象者に案内メールに添付して送る
上記のテクニックに加えて、事前アンケートシートを送ることで、インタビュー対象者にインタビューで何を話すか事前に考えてきてもらえる効果もあります。どんなことを聞かれるか分からずにインタビュー本番で思いついたことを話すのは、正直な反応を得られる反面、心の準備ができず、本当に話したかったことを逃してしまう可能性もあります。
事前アンケートシートに細かく質問を記載する必要はありません。「アンケートに答えてもらう」ことが目的なのではなく、「アジェンダ(会話の本線)を事前に共有すること」と「こんなことを訊かれるんだと心構えしてきてもらうこと」が目的なので、パッと一読してもらえれば、それで充分です。記入してきてくれれば嬉しいですが、それすら必須ではありません。
筆者の経験として、多くのインタビュー対象者は事前アンケートシートをちらりと読んではきますが、記入まではせずにインタビューに参加しています。
事前準備をされたくないインタビューのときは注記しておく
注意点として、事前アンケートシートを送ったとき、真面目なインタビュー対象者は「ちゃんとした回答をしよう」と思うあまり、いろいろと調べてきてしまうことがあります。
例えば、こんなケースがあります。「当社のアプリを使ったことがない人」をリクルーティングして「インタビューの場ではじめて使ってもらった反応を見よう」というインタビューを計画していました。事前アンケートシートに「当社のアプリを使った感想を教えてください」と記載しておいたところ、それを読んだインタビュー対象者は「答えられるようにしておかなくては」と思い、わざわざアプリをダウンロードし、いろいろ操作してインタビューに臨んでくれたのです。その気持ちは嬉しいのですが、インタビューで意図していた「はじめて使った反応」を調査することはできませんでした。
このような場合は、事前アンケートシートへ明確に「注:インタビュー会場にてはじめて当社アプリを使っていただき、その感想をお聞きします。事前にアプリについて調べたりダウンロードしたりしないでください」と注意書きをしておきます。
おわりに
今回は、インタビューの質問をシートにまとめ、インタビュー対象者に事前に送る「事前アンケートシート」のテクニックを紹介しました。これを用意するだけで、当日のインタビューの流れがグッとスムーズになります。
次回は、ユーザーインタビューの会場設営のポイントと、インタビューに同席するチームメンバーへの案内について紹介します。
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