NTTデータが語るエンジニア像とその育成「旗を揚げる」ことの大切さとは?
NTTデータにおけるLinuC活用による
エンジニア育成
鈴木:なるほど、塾という仕組みとして育成環境を整えているのですね。
新人時代からの教育も重要だと思いますが、新人教育ではどんな取り組みをしていますか? そのなかで、Linuxのスキルを高めるために、技術者認定であるLinuCにも取り組んでいると聞いています。
俣木:新人向けのオンボードプログラムを用意しています。約2週間の期間で、インフラ技術者であればコマンドを覚えてもらうところから始め、ハンズオンで構築・問題解決の基礎を習得した後、OJTに入ります。
LinuCについては客観的に技術力を示せる取り組みとして推奨しており、技術者のモチベーションになっています。先ほどの旗を揚げるということにもつながると考えています。
鈴木:昨今はオープンテクノロジーが世の中を引っ張っています。そうした技術を学ぶことの重要性についてどのようにお考えですか?
濵野:ブラックボックスになってしまっているものよりも、中身が見えて理解できるテクノロジーが重要です。その意味でLinuxはUNIXの思想を引き継いでおり、最適な素材だと考えています。目的を絞った洗練された小さいツールが用意されていて、パイプやリダイレクトなどで組み合わせて、大きな処理を実現する……、多様な入出力もファイルシステムを通じて実現する……といった点ですね。これらの考え方は、現在重要性が高まっているマイクロサービスのアーキテクチャにもつながっており、広く応用可能な思想だと考えています。
高度技術者にはソースコードやシステムコール、ライブラリコール、パケットキャプチャ、スレッドダンプなどを読みこなせることが求められます。それはオープンだからこそ自在にできることです。また、NTTデータはシステムインテグレーションが生業(なりわい)なので、各テクノロジーをどう組み合わせられるか、そのときの可用性や信頼性はどうなるかを検討・評価でき、インターオペラビリティ(相互接続性)が担保されているかを確認し、全体として機能するシステムを作るといった力が必要です。その意味でも、それぞれの中身がしっかり理解でき、検証できるということは重要といえます。
鈴木:やはり、オープンの世界にはUNIXの特徴が影響しているのですね。1つ1つの部品が正規化され、無駄のないソフトウェアができあがっているという世界観を学んだ人と、学んでいない人では差が出るのではないかと感じます。育成の立場で工夫していることはありますか?
俣木:コロナ禍によるテレワークの普及で、Teamsなどを使ったコミュニティを形成しやすくなりました。600人規模の人数が参加するコミュニティ上で技術情報を共有し、スキルアップを図る取り組みを実施するなど、仕組みの構築に努めています。
鈴木:なるほど、オープンな技術だから中身がわかり、技術についてフラットに議論でき、ネットワークを介してオープンに技術者がつながって成長していくということですね。
本日、さまざまなお話をいただいたように、Linuxを通じて技術を学ぶことが、技術者として大切な考え方の基本を学ぶことに自然につながるということかと思います。
濵野さんをはじめとする多くの技術者の皆さんのご協力により、2020年4月にはLinuCの試験範囲を改訂しました。皆さんとの議論を通してLinuxだけに閉じることなく、今必要とされる技術にフォーカスしたものになり、多くの企業で採用が広がっています。ここでLinuCを取得することの意義についてご意見をお聞かせください。
濵野:われわれの職場では業務でLinuxをガンガン使いますが、しかし、それだと業務でやっていることしか学べません。オンプレミスの技術者はオンプレミス、クラウドの技術者はクラウドで使う機能に閉じてしまうといった具合です。
その点LinuCの試験に向けて準備すると、体系的な学習ができるため、現在のプロジェクトを離れて次のプロジェクトに移っても活用できる幅広い知識が身につきます。それがLinuC学習の最大のメリットだと考えています。勉強している最中は「こんなの使わないなあ」と思ったりしても、後でそれが役立ったりするわけです。
俣木:社員教育をしていますと「資格だけじゃ役に立たない」といった意見を聞くことも確かにあります。しかし、体系的な学びから得られるものも多いですし、資格によって自分の能力を客観的・対外的に示せることも重要だと考えています。
新たなLinuC レベル3が導く未来とは?
鈴木:全体のイメージを持った上で基礎を知っていると新たな気付きがあったり、その後の新しい技術も学びやすくなりますし、いろいろ見えてくるということですね。視野が広がっていくことで自分自身として揚げたい旗が見えてくるのかもしれません。LinuCのレベル1、レベル2はLinuxをベースに今の時代に必要な技術要素を盛り込み、すべてのIT技術者に身に付けて欲しい基礎力を証明できる認定と考えています。
濵野:世の中から求められる課題にトップ技術者として専門スキルを提供するには、基礎がしっかりしていることが大事です。特に、いろいろなツールを空気のように使いこなせる必要があります。当たり前のことができており、それを示すことが重要です。目の前の仕事は移り変わっていくものと考えると、認定という確固とした力を次のステップへの原動力にするといいと考えます。
NTTデータでは、新入社員に少なくともLinuCのレベル2までは取得するように勧めています。並行して、現場配属後の新人が実務的なコマンドの使い方を学ぶなかで、たとえば、プロセスについて「なぜこれは階層構造になっているのか、親子関係があるのはなぜか」「なぜフォークという仕組みで子プロセスを生成しているか」「子プロセスは親プロセスのなにを引き継いでいるのか、引き継がないものはなにか」などと、訊いたりしています。そうすることで、LinuCで学んだ知識をさらに生きたものとして習得できるのです。
鈴木:現在検討中の新たなLinuC レベル3は、より高度な専門技術をアーキテクチャの観点で使いこなせる技術者を想定しています。ITの現場ではシステムをアーキテクチャとしてまとめられ、全体を価値に変えられる人が求められています。新たなレベル3にどんなことを期待していますか。
濵野:従来のLinuCはウェブサーバ、セキュリティなど個々の要素にフォーカスしていた印象があります。もちろんサーバ構築技術や運用管理技術を身につけることはとても大事ですが、それぞれは単独で動いているわけではなく、有機的につながってシステムが構成されています。
現在クラウドを活用するなかで、スケーラブルで高信頼なシステムの作り方が以前とは変わってきています。以前は、一部のアーキテクトで時間をかけて作り込んだ設計を実装していくという流れが主流でした。現在は、多様なコンポーネントを組み合わせて、目的にかなったシステムをスピード感をもって組み立てられる技術者が、これまで以上に求められています。これが目指すべき姿のひとつと言えるでしょう。
その意味でLinuC レベル3では、各コンポーネントの理解に加え、システムアーキテクチャに関するデザインパターンやベストプラクティスが理解できているか、各システムの実現にはどの方法やアイデアを使えばいいか、そのときにどのような点に留意すべきか、などが求められていくのが望ましいでしょう。
これからは技術者のアイデアドリブンで
世界が変わる時代に
鈴木:最後に、これからの技術者の方向性についてお尋ねします。私は技術者の未来は明るいと思っています。かつてソフトウェアはハードウェアを動かすための付録のように考えられる時代もありました。今はソフトウェアが表に出てきており、新たな価値を発揮しています。
濵野:確かに技術者の未来は明るいと感じます。従来は社会のニーズが先にあって、ITを使ってそれをどう実現するかといった順番でした。それが次第に、ディープラーニングなどに代表されるように、先進技術が登場してきて、それをどう取り込んでビジネスや社会に変革させていくか…… という順番になっているものも多くなっています。つまり、技術者は言われたものを作るというだけでなく、これからは自分の手で世の中の可能性を広げられる時代になるということです。
俣木:今、ITは、どんな業種・業態のビジネスであってもコアになり、技術の価値は相対的に上がってきているので、私も技術者の未来は明るいと思っています。日々新しい技術が登場し、それらをビジネスに適用させていくことが求められていますので、技術者は新しい技術を学び続けることが重要になってきています。
学び続けるために大切なのが原理原則を学ぶことだと私は思っています。LinuCのレベル1/レベル2で基礎を学んで、LinuC レベル3でアーキテクチャという広い知識を身につけていくのは良い選択肢かなと思っています。なので、我々としてはLinuCの認定取得をしっかり推進していきたいと思います。
鈴木:コンピュータはもともと、発見を感じワクワクしながら使いこなせるものでした。そうした明るい見通しがあれば、なおさら技術者にとって将来は希望を持てるものになりそうですね。濵野さん、俣木さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
本インタビューは、新型コロナウィルス感染症対策に留意した上でマスクを外し、撮影を行いました。
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