LPI-JAPANがCKAとCKADの国内実施と、Linux FoundationのAuthorized Certification Partnerとして国内認定されたことを発表
オープンソースソフトウェアに特化したIT資格認定試験を行うNPO法人のLPI-JAPANがクラウドネイティブなエンジニアの育成を目指して、CKA(Certified Kubernetes Administrator)とCKAD(Certified Kubernetes Application Developer)の国内での実施を発表した。これらの資格は、The Linux Foundationが実施するKubernetesの技術認定試験であり、CKAはKubernetesの管理者向け、CKADはKubernetesを使ってアプリケーションを開発するデベロッパー向けとなる。
またLPI-JAPANは、Linux FoundationのAuthorized Certification Partnerとして国内で認定されたことも合わせて発表した。今回はLPI-JAPANの理事長である鈴木敦夫氏にインタビューを行い、背景や狙いなどを聞いた。
今回の発表について背景を教えてください。
今回はこれまでのOSの資格試験などに加えて、クラウドネイティブなシステムのデ・ファクト・スタンダードであるKubernetesの資格認定試験であるCKAとCKADを、2020年12月2日から開始したというのがニュースリリースの主旨です。その背景には、クラウドやコンテナなどの主要な技術の学習が難しいということがあります。現在、多くの企業がコンテナやクラウドなどの最新技術に対応できるエンジニアを求めていることは明らかです。
Kubernetesにしてもコンテナにしても、これまでの仮想化とは違う難しさがあることは業界での常識ですが、その技術を習得するためには認定試験がひとつのルートとして有効ということですね。
そうですね。私たちは、エンジニアが技術の使い方を覚えるだけではなく、その技術の本質的な部分を理解して欲しいと考えています。Linuxやデータベースに関しても、その本質的な部分が理解できていれば、ベンダー固有の部分はその応用で理解することは可能だと思っています。
今回はCKAとCKADですが、最近、CKS(Certified Kubernetes Security Specialist)というセキュリティに特化した試験が発表されました。そちらに関しては?
CKSについても検討をしています。私たちの考えるエンジニアのキャリアマップでは、エンジニアそれぞれの役割に従って複数の認定試験に合格することを想定しています。クラウドネイティブなシステムにおける管理者向けのCKAとデベロッパー向けのCKADでは、LinuCの上に他の資格と合わせて推奨しています。
CKAではLinuCの上にOPCEL(OpenStackに関する認定試験)がありますが、これは仮想マシンに関するノウハウも運用管理者にとっては必要ということですか?
実際にはOPCELやHTML5は必須ということではなくて、それぞれを推奨しているということですね。CKSについても、CKAとCKADと合わせて取得して欲しいと思っています。実際にコアの技術について本質的に理解ができていれば、各ベンダーに固有の技術についても取得は難しくないと思います。
セキュリティについてはクラウドネイティブなシステムを扱うエンジニアには避けて通れない必須のノウハウだと思いますので、ぜひそれも実施して欲しいと思います。
あとこれは多くのエンジニアを見てきたことによって得られた経験則なのですが、アプリケーション開発チームに10~20%くらいの割合でインフラストラクチャーを理解しているエンジニアがいると、プロジェクトが成功する確率が高くなるということはあると思いますね。
ビジネスロジックを実装するアプリケーションデベロッパーであっても、インフラストラクチャーを良く理解している人が少しいるだけでも違いが出てくるということですか?
そうです。あくまでも経験則ですが。「Kubernetesが難しい」というのは良く聞きますが、Kubernetesを理解しているエンジニアがデベロッパーチームにいるだけで、相当違いが出ると思いますね。そういう意味でも、デベロッパーにもCKAをお勧めしたいと思います。
しかし本来はビジネスロジックに集中したいエンジニアにとっては負担ではないですか?
それはそうですが、ビジネスロジックを実装するアーキテクチャーによって開発するソフトウェアやサービスの効率や柔軟性は変わってしまうので、システムの理解は必要だと思います。日本はそもそも社員教育として、ゴールを教えるのではなくプロセスを教えることだけに集中してきた弊害が出ているのではないかと思っています。つまり「究極的に何を達成したいのか?」を考えるのではなく、「どうやってやるか?」に偏って教え込んできたために、そういう発想ができなくなっているのではないですかね。効率と品質を重視するあまり、プロセスを決めて教え込むようになったためにシステムに対しての理解も要らないという発想になるのは危険だと思います。
これまでどちらかというとLPI-JAPANは試験の受講者、つまりエンジニアを「お客さん」として捉えていたというのが私の見地なんですが、今回説明に利用されたスライドでそのエンジニアを雇う側に対しても視野を拡げているのが印象的でした。これについては?
これは私が理事長になってから使い始めたスライドなのですが、エンジニアだけではなくそのエンジニアが活躍する場である企業についてもちゃんとケアしていこうというのが背景ですね。エンジニアを雇う側に対しても視野を広げているのは育成だけでなくその活躍までをフォローしていく必要があるという考えに基づいています。技術者の育成と拡大において技術者の正当な評価と地位向上、プレゼンスの向上は大きな課題と認識しています。
LPI日本支部がエンジニアをコミュニティの一員、仲間として認識してガバナンスにも参加させようという視点とは異なっていますよね。
我々もエンジニアを取り巻くコミュニティについては重要だと考えていますよ。コミュニティを通じた教育というもの重要ですから。コミュニティという意味では試験の内容についても日本のIT技術者の声を反映しています。具体的にはLinuCの試験のバージョン10からLinuxというOSに関する内容だけに限らず範囲や中身を見直しています。プリンターに関する設問を削ったり、ZabbixやAnsibleというOS以外の内容を加えたりというように、現場で必要とされる知識を取り込んでいます。これはLPICではまだできていない内容だと思いますね。
今回の試験の年間受験者数をどれくらいと想定していますか?
これまでのLinuCの試験が約数万人というレベルでしたので、クラウドネイティブな試験という意味では1000人くらいが受験してくれるかなと想定はしています。ただ、この試験はオンラインの試験となりますので、個人宅で行う場合での注意点や制約がありますね。また、会社の会議室で試験を受ける場合でも、利用するプロトコルやポート番号などファイヤーウォールを超えたオープンなインターネット接続が必要になります。それについては、これから問い合わせが増えてくることも想定しています。事前に接続をチェックするツールもありますので、それを上手に使って企業においても不具合なく受験できる環境を提案していきたいと思いますね。
LPI-JAPANがエンジニアを「お客さん」扱いしているという筆者のコメントについては「まぁ、昔はそうだったかもしれませんね。でも今は変わってきましたよ」として、コミュニティの重要さを認識している姿勢を見せたのは、オープンソースの初期段階からエンジニアとして参加してきている実体験からの意見だろう。今後のLPI-JAPANの施策に注目したい。
なお鈴木氏とオープンソースとの関わりについては以下のインタビュー記事を参考にして欲しい。
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