どのような企業がDevRelを行うべきなのか
開発者向けサービスではないが
APIを提供している場合
開発者向けのサービスではないものの、APIを公開しているケースはよくあります。その目的としては、大きく分けて以下の2つになるでしょう。
- ビジネス連携
- 集客/売り上げ拡大
ビジネス連携
最近では、企業間連携において互いのAPIを利用し合うケースがよくあります。APIがあれば、お互い仕様を交換するだけですぐに連携するプログラムの開発を始められます。これによりスピード感のある連携が可能になるでしょう。特にビジネス向けのサービスを提供している場合はAPIを公開する価値があります。日本企業における例としてはfreee APIが挙げられます。自社システムとfreee APIを連携させることで、業務の自動化や省力化を実現できます。
API | 本来のユーザー |
---|---|
freee API | 個人事業主や法人(経理担当者) |
Sansan API | 個人事業主や法人 |
MakeLeaps API | 個人事業主や法人(経理担当者) |
トレタPOSコネクト | 飲食店 |
みずほ銀行 オープンAPI | 個人や法人 |
もしAPIがない場合はどうなるでしょう。この場合、最初に提携する企業の要望がふんだんに盛り込まれたAPIになってしまう可能性があります。そうすると汎用性がなく、別な企業との提携時には使えないAPIになるかも知れません。API設計は汎用的、柔軟性を持って行われなければなりませんが、ビジネス面だけを重視すると本来不要なAPIが増えたり、特殊な機能を提供するものまで作ることになってしまいます。
ビジネス連携利用だけを想定したAPIの例としては、最近増えている銀行系APIが挙げられます。このAPIは契約した企業にのみ公開されるものが多いようです。ただし開発に必要なドキュメントやSDK、OAuth2のような仕組みは公開されているAPIの場合と何も変わらず必要になるでしょう。このときにも、考えるべきは利用する開発者の開発効率性です。
集客/活性化/売り上げ拡大
主に消費者向けのサービスで提供されるAPIは、集客や売り上げ拡大のためにあるでしょう。例えばWebメディアのRSS/Atomフィードはその1つです。また、楽天Webサービスで公開されている商品検索やホテル検索などは、サービス元の収益を増やすのに利用されています。類似のものとしてリクルート WEBサービス(HOT PEPPER APIなど)やAmazon Product Advertising API(Amazonの商品検索API)も挙げられます。消費者向けに売り上げ拡大を目的に公開されているAPIはGETのみ(データ取得のみ)で、登録や更新を想定していないものが多いのが特徴です。
一方で、はてなブックマークAPIのようにユーザー活性化を目的として公開されているものもあります。APIの利用が直接的に収益に結びつくわけではありませんが、サービス本体が利用され続けることでユーザーの活性化維持につながっています。
API | 対象サービス |
---|---|
Rakuten Web Service | 楽天の各種サービス |
Amazon Product Advertising API | Amazon |
Yahoo!ショッピング API | Yahoo!ショッピング |
ぐるなびレストラン API | ぐるなび |
はてなブックマーク API | はてなブックマーク |
RSS/Atomフィード | 各種メディア、ブログ |
こうしたAPIを公開する場合には、APIが事業にどう貢献するのかをきちんと考えておく必要があります。APIは公開して終わりではなく、その後もサービスの拡大に合わせて拡張したり、トレンドの変化によって更新も必要になります。初期のAPIはSOAPで公開されるものが多かったですが、時代に合わせてXML、そしてJSONとフォーマットも変化しています。また、初期にはなかったCORSが出てきて、JSONPは使われないものになっています。もちろんサーバーのセキュリティメンテナンスも必要です。
こうしたメンテナンスに見合ったAPIのビジネス利用を考えておかないと、ただ公開しただけでメンテナンスされないAPIになってしまいます。もちろんマーケティング費もないので、DevRelを行う予算は出ないでしょう。逆にAPIをビジネスに活かす設計ができていて、集客や売り上げ拡大に効果的であると判断されれば、DevRelを行う価値を分かってもらえるはずです。
DevRelに期待する効果
開発者向けにサービスを提供していない中で、DevRelに期待する効果をきちんと説明するのは難しいかも知れません。求められるところとしては、APIの活用事例増や、APIを通じた集客数や売り上げ拡大になるでしょう。こういった点はDevRelチームだけでは難しいところもあるので、営業や他部署との連携しながら進めていくのが一般的です。
開発者を雇用したい場合
最後に開発者を雇用したい場合です。2022年現在(おそらくその後も)エンジニア不足が叫ばれています。筆者の知る限り、エンジニア採用がうまくいっている企業はほんの僅かです。多くのエンジニアがそうした僅かな企業に吸い込まれており、他の企業には誰も残されていない状況です。求人がうまくいっている企業の特徴として、以下のような点が挙げられます。ちなみに待遇や福利厚生が申し分ないのは最低条件です。
- 企業としてのブランディング
- 情報発信力
企業としてのブランディング
あなたがJavaをやりたいと思ったときに想像するのはどの企業でしょうか。同じようにPython、Ruby、Go、Flutter…など言語ごとに思い当たる「あの企業」があるのではないでしょうか。各企業では開発者を雇用するにあたって、自社のウリや得意技術を厳選しています。そして、その技術に取り組みたいと思う開発者の人たちに知ってもらう努力をしています。
逆に、そうした専門性がない、または薄い企業は開発者の獲得に苦労している印象があります。開発者の立場になって考えれば、興味がある言語に取り組めるかは重要なことですし、そうした企業であれば知見を深められる期待もあるでしょう。最近では特定の技術領域に強いエンジニアが入社することで、そのエンジニアと一緒に働きたいという人たちが入社するという流れもよく見られます。
情報発信力
コロナ禍前はエンジニアの勉強会向けに会場を貸してくれる企業が多く、そこでエンジニアとのつながりを作る試みがよく見られました。しかし、最近は勉強会がオンラインになっており、代わりとして行われているのがテックブログです。これはいわゆるコンテンツマーケティングで、費用対効果の大きい施策です。自社の技術力をアピールできますし、情報が蓄積されることで検索からの流入も増えていくでしょう。
有名なところではクラスメソッドのDevelopersIO、クックパッド開発者ブログ、Yahoo! JAPAN Tech Blog、メルカリエンジニアリングブログなどがあります。各社イベントのアーカイブや自社が得意とする技術に関する内容、インタビュー記事などを投稿しています。多くのテックブログが出てきている反面、その継続性やコンテンツの生産に苦労している企業も増えています。
DevRelに期待する効果
この場合の効果としては、開発者の雇用増にあるでしょう。人材紹介などに支払う金額に比べると、テックブログを運営する費用は大きくありません。さらに自社の知見が蓄積されることで資産にもなります。ただし結果が出るまでに相当の時間がかかることもあり、今すぐ雇用したいという場合には不向きです。
その他の目的
エンジニアの求人、転職サービスを手がけるForkwellは、コロナ禍前にはエンジニアの勉強会で懇親会を支援する仕組みがありましたが、コロナ禍では自社でイベントを開催する動きに変わりました。毎回数百人集まる魅力的なイベントを開催しており、2021年にはDevRelを行う専門部署を立ち上げています。こうしたイベント開催を通じて自社のブランディング、そして開発者とのつながりを形成しています。
同様に、エンジニア向けの転職やフリーランス支援を提供するレバレジーズは2014年からTeratail(エンジニア向けQ&Aサービス)を提供していたり、MANABIYAという開発者向けカンファレンスを実施しています。これもまた、ブランディングや開発者とのつながりを作るために行われている活動と言えるでしょう(MANABIYAは2018年を最後に行われていません)。
おわりに
Netscape Communicationsを創設したAndreessen氏が「ソフトウェアが世界を飲み込む」と発言したのは2011年のことです。それから10年以上経過し、ソフトウェアの重要性や多様性はますます増していると感じます。各企業にとっても開発者が自社の成長に大きな要素となっているのではないでしょうか。
そのような中でエンジニア不足が叫ばれており、いかに自社や自社サービスが魅力的かを開発者にアピールできるかが問われるようになっています。良いモノを作るだけでなく、それをいかに知ってもらうかもまた重要になっているでしょう。そうしたアピールの方法としてDevRelを活用している企業が増えてきています。
今回は「DevRelをすべき企業はどんな企業か?」をテーマに解説しました。自分の会社、サービスがDevRelを行うべきか分かっていただけたでしょうか。もしやる必要がありそうだと感じたら、ブログなど簡単にできるものからはじめてみるのがお勧めです。