さまざまな角度からDevRelの歴史を紐解いてみよう

2022年5月26日(木)
中津川 篤司

はじめに

今回は、DevRelの歴史を振り返ります。前に触れた通り、DevRelという単語は2014年以前は聞かれない単語でした。色々と探した結果、Googleブラジル辺りでDevRelという単語が使われているのを発見した程度です。当時、既にエバンジェリストと呼ばれる方たちはいましたが、マーケティング部やデベロッパープラットフォーム部などの一員として活動されていたようです。

そんなDevRelですが、歴史を紐解くと関連した情報が色々と出てきます。今回はそんなDevRelの歴史を複数の角度から振り返っていきます。

エバンジェリスト・アドボケイトの歴史

DevRelという単語自体が知られるようになったのは、2014年くらいからになります。しかし、それ以前から開発者向けのマーケティングは行われており、その中核を担う存在としてエバンジェリストやアドボケイトと呼ばれる人たちが存在しました。どちらも本来は宗教系用語で、技術界隈ではテクニカルエバンジェリストやデベロッパーアドボケイトと呼ばれます。

DevRelに関するグローバルなカンファレンスとして「DevRelCon」がありますが、DevRelCon San Francisco 2016において、最初に登壇したJosh Marinacci氏のテーマが「History of developer evangelism」でした。エバンジェリスト(日本語では伝道師の意味)の活動、つまりエバンジェリズム(エバンジェリスト活動)の歴史について振り返るセッションです。

「History of developer evangelism」より。William Sellers氏の紹介

History of developer evangelism」より。William Sellers氏の紹介

エバンジェリスト活動の歴史は1700年代に遡ります。もちろん当時はコンピュータが存在しないので、ネジに関する活動だったようです。様々なメーカーが色々なタイプのネジを作る中、William Sellers氏が各社に働きかけて共通規格を作りました。彼の発明したセラーズねじはネジの共通規格として提案され、全米機械業界の標準になっています。こうした標準として採用されるための活動がエバンジェリズムの始まりであるというお話しです。

同様にデベロッパーアドボケイトについても語られています。最初のデベロッパーアドボケイトはLucy Maltbyという方のようです。

「History of developer evangelism」より。ガイ=カワサキ氏の紹介

History of developer evangelism」より。ガイ=カワサキ氏の紹介

こうしたエバンジェリストやアドボケイトはコンピュータ業界の中でも取り入れられました。そして、特に有名なエバンジェリストとしてガイ=カワサキ氏が紹介されています。投資家としてとても有名で様々な著書もあるため、もしかすると名前を聞いたことがあるかも知れません。ガイ氏はMacintosh時代のApple(当時はApple Computer)のエバンジェリストで、MacOS(当時の名称)の魅力を外部のソフトウェア開発会社に宣伝する役割を担っていました。Photoshopなどは当初MacOS向けにしか提供されていなかったので、こうした開発者や開発会社への啓蒙活動がエバンジェリストの大きな役割になります。

ちなみに、筆者の会社が主催するDevRelCon Tokyoで、一度ガイ=カワサキ氏をキーノートスピーカーとして招聘しようとしたことがあります。条件面で折り合いが付かず断念したのですが、メールでやりとりさせてもらいました。とても優しいメッセージをいただいたのが思い出深いです。

コミュニティの歴史

筆者がDevRelという単語に出会ったのは2014年2月です。そして、DevRelをサービスとして提供しはじめたのが2014年3月です。当時は誰もDevRelという単語を知らなかったので、毎回説明からはじめなければなりませんでした。説明に約20分を費やし、ようやくDevRelとは何かを理解してもらった上で、筆者が何をしているのかを説明するといった具合です。しかし、これではとても時間がかかりすぎるので、コミュニティを立ち上げようと考えました。

単語を宣伝するなら広告を打つ方が早いように感じますが、DevRelが対象とするような方たちは広告を見てくれません。ブログを書いて喧伝する方法もありますが(実際行っていましたが)、そもそもDevRelという単語が知られていなければ検索数もたかが知れています。1人でいくら騒いでも、誰も見向きもしてくれないのです。

「注目を集め、新しいトレンドを知ってもらうこと」を分かりやすく例えると、キャンプファイヤーに似ています。暗闇の中に明るいキャンプファイヤーがあれば、みんなが見てくれて、さらに近寄ってきてくれます。そのためにはまず火起こしが必要なのですが、1人で騒いでいるのはいわばマッチだけ持っている状態です。火を付けるには、火口(火が付きやすい植物など)や枯れ草、小枝など、火のステージに応じて素材が必要です。そうした素材を自分だけで集めるのは難しいので、複数の人たちと一緒に作り上げるのが一番早い方法になります。それがコミュニティです。

DevRel Meetup in Tokyo #1の様子。今はなき渋谷のConnecting The Dotsにて

DevRel Meetup in Tokyo #1」の様子。今はなき渋谷のConnecting The Dotsにて

DevRelにおいても1年ほどは1人で活動をしてきたのですが、広がりを強化しようと考えて立ち上げたのが「DevRel Meetup in Tokyo」です。2015年9月から毎月勉強会を行っており、2022年5月現在で70回を超えるイベントを実施しています。コロナ禍前は企業のイベントスペースを借りて行っていましたが、コロナ禍ではオンラインで行っています。最近はオンラインとオフライン、両方を組み合わせたハイブリッド形式でのイベントを実施しています。

DevRel Meetup in Tokyoは日本のコミュニティですが、アジアを中心にDevRelを広めるためシドニー、台北、バンガロール、シンガポールなどでもDevRel Meetupを立ち上げました(筆者が主催しています)。コロナ禍前にはバンガロールでのイベントで現地のAWSにイベントスペースを借りて行っていましたが、それぞれの土地ならではの面白さがあってとても楽しいです。

DevRel Meetup in Bangalore #1の様子

「DevRel Meetup in Bangalore #1」の様子

海外でのDevRelコミュニティ

筆者は参加したことがありませんが、海外にも多くのDevRel関連イベントが開催されています。いくつか紹介しましょう。

この他にも散発的なイベントがいくつかありますので、興味があれば現地に住んでいる方や旅行で各地を訪れる機会がある方は参加してみると良いでしょう。

DevRel自体はまだまだ規模も小さく、エバンジェリストやアドボケイトといった職種もありふれたものではありません。それだけにコミュニティメンバーの結びつきは強く、DevRelに関わる職種の方であれば誰でもすぐに打ち解けられる雰囲気があります。多くのエバンジェリストやアドボケイトはコミュニケーションスキルが高いので、あっと言う間に仲良くなれるはずです。私自身、誰も知らない状態でDevRelCon London 2015に参加したところから海外での知り合い作りをはじめましたが、今では様々な国の人たちと交流があります。DevRelを共通コンテキストにすることで、コミュニケーションの敷居がとても下がっているのです。

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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