Linux Foundationが「2021年版 Hyperledgerブランド調査」レポートを公開
こんにちは、吉田です。今回は、Linux Foundationが公開した「2021年版 Hyperledgerブランド調査」レポートについて紹介します。
2021年後半から急速に注目を集めているキーワードとして「Web3.0」があります。新しいインターネットのあり方を示す概念ですが、その中でブロックチェーンが大きな役割を果たしていくことになります。
Web3.0の特徴
ここで、少しWeb3.0について説明します。「Web1.0」はいわゆる黎明期のWebを表しており、情報の伝達が一方向であることが特徴です。これが2000年代半ば以降の「Web2.0」になるとTwitterやFacebookなどのSNSが広がり、情報発信が容易になると共に、それらの情報に反応し、双方向のコミュニケーションが実現できるようになったことが特徴でした。では、Web3.0の特徴は何でしょうか。一般的には「分散」と「トラストレス」だと言われています。この分散とトラストレスを支える技術がブロックチェーンということになります。
また、従来のブロックチェーンの実装例としては「暗号通貨」が有名でしたが、最近これに加えて「NFT」が登場してきました。NFTは「Non-Fungible Token」の略で、日本語では「非代替性トークン」という意味になります。これは、ブロックチェーンの技術を使って「替えが効かない唯一無二のもの」を証明することを意味します。今までは自由にコピーできたデジタル資産が、NFTを活用することでその所有権を明らかにできます。このNFTが近頃話題の「メタバース」で重要な役割を果たすことになるそうですが、ここでは詳細を説明しませんので、興味のある方はご自身で調べてみてください。
「2021年版 Hyperledgerブランド調査」とは
業界の壁を越えたブロックチェーン技術の進化をめざして、2015年にLinux Foundationの傘下のプロジェクトとして発足した「Hyperledger Project」は、Linux Foundation Researchと連携してブロックチェーン技術、Hyperledger理念、個々のフレームワーク/ツールの理解度を測定し、エンタープライズブロックチェーンの現状を把握するために実施した調査結果を公開しました。
【参照】「2021年版 Hyperledgerブランド調査」レポート公開
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2022/03/japanese-version-of-hyperledger-brand-study/
「ブロックチェーン技術を表すのに最も適切なものはどれですか?」という設問に対する回答は表1のようになっています。
比率 | 項目 |
---|---|
41% | 複数の企業が安全にやり取りできる分散データベースを構築するために利用できるコンポーネント |
28% | 過去のトランザクションを参照するトランザクション データのグループ(ブロックをつなげることにより、監査可能な履歴を構成する |
26% | 複数の主体の間で共有可能な、暗号学的データ構造 |
3% | ビットコイン |
1% | 最終的には銀行に取って代わるネットワーク |
1% | わからない |
0% | 法規制や司法当局から逃れるためのツール |
ここからわかるように、「ブロックチェーン」=「ビットコイン」という認識が非常に少数になってきており、代わりに「分散」というキーワードが重要な意味を表すようになってきています。これは、先ほど紹介したようにブロックチェーンの適用領域が広がりつつあることの証明であるように思われます。
次に、ブロックチェーンの採用状況を見てみましょう。「評価中」を含めるとおよそ6割でブロックチェーン技術が採用されていることがわかります。
また、開発/利用している(するかもしれない)ブロックチェーンアプリケーションの種類は表2のようになっており、金融サービスで活用されることが最も想定されています。この金融サービスには「支払い、決済」の他にも「財務/監査/会計」などが含まれます。当初から金融サービスでの利用は想定されていましたが、活用領域としての意識にはあまり変化がないのかもしれません。
種類 | 比率 |
---|---|
金融サービス | 43% |
サプライチェーン | 39% |
アイデンティティ | 33% |
教育、研究 | 26% |
行政、法律 | 22% |
ヘルスケア | 20% |
電力、天然資源 | 16% |
非営利、ソーシャルインパクト | 13% |
モビリティ、交通 | 13% |
メディア、エンターテインメント | 12% |
その他 | 7% |
ブロックチェーンの成長のスピードに関しては、表3にもあるように今後2年間で急速に成長すると約半数が回答しており、急速に広がっていくことが予想されます。
項目 | 比率 |
---|---|
急速に成長する | 52% |
ほどほどの速度で成長する | 35% |
ゆっくりと成長する | 9% |
変わらない | 1% |
ゆっくりと衰退する | 1% |
急速に衰退する | 3% |
次は、ビジネス用途のブロックチェーン技術の主な利点についての質問です。ここでも「分散」や「監査」といったキーワードが出てきているので、やはり今後の活用領域はこのような利点を生かしたところになるような気がします。
項目 | 比率 |
---|---|
個々の当事者が信頼できない場合にも責任追及可能性を向上できる、分散型データベース | 72% |
複数の参加者の間で信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth)を作ること、突合の廃止 | 68% |
監査可能性—追記のみ可能な監査証跡の生成 | 60% |
より高度なセキュリティを伴ったデータの共有のための機能 | 55% |
物品や取引のトレーサビリティによる品質保証 | 52% |
透明性と検証可能性を備えた台帳の記録を、共有エコシステムの中の全員で同期する、ソフトウェア標準 | 42% |
運用コストの削減 | 40% |
全体効率 | 28% |
新たな利益減の創出 | 19% |
わからない | 1% |
とは言え、順風満帆とは行かないのが一般的で、利用拡大における課題が表5になります。ここでは、基本的な問題として「技術の成熟度不足」が挙げられているので、更なる技術開発が求められるところです。また、既存ITシステムへの接続も大きな問題になると思われるので、ここも整備していく必要がある領域になります。
項目 | 比率 |
---|---|
技術の成熟度不足 | 58% |
レガシーな(既存IT)システムへの接続や併用が難しすぎる | 50% |
上層部への説明が難しい | 49% |
規制リスク(例:政府がどこで口出ししてくるかわからない) | 48% |
移行コストが高い | 34% |
規制が未整備 | 32% |
管理体制が不十分 | 24% |
力の集中 | 19% |
セキュリティリスク、ハッキング | 17% |
競合関係上の不安(例:秘匿性の欠如) | 14% |
統制の欠如 | 10% |
責任追及可能性のなさ | 6% | その他(記述してください) | 10% |
今回は、Linux Foundationが公開したブロックチェーンに関する調査結果を見てきましたが、我々にとって重要な技術になることは間違いないので、継続してウォッチしていきたいと思います。
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