KubeCon+CloudNativeCon EU 2022、3日間のキーノートを総括
Cloud Native Computing Foundation(CNCF)が開催するクラウドネイティブなシステムのためのカンファレンス、KubeCon+CloudNativeCon EU 2022が、2022年5月16日から20日にかけてスペインのバレンシアで開催された。今回はオンラインでの参加に加えてリアルに現地に参加者を集めての開催となった。
スペインではイベント開催直前に集会におけるマスク着用は必須ではなくなっていたが、事前にKubeCon EUでもマスク不要とすることをCNCFが告知した。しかしこの告知に対してコミュニティからは激しい反発が起きたことで、参加者は毎日の検温、マスクの着用が義務となった。
オープンソースソフトウェア関連のイベントではコミュニティの重要さは何度も強調されるところだ。CNCFという主催団体がマスク不要と決めたことに対して、コミュニティは参加者の安全を守るためには必要だとして反発し、CNCFの決定を覆させたことは「Community over Product」というフレーズが飾りではなかったことを思い起こさせる。
実際、KubeCon EUの直後の6月上旬にサンフランシスコで開催されたRSA Conferenceではマスク着用は推奨というレベルで開催されたが、その結果として多くの新型コロナ感染者を出し、スーパースプレッダーイベントと呼ばれているということは記憶に留めておくべきだろう。もちろんKubeConでも感染者は出ており、参加者にはメールで告知がされていたが、バレンシア市内の感染者比率と変わらない(つまりイベントが原因で増えていない)という理由で、安全性の方針やプロトコルに変更は起こらなかった。
今回のカンファレンスにはリアルでは約7000人が参加し、配信では1万人以上が登録、そのうち65%の参加者が今回初めてのKubeCon参加だと説明した。パンデミックを通じて、これまでの前提が大きく変わっていることを感じる数字だ。ここからCNNのコメンテーターがテレビ会議で登場、その後、現在も進行中のロシアによるウクライナ侵攻をテーマにコントリビューターが兵士として参戦していること、Razomというウクライナを支援する団体のスタッフが登壇してウクライナへの支援を訴えたことなどが続き、ソフトウェアやテクノロジーに関わる内容は語られなかった。
次に登壇したのはメルセデスベンツの子会社であるMercedes-Benz Tech Innovationの3人のエンジニアで、過去7年間、Kubernetesを利用してきた際のダウンタイムを排したアップデートに関する内容を語った。
2日目のキーノートはTwitterのJasmine James氏が登壇し、プロジェクトのアップデートを行った。過去のKubeConではプロジェクトのアップデートと言えば、インキュベーションプロジェクトの状態を概説するものだったが、今回はソフトウェアそのものではなくコアとなるKubernetesのプロジェクトのサブグループ、Steering Committee、SIG(Security、Node、Storage、Cluster API、Scheduling)を紹介するものとなった。個々のソフトウェアについては解説せずに、プロジェクトとしてどのようなサブグループが存在し、「その役割は何か?」「どの領域に興味が集まっているのか?」についていくつかのSIG(Special Interest Group)の概要を紹介した。これには理由があり、最終日にインキュベーションプロジェクトについては集中的に紹介を行うために、ここでは敢えてプロジェクトの骨格について解説するという内容となった。
この後に登壇したAppleのKatie Gamanji氏とShopifyのDave Zolotusky氏が、TAG(Technical Advisory Group)の概要を解説した。ちなみにSIGはTAGと改名されて今後はTAGと呼ばれるようになるはずだが、James氏とGamanji氏のセッションをその過渡期を表しているようだ。ここではTechnical Oversight Committee(TOC)よりも特定の領域についてユーザーが参加できる仕組みとしてのTAGを紹介している。Gamanji氏は前々職のConde Nast Internationalに在職していた時に、KubeCon EU 2019のキーノートに登壇し、プロンプターなしで見事なプレゼンテーションを行ったことが印象的だったエンジニアだ。Gamanji氏はConde Nastの後American Expressを経て今はAppleに所属している。
このセッションでGamanji氏はCNCFのプロジェクトに必要な要件として「オープンなガバナンスと透明性」「技術的に進歩することと相互運用性」「持続できること」を挙げて、それを可能にするためにTOCそしてTAGが存在することを説明した。またZolotusky氏はCNCFのサンドボックス~インキュベーション~グラデュエーションという3つの段階を経てプロジェクトが進化することを説明し、特に重要と思われる領域についてはTAGを設置して、その中で議論を行うことで技術的に正しい選択ができることを目指しているという。
そしてテクノロジーに対しては、ベンダーは革新を追求しがちだが、エンドユーザーにとっては拡張性がより重要で、コミュニティは相互運用性を重視してオープンなテクノロジーを標準化することが大事だと説明した。また俗にいう車輪の再発明についても、何かをゼロから書き始める前に周りの状況を確認することが重要であると説明した。
3日目のキーノートからはRed HatのJosh Berkus氏とBuoyantのCatherine Paganini氏が登壇し、TAG-Contributor Strategyについて解説したセッションに注目したい。このセッションでは前日のKatie Gamanji氏らによるベンダー主導ではなくエンドユーザー、コミュニティが参加することでプロジェクトが透明であることが重要だと訴えたことを受けて、ではどうやって具体的に活動すれば透明でオープンなガバナンスができるのか? またコントリビューターを集められるか? を解説したものだ。
「Nurturing The Whole Project」というタイトルが示すように、オープンソースプロジェクトが参考にするべき組織やテンプレートとして使える組織運営の要点が解説されている。特徴的なのは、まずマーケティング的な発想でプロジェクトを認知してもらった後にユーザーを育てて発掘し、その後でコントリビューターをリクルートするという順番を明確に示していることだ。同時にコントリビューターを増やす前にガイドブックを作成し、誰もがコントリビューターとして参加できるようにすることが重要だと解説した。
オープンソースプロジェクトにとってどうやって創始者以外のメンバー、特にコードの貢献を行ってくれるエンジニアを集めるのか? は頭が痛い問題だが、CNCFの成功をテンプレートにすることでかなりの不安要素は取り除くことが可能だというのがこのセッションの目的だ。
このセッションやサイトを見てわかるのは、CNCFがもっと多くのオープンソースプロジェクトがCNCFに参加することを希望しているし、そのためのサポートは惜しまないと明確に宣言していることだろう。
会期の最終日とはる20日のキーノートではインキュベーションプロジェクトのアップデートをJasmine James氏、CERNのRicardo Rocha氏、AppleのEmily Fox氏が行った。
多くのプロジェクトがスライド1枚ごとに紹介されたが、MicrosoftがKubernetesによるデベロッパーの負担を減らすためのプラットフォームとして開発を推進しているDaprも紹介されていた。
Daprについては2021年6月に公開した以下の記事を参考にされたい。
参考:Dapr 1.0で知るMicrosoftのガバナンス意識の高さとは?
全体的にテクノロジーの話は抑え気味に、ウクライナへの支援を最初に持ってきてオープンソースと社会との関わりについて語り、その後、プロジェクトの運営や仕組み作りについて何度も繰り返すように解説していたことが印象に残った3日間のキーノートであった。
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