連載 [第31回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

LFがOSPOのビジネス価値を調査したレポート「The Business Value of the OSPO」から読み解くOSPO設立の動機と役割

2023年4月28日(金)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、2023年3月にLinux Foundationが発表した、オープン ソース プログラム オフィス(OSPO)がビジネスの観点からなぜ価値があるのか調査したレポート「The Business Value of the OSPO(OSPOのビジネス価値)」を読み解きながら、OSPO設立の動機や役割について紹介したいと思います。

【参照】The Business Value of the OSPO
https://www.linuxfoundation.org/research/business-value-of-ospo

OSPOとは

レポートの内容に入る前に、OSPOについて説明します。OSPOは、Linux Founadtionが2022年に公開した「深層考察:『オープンソース プログラム オフィス』組織構成、役割、責務、および課題」に、その定義と責務について記述があるので、引用します。

【OSPOの定義】
OSPO は、次のことを行うように企図されています。

  1. 組織のオープンソース運用とその組織のコンピテンシー センターになること
  2. 組織のオープンソース活動の戦略と一連のポリシーを設定すること。これには、コードの使用、配布、選択、監査などのポリシーの設定、開発者のトレーニング、法令遵守の確保、組織に戦略的利益をもたらすコミュニティへの参加促進とその構築などが含まれる

【OSPOの責務】

  1. オープンソース戦略の確立と実行
  2. オープンソース コンプライアンスの管理
  3. オープンソースのポリシーとプロセスの確立
  4. アップストリーム オープンソース開発を優先順位付けし、それを推進オープンソース組織との協力
  5. パフォーマンス指標のトラッキング

このレポートはヨーロッパ、アジア、北米から、2つの大学を含む様々な業種の12人のOSPOリーダーにインタビューを行った結果をまとめたものです。オープンソースと組織との関係は、その組織のタイプによって異なります。このレポートでは、テクノロジー企業、エンドユーザ企業、大学と大きく3つのカテゴリーに分けてそれぞれのOSPOの価値について考察しています。

テクノロジー企業の場合は、オープンソースと自社のビジネスが直結していると考えるのが一般的なので、OSPOはビジネス上大きな役割を担うことになります。とはいえ、トップダウンのリーダーシップで一方的に設立するものではなく、社内のオープンソースを好む技術者の双方のニーズを満たす形でなければ成立しません。

次に、純粋なテクノロジー企業ではないが、テクノロジー企業で起きていることを追随しようとするテックフォーワードな企業があります。これらの企業では、現状オープンソースがビジネスの中核と密接な関係があるとは言えませんが、今後新たな収益源を生み出すためにテクノロジー企業として認知されたいという願望を持っています。これらの企業にとって、オープンソースへの貢献などが自社への印象を変えるためにOSPOの設立は重要であり、高品質のソフトウェアをより速く提供するための組織の能力を向上させることになります。

大学の場合は、少し状況が違います。今まで、大学発と考えられていたオープンソースは、現実的には学生や研究者個人のものであり、組織のものではないということです。今後は、オープンソースプロジェクトを作成する学生や研究者を支援し、より多くのプロジェクトが研究プロジェクトから、より広いエコシステムで使用されるようにするための方法を提供するべきだと考えているようです。

OSPOが提供する価値

OSPOが提供する価値は、2つのフェーズに分けて見ていく必要があります。1つは「OSPOを設立した理由」で、もう1つは「OSPOが成熟する過程で組織が見出す価値に関するもの」です。

OSPOを設立する一番の理由は、自社のエンジニアがオープンソースを使用していることは認識しているが、ライセンス条件を遵守しているかは分からないため、組織的かつ集中的に取り組む必要があることです。また、潜在的なセキュリティ問題を管理する必要もあります。ドイツ鉄道のデジタルパートナーであるDB SystelのCornelius Schumacher氏は「リスク管理がOSPOを設立した唯一の理由ではないが、重要な決定事項であることは間違いない」と語っています。

コンプライアンスに関連して、オープンソースプロジェクトを利用する際に、アドホックな対応からより標準化されたプロセスへと移行する必要性もしばしば見られるようです。同じことを実現する複数のプロジェクトが存在しないようにすることが重要で、これらの依存関係を合理化することもOSPOの設立理由の1つだと言えると思います。

また、エンジニアがオープンソースを利用するための標準的なプロセスを構築することに加え、エンジニアがオープンソースプロジェクトに貢献したり、独自のプロジェクトを立ち上げたりするための標準的なプロセスを構築する必要もあります。このようにオープンソースの利用と貢献の両方に関するポリシーを作成し、組織の中で周知することが重要になります。

OSPOのその他の重要な責務

組織の評価を上げることもOSPOを設立する重要な動機になっているようです。業界の他の人々と生産的に仕事をし、重要なプロジェクトの方向性に関する会話に参加できるようになります。評価を高めることで「テック業界におけるより大きなマーケットでの会話に参加でき、そこで自分たちにとって重要な製品やソリューションに影響を与えられる」と考えている人もいるようです。

また、人材の採用にも大きな影響を与えることができます。オープンソースの世界での一般的な評判を高めているか、あるいは独自のオープンソースプロジェクトを立ち上げ、そのプロジェクトのコミュニティで活動する、より優秀なエンジニアを採用できるようになります。中には「私の上司やエグゼクティブ・スポンサーは、オープンソース・コミュニティから採用する必要があるため、当社がオープンソース・コミュニティと健全な関係を築いているか知りたがっている」という企業もあります。

このように、OSPOを設立することの必要性や役割、そこから副次的に生まれるメリットのようなものまで網羅されたレポートなので、丹念に読み込むことで読者の組織にも良い影響をもたらすことになると思います。

最後に、オープンソースに対する考え方が「『オープンソースを使うか使わないか』から『オープンソースを戦略的にどのように活用するか』」へと変化するようならば、このレポートを紹介した意味があることになるかも知れません。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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