連載 :
  インタビュー

多言語化を手がけるWOVN、Zuoraへの導入事例と次世代製品への展望を紹介

2020年7月1日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Webサイト多言語化プラットフォームを提供するWOVN Technologiesに、Zuoraへの導入事例と次世代製品への展望を訊いた。

Webサイトの多言語化プラットフォームを開発するWOVN Technologies株式会社(以下、WOVN)はZuoraのドキュメントサイトにWOVNの翻訳ソリューションが導入されたことを発表した。これは2020年6月4日に同社サイトにて公開されたリリースで明らかになったものだ。今回はこの発表を受けて、WOVNのCEOの林鷹治氏とCOOの上森久之氏にインタビューを行った。

Zoomでインタビューに応えるWOVNのスタッフ

Zoomでインタビューに応えるWOVNのスタッフ

今回、Zuoraでの採用が決まったということですが、その概要を教えて下さい。

林:Zuoraはサブスクリプションを推進するためのプラットフォームを提供する企業ですが、これまでテクニカルな情報は英語だけで掲載されていました。それを日本語化したいということで話がまとまったということですね。

上森:実際にインターネット上で使われている言語の中で英語が占める割合というのは25%程度しかないんですよね。これは調査会社のデータを元にした値です。英語の次に多いのは、中国語というくらいですね。

インターネット上の言語の非英語率は75%

インターネット上の言語の非英語率は75%

インターネット上では英語は多いように見えてそれでも4分の1程度ということですか。

上森:そうです。WOVNの企業理念である「世界中の人が、全てのデータに、母国語でアクセスできるようにする」というのはここからきているわけです。

最近はDeepLなど新しい機械翻訳ソリューションも出てきました。WOVNとの比較は?

林:WOVNの翻訳バックエンドは実際にはGoogleの機械翻訳や他のクラウドサービスだったりするので、比較するという対象ではないかなと思います。我々のアーキテクチャーではバックエンドを入れ換えられるようになっていますので、DeepLがAPIから呼び出せるようになっていれば組み込むことは可能になると思います。

上森:単純に機械翻訳だけを使って翻訳すると、固有名詞や固定したい言葉が翻訳されちゃったりするので、それをちゃんと設定して変な翻訳をしないようにするというような細かい設定が必要になります。その点Zuoraの場合だと「Subscription」は「定期購読」みたいな日本語に訳して欲しくなくて「サブスクリプション」というカタカナにしたいというのをちゃんと実現できています。そういう用語集、コーパスをちゃんと設定できるというのが実際の翻訳では重要なんです。

今回、WOVN.appというものが同時にリリースされていますが、これについても教えて下さい。

林:WOVN.appはスマートフォンアプリケーションを開発する際に組み込んで利用するもので、アプリケーションデベロッパーを対象にしたツールですね。これはスマートフォンのアプリをそれぞれローカライズするのではなく、SDKを組み込むことで、例えば英語の画面が瞬時に日本語に変わる、つまり翻訳を行うというものになります。

WOVN.ioがWebサイトの多言語化プラットフォームだとすると、これはスマホアプリの多言語化プラットフォームということですね。

林:そうです。WOVN.appの強化したポイントとしては、オフラインでも利用できるようにしたことですね。これは地下鉄の中などで、インターネットにつながらないような状況でも翻訳が動いて欲しいというニーズを形にしたものになります。

Webサイトの制作フローは企業によってはさまざまな形態があるでしょうし、GitHubなどのソースコードリポジトリーで管理するような場合もあると思います。そういうワークフローの中にWOVNは組み込むことが可能なんですか?

林:WOVNはWebサイトのHTMLがレンダリングされる段階で翻訳を行うという仕組みになっています。そのため、いわゆるソフトウェア開発で用いられるCI/CDのようなワークフローの最後に組み込んでもらうという感じですね。

そうするとページ単位にスクリプトを埋め込む感じですか?

林:そうなります。実際には1行だけ追加してもらう形でサイト全体の翻訳が可能になります。

ユーザーによっては全体をやるのではなくアクセス解析などからの結果を元に重点的に翻訳したい部分を選ぶみたいなことは可能なんですか?

林:現在のところ、従来型のアクセス解析ツールとの連携はありませんが、WOVNの中でアクセス解析はできるようになっています。例えばどの国からアクセスされているのか? などについてはWOVNの中でわかるようになっています。これはまだユーザーには公開されていませんが、将来的にはダッシュボード的に使えるようにしたいと思っています。

将来の構想で公開できる内容のものがあれば教えて下さい。

林:今はページにスクリプトを入れて翻訳を使う形ですが、将来的にはProxyのようにあるサイトへのアクセスを中継することで自動的に翻訳するアーキテクチャーにしたいと考えています。これは発想的にはCDN(Content Delivery Network)と同じものですね。

AkamaiやCloudflareがコンテンツをキャッシュして高速化する発想で、コンテンツを翻訳してユーザーに届けるみたいなやり方ですね。

林:そうです。そうするとユーザーは自分が欲しい言語にもっと効率良く翻訳できるようになりますし、利用する企業も変更が少なくて済むわけです。

上森:ビジネス的には英語と日本語というだけではありません。冒頭で紹介したように、世界にはさまざまな言語があってそれらを使いたいユーザーも企業も存在しているわけですよね。なのでZuoraが今回はユースケースになりましたけど、FAQサイトなどのドキュメントサイトをもっと他の言語やECサイト、ゲームアプリなどの翻訳にも拡げていきたいと思っています。

Webサイトの多言語化に留まらずにスマートフォンアプリの多言語化まで事業の拡張を続けるWOVNだが、自社のスタッフの国籍が20ヶ国を超えるようになったということも受けて、さまざまなユースケースへの応用が進んでいるという。

国際化が進んでいるWOVNのスタッフ

国際化が進んでいるWOVNのスタッフ

日本での事例も大手からベンチャーまで多彩であることは、多言語化というニーズが顕在化していることの現れだろう。

WOVNの日本国内の導入事例

WOVNの日本国内の導入事例

今後、人工知能を使った自動翻訳の市場にはGoogleやMicrosoft、中国のAlibaba、Tencentなどが参入し、拡大を続けるだろう。これから先は、いかに既存のシステムにスムーズに組み込めるか? この辺りが企業ユーザーにとってのポイントとなろう。ベンチャーながら、新しいアーキテクチャーへの移行も視野に入れて投資も拡大しているというWOVNに注目していきたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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