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  月刊Linux Foundationウォッチ

LF Researchが、オープンソースの動向等に関するグローバルな調査レポート「Global Spotlight 2023」日本語版を公開

2024年1月31日(水)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、LF Researchの調査レポート「Global Spotlight 2023」日本語版を紹介します。このレポートは、2022年に公開された「World of Open Source: Europe Spotlight」が、好評だったこともあり、調査対象地域をグローバルに広げる形で2023年初めに着手したレポートです。

【参照】Global Spotlight 2023
https://www.linuxfoundation.jp/jp-2023-world-of-open-source-global-spotlight

データ収集は、2023年4~6月にかけて実施され、人口統計、オープンソースの利用および貢献の現状、オープンソースの利用および貢献の利点と課題、オープンソースの価値提案、オープンソースの持続可能性といった分野の質問が含まれています。また、地域的には、下図にあるようにさまざまな地域からのデータを集めることができ、偏りがないように見えます。

【出典】「Global Spotlight 2023」
2023_WoOSGS_Worldwide_101923_jp.pdf p.8

今回の調査によると、世界中の組織がオープンソース ソフトウェア(OSS)を広く採用しており、調査対象組織の90%以上がオープンソースを使用していることが明らかになっています。アジア太平洋地域の組織もオープンソースを広範に使用していますが、その割合は84%と世界平均に比べて少し低くなっています。さらに、今回の調査では73%もの組織がオープンソースに積極的な姿勢を示しており、OSSの採用を積極的に奨励しているか、開発チームが決定できるようにしていますが、ヨーロッパ地域は77%と世界平均を上回っています。しかし、OSSへの貢献に関しては約60%の組織がオープンに奨励するか、各開発チームの判断に委ねています。オープンソースプログラムオフィス(OSPO)のような体系的なアプローチが、各地域で半数以上の組織で欠如していることを表しています。

【出典】「Global Spotlight 2023」
2023_WoOSGS_Worldwide_101923_jp.pdf p.9

次に、OSSの価値についてですが、OSSが自社の業務や各業界にとって大きな価値があることを認識している組織は、南北アメリカでは90%以上、ヨーロッパでは90%近く、アジア太平洋地域では73%という結果が出ました。また、OSS利用のメリットがコストを上回る組織を評価した場合の世界平均は69%で、最も高い割合はヨーロッパの77%と報告されています。南北アメリカとヨーロッパではOSSから得られるビジネス価値が上昇傾向にあり、57%が前年より増加したと回答しています。一方、アジア太平洋地域は、現在70%程度と価値の認識で若干遅れをとっていますが、価値の高まりに関しては、他の地域よりも価値の上昇について多くの回答があり、同地域の勢いが増していることを示していると言って良いでしょう。

【出典】「Global Spotlight 2023」
2023_WoOSGS_Worldwide_101923_jp.pdf p.10

また、安全性という観点では、OSSはクローズドソースソフトウェアよりも安全であるという考え方が一般的(回答者の68%が同意)ですが、OSS利用を制限する要因については「OSSコンポーネントのセキュリティについて懸念」を回答者の42%が挙げています。これは、OSSは全体的に安全であると認識しているが、特定のコンポーネントやプロジェクトに疑念を抱いている可能性があることを示唆しています。新しいOSSコンポーネントを評価する場合、時間のかかるソースコードの直接的なチェックを行う代わりに、下図にあるような活動レベルやリリースの頻度などの情報をチェックするなどの代替手段を活用しています。

しかしながら、自動化ツールのような時間のかからないアプローチも、この評価プロセスではまだ一般的ではなく、36%の組織しか採用されていないようです。

【出典】「Global Spotlight 2023」
2023_WoOSGS_Worldwide_101923_jp.pdf p.15

次に、オープンソースの利用に関して利益とコストに関して、興味深い内容が含まれていましたので紹介します。

下図のように、ほとんどの地域でメリットがコストを上回ると回答していますが、欧米に比べてアジア太平洋が低くなっています。前述したように、アジア太平洋では、まだOSSの価値について認識されていないことが反映されているのかもしれません。

【出典】「Global Spotlight 2023」
2023_WoOSGS_Worldwide_101923_jp.pdf p.18

OSS利用のメリットをもう少し詳しく見てみると、下図のように「生産性の向上」や「ソフトウェア所有コストの低減」「ソフトウェアの品質の向上」が大きな割合を示していますが、これらは、これまでよくメリットとして語られてきたことです。ここで興味深いのは「組織をより働きやすい場所にする」の割合が多くなっていることです。OSSを利用することで職場の活性化にプラスの影響を与えることができるというのは、人材を確保するためにも重要な情報になると思います。直接的なソフトウェアに関するメリットの他にも組織戦略にも影響を与えられるということを考えても、現代のビジネス戦略にもOSSが大きな影響を与えると言っても過言ではないでしょう。

【出典】「Global Spotlight 2023」
2023_WoOSGS_Worldwide_101923_jp.pdf p.19

最後に、OSSの持続可能性についての記述がありましたので紹介します。OSSの持続可能性で議論されるのは「貢献」に関する問題です。貢献がなければ、不具合が発見されても対応できませんし、新しい機能を追加することもできません。しかしながら、この貢献を阻む要因も下図のようにいろいろと存在しています。

【出典】「Global Spotlight 2023」
2023_WoOSGS_Worldwide_101923_jp.pdf p.22

よく話題になる「知的財産の流出に対する恐れ」や「法的およびライセンス上の懸念」は当然のように上位に入っていますが、38%が「方針やトレーニング資料の不足」を挙げていることを考えれば、明確に定義されたガイドラインや教育リソースが必要なことが分かります。また、金銭的な見返りがないことも障壁になっています。このような障壁を乗り越えたところにOSSの持続可能性が達成されるということになります。

このように、OSSの利用と貢献についてさまざまな角度から分析したレポートなので、ぜひ、現状を理解するためにもご一読いただきたいと思います。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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