IT分野における日本と海外の人材マネジメントの違いとは? LF Researchが「2024年 技術系人材の現状レポート」を公開
こんにちは、吉田です。今回は、Linux Foundationからリリースされた「2024年 技術系人材の現状レポート」について紹介します。
【参照】LF Research調査レポート「2024年 技術系人材の現状レポート」を公開
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2024/07/japanese-version-of-2024-state-of-tech-talent-report/
このレポートは、2023年12月から2024年2月にかけて実施された調査で、IT分野におけるグローバルな人材マネージメントの実践状況を把握することを目的としたものです。調査データは、業界別にITベンダーおよびサービス プロバイダー、非営利団体、学術機関、政府機関から収集しています。また回答者の業種は多岐にわたり、企業規模も大小さまざまで、地域的にも南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋など複数の地域からデータを収集しています。
・スキルアップやクロススキリング
技術系の人材獲得について、従来は新しく採用することに注力していましたが、そのような方法では時間とコストがかかり、失敗することが多くなってきています。そこで、新たな取り組みとして、スキルアップやクロススキリングが注目されています。
下図では、採用(49%)だけではなく、クロススキリング(47%)やスキルアップ(43%)などのアプローチが重視されていることが分かります。クロススキリングとは技術スタッフのスキルセットを多様化させ、彼らが本来の専門性を超えた業務にも効果的に対応できるようにし、組織の柔軟性と回復力を高めることです。
下図では、スキルアップが戦略として重要視されていることを示しており、94%以上の組織がスキルアップと採用の両方が不可欠であると回答しています。また、スキルアップの方が採用より重要であると評価している回答者が多いことも興味深いところです。
では、具体的にどのような技術分野のスキルアップやクロススキリングが重視されているのでしょうか。下図にあるように、すべての技術分野でスキルアップやクロススキリングが重視されていることが分かりますが、ブロックチェーンやAI、ML、データ分析などの、より高度な専門能力が必要とされている分野では「コンサルタントを雇う」という選択肢がより重視されていることが分かります。
・生成AIは世界を変えるか?
現在、さまざまな場面で生成AIについて語られることが増えてきました。ここでは、技術者のマネージメントに与える影響について紹介したいと思います。
下図にあるように、生成AIによって18%の組織が生成AIを使い、人員を削減したことを示しています。また、2024年には27%が削減を予定しています。しかしながら、23%の組織は人員を増加すると回答しており、29%の組織では生成AIが人員増減に影響がないと予測しています。まだまだ、生成AIと人員削減の問題は、確定的ではないと言えると思います。
ところが、先ごろ公開された「2024年日本の技術系人材の現状レポート」によると、若干様相が異なります。下図にあるように、日本では、むしろ人員が「増加する」とした回答が「削減する」を上回っています。これは、既存の労働力を補完するものとして生成AIを活用するということだけでなく、AIの能力を導入することで新規採用労働力の効果を増幅させるという日本企業の独特な戦略的アプローチを反映しているように思います。
【参照】LF Research調査レポート「2024年 日本の技術系人材の現状レポート」を公開
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2024/05/launch-of-2024-state-of-tech-talent-japan-report/
では、具体的にどのような領域でこの生成AIを活用しているのでしょうか。下図にあるように、大半の組織がデータ分析と報告(45%)、次いでITインフラ監視(42%)、ソフトウェア開発(35%)で使用していることが分かります。これらは自動化が積極的に推進されている領域であることから、当然の結果であると言えます。一方「カスタマーサポートおよびヘルプデスクサービス」が意外に活用されていないという結果になっていますが、この領域は既に自動化がかなり進んでいることに要因があるかも知れません。
ここでも日本の生成AIのユースケースのトップ3は「インフラ監視」「ソフトウェア開発」「システム保守」の順になっており、日本は他の地域と少し異なっているようです。
・スキルアップは変化に対する解決策に
前述したように、生成AIのような新しい技術が登場してきたときは技術者をスキルアップすることで対応できるわけですが、スキルアップやクロススキリングには、そのようなメリットがあるのでしょうか。
下図にスキルアップやクロススキリングのメリットが挙げられています。最も効果があると考えられているのは、個人が獲得できる再配置可能な多様なスキルを獲得できること(40%)です。これは、キャリアアップの機会を提供し(40%)、若手スタッフの能力を高める(40%)のに有効であることが分かります。これらの複合的なメリットは、組織が変化に対して創造的にリソースを活用し、外部からの採用よりも人材育成を重視していくことのメリットを示していると言って良いと思います。
スキルアップやクロススキリングを実施するための課題が下図にまとめられています。最も重要なことは、継続的な学習のための環境を作り醸成すること(39%)で、新しい知識を実践的な応用に効果的に結びつけることの難しさ(35%)も、もう1つの大きな課題です。
また、トレーニングの間の業務の穴埋めを問題視している組織は少数派です(23%)が、戦略的な計画に沿ってトレーニングの手段を慎重に選択することで、これらの課題に効率的に対処することができます。
このように、技術系人材の獲得だけではなく、どのようにスキルアップをしていくか、またクロススキリングにより再配置可能な多様な人材を育成していくことが、今後企業にとって重要な戦略になるように思います。
本レポートは、今回紹介した内容よりも詳細に記述されていますので、興味のある方はご一読いただけると幸いです。
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