失敗は成功のもと、これが満点ロボットだ!
エレベータをガッシリ抱きしめよ
最終的にチームが考えたのが、相手の戦略、籠の向きに関係なく、かつ大会当日スペースエレベータの位置が若干ずれていても、クリアできる3つ目の戦略だ。
この戦略用にチームは図3(1)のロボットを開発した。このロボットの特徴は、第一に動きがシンプルであることだ。これまでは、1回のスタートで複数のミッションをロボットに行わせていたが、進む、戻る、曲がるを複数回繰り返す戦略は、どうしても最後まで精度を維持するのが難しく、ミッション完遂の確率が落ちてしまう。そうしたことも考慮し、チームはできるだけシンプルに、しかもすばやくクリアできる戦略を考えた。
まずにおい分子の回収と賢い薬のミッションを切り離し、スペースエレベータミッションだけをクリアするよう考えた。次にアタッチメントの交換時間を短くするため、アタッチメントの数を1つに減らした。そして、エレベータを上昇させるためのロックを外すアタッチメントを新たにゼロから開発した。このアタッチメントは、エレベータを抱きしめるように動く。この抱きしめる動きにより、左右2cm程度ぶれていてもミッションをクリアできるようになった。また、抱きしめることにより、ロボット自体の位置を補正することもできた。
僕たちとスペースエレベータのとの戦い
では、ここで中学3年生のメンバがどのようにして最終的なロボットに行きついたか、子供たちが書いたコメントを紹介しよう。
「FLL2006のロボット競技には9つのミッションがあるが、その中でも1つだけほかとは違ったものがある。そのミッションとは向かい合う2つのフィールドの間にある、スペースエレベータのことである。このミッションはスペースエレベータについているレバーを、向かい合うチーム両方が押すことによってクリアとなる。
このミッションの大きなポイントは、自チームがレバーを押すことに成功しても、相手が失敗すればエレベータが上がらず、得点できないということである。満点を狙う我がチームとしては、何とかして、『相手への妨害無しに』『自力で』『最小限の時間』でエレベータを上げたかった。
まず考えたのは、相手のフィールドにアームを伸ばして相手のレバーも押すという方法だったが、妨害になる可能性が高いと考えてやめた。そこで、エレベータのどこかに力を加えてロックをはずすことを考えた。
そうしてエレベータをいじりながら考えているうちに、エレベータの上の部分を引っ張ることで相手側のロックをはずせることに気づいた。
しかし、そこには大きな難関が立ちはだかっていた。エレベータの上の部分に力を加えるには、図3(2)のように長いアームが必要なのである。それがなぜ難関なのかといえば、エレベータに力を加えるには、レゴの部品は柔らかすぎたからである。かといって、アームを使わず、マシン自体を大きくすると、重くなって曲がれなくなるなど、いろいろな問題が出てくる。重量を確保しつつ、確実にエレベータを押す方法を考える日々は続いた。
そしてある日、私はなんとなくエレベータの周りを部品で囲ってみてひらめいた。そうして生まれたのが図3(3)の「ガッシリ抱きしめる方法」であった。
この方法をとると、やわらかいレゴの部品でもしっかり引っ張ることができるし、さらに抱きしめるときの補正のおかげで、ロボットが正確にエレベータの前に来なくても、ある程度の補正ができるようになった。こうしてエレベータを自力で上げるという作業を高確率で、しかも比較的早く遂行できるアタッチメントが完成した」
今回は、スペースエレベータミッションの対応について、チームがどのように考え、実行し、クリアしたのかを順を追って説明した。将来のFLLのメンター/コーチ候補の方々の参考になっただろうか?
このチームと一緒に活動していて、子供たちが難関に向き合う姿勢、試行錯誤を繰り返しながら、何度も何度もロボットを組み立てて試しては分解する、決してあきらめないその姿に脱帽した。大人の我々は手を下すことができないため、ただ見守り、時折アドバイスをするだけだ。子供たちは苦しみながらも、自分たちなりの答えを導き出すことを経験することにより、今までにない充実感と、自分の中に眠る無限の可能性に目覚めてくれたのではないかと思う。
ぜひ、機会があれば読者の皆さんも自分の子供、近所の子供たちを募ってこの素晴らしい大会に参加してもらいたいものである。
次回はいよいよ最終回であるが、複数のミッションをまとめて遂行するための戦略、途中で失敗した時にも得点の損失を最小限にとどめるようなリスク管理の戦略などについて紹介する。
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