世界に通用するロボットができるまで
いろいろな「不確実性」をどのように考えればよいか
これまでも折に触れて紹介してきたが、「不確実性」について子供たちがどのように取り組んだかを、ここで整理して紹介しておきたい。ここでいう不確実性とは、ある操作を行った際に生じる結果の「バラつき」を指す。特に、複数ミッションを行う際に1つのミッションを行う=物体に触ることにより、ロボットの位置・方向のズレが生じるため、次々と連続してミッションを行うことによってこのズレが蓄積し、最後には想定とは大きく異なった動きとなってしまう可能性がある。
子供たちが議論する際に描いた絵(図3)は大変印象的であった。直感的ではあるものの、非常にこの問題の本質を突いているように見える。
FLLにおけるロボット競技の活動を通して、子供たちは「不確実性の原因」と「それに対する打ち手」を苦心して考えた。実際には、同じアクションをして「結果が違う」ことがなかなか受け入れられずに苦労したようである。学校での理論が中心の理科の影響だろうか。「同じことをやって結果が違うのはその結果が間違っているからだ」という意見が大半であった。
「不確実性」を受け入れ、その原因を考えて可能な限り手を打っておくということは、実社会においても当てはまる考え方である。その「気持ち悪さ」を抱えながらも実際に何が起きているのかを観察して実験を繰り返すことにより自身で見つけた工夫であり、十分に評価に値するのではないかと思われる。
さあ、FLLに参加しよう
今回は、「コンテナ」ミッションへの取り組みを通じて、子供たちがどのように考え、何を学んだかを簡単に紹介した。実社会では「リスク管理」という分野に分類されるが、実際には「何が起きても、絶対に点がとれるようになりたい」という彼らの純粋な想いが作り出した工夫の集大成である。
あるチームは、事前の入念な実験と検討に基づき、リスクの少ない戦略を採用した。別のチームは、高得点を目指してリスクの高い戦略を採用するとともに、コンテンジェンシープログラムを用意することにより、リスク発生時の影響を最小限にとどめる工夫を行った。彼らがお互いに考えたことをぶつけながら、試行錯誤を繰り返し、ロボット、ソフトウェアを何度もあきらめずに作り直す姿は感動的であった。また、「楽しい」気持ちに突き動かされているときの彼らの「学びの早さ」は想像以上であった。
本連載ではこれまで、小中学生向けの科学教育プログラムである「FLL(FIRST LEGO League)」についてロボット競技を中心に参加体験を紹介してきたが、この連載は今回が最後である。組み込みシステム開発の視点から、FLLにおけるロボット用プログラム制御の技術的問題の解決について紹介した「LEGOから学ぶ組み込みシステム開発のキホン」と共にFLLのおもしろさを味わっていただけたであろうか。
FLLの理念は「活動を通して、アイデアを出し、問題を解決し、障害を乗り越える」こととされている。FLLに参加する子供たちは、ロボット競技を通して創造力を養い、ロボットのハード・ソフト技術を学ぶ。同時に、リサーチプロジェクトを通して指定テーマの学習を行う。また、チーム活動を通じて協調性、コミュニケーション能力やリーダシップ能力を、発表を通してプレゼンテーション能力を養うことができる。さらに、活動全体を通して、プロジェクト管理の一端についても体験できる。子供たちはロボットの製作や競技に際しては、わくわくしながら一生懸命取り組む。
「LEGOから学ぶ組み込みシステム開発のキホン」でも案内した通り、FLLの世界大会の1つである「FLL Open Asian Championship 2007」が来る4月27~29日の3日間千駄ヶ谷の東京体育館にて開催され、世界25カ国から60チームが参加する予定だ。
同大会では、動画投稿サービス「ClipLife」とマッシュアップした「動画ギャラリー」がWeb上に公開されており、運営事務局と各チームの投稿動画を世界中から閲覧できるようになっている。会場にでかけられない方もぜひ子供たちの活躍を応援していただければと思う。
またお子さんたちを誘ってFLLのロボット競技をご覧になり、参加している子供たちの生き生きとした様子や熱気を感じ取っていただきたい。その上で、9月に課題が発表される予定のFLL2008から、読者も子供たちに参加を促されることを期待して本連載を終了する。