APIマネージメントのKongがニューヨークで開催したKong API Summit 2025から、2日目のキーノートを紹介する。2025年10月15日、2日目の最初のセッションにて登壇したのは、Kongのプロダクト担当シニアVPであるReza Shafii氏だ。
Shafii氏はBEA、Oracle、MuleSoft、CoreOS、Red Hatなどのキャリアを経て2019年にKongに移ってきたベテランである。Red Hatが2018年にCoreOSを買収した結果としてRed Hatに異動してきたわけだが、ほどなくRed HatからKongに転職してきたことから考えると、将来性の面でRed HatのプロダクトではなくKongのAPI Gatewayを選んだということなのかもしれない。
Shafii氏はこのキーノートでAPIがエージェンティックAIによってどのように変わっていくのか? を訴求したかったように思える。タイトルは「Powering AI Native Applications: Kong's Vision for API Platforms, Agents&Beyond」、スタイルとしては複数の顧客を招いて対話し、Kongのエンジニアを登壇させてライブのデモを行いながら、KongのAPI管理プラットフォームKonnectとAIに関連する新機能を紹介するというものだ。
このスライドでは最下層に生成AIのモデル、その上にデータ、API、アプリケーションが重ねられており、Kongの視点では必ずAPIマネージメントのレイヤーが必須になるということを強調した形になった。
この図ではAPIのレイヤーにMCP(Model Context Protocol)が加えられており、LLMとアプリケーションロジックを繋ぐにはAPIレイヤーが必須であるということを何度も強調している。MCPと同様にEventと加えられているのは、Kong Event Gatewayによって分散メッセージングシステムのKafkaをAPIの管理対象としていることがその理由だろう。
このスライドではデベロッパーの視点からAPIを発見してアプリケーションに組み込み、最終的にガバナンスまでをAPIのレイヤーで行うことで、クラウドネイティブなシステムに実装されることを解説した。
Kongのプロダクトの主体はAPI Gatewayでありいわゆるデータプレーンのソフトウェアだ。それをAIに応用したのがKong AI Gateway、サービスメッシュであるKong Meshなども含めて包括的に管理するのがKong Konnectだ。Kong Insomniaはデベロッパーには使い勝手のよいツールだが、ここではポートフォリオの一部として紹介するまでに留められていた。
ここでKong Konnectの担当VPであるRoss Kukulinski氏を登壇させ、架空の企業であるKongAirのアプリケーションを開発するというデモを実施。
ここではKongAirのコンポーネントに含まれるAPIを生成AIによるチャットからポータルに表示させて見せたほか、Visual Studio Codeから実際に新しいAPIを組み込んで、アプリケーションをビルドして実行するという一連の作業を行って見せた。最後の部分でデモが動かなくなってしまったが、それもライブでデモをやっているというリアル感の一部と言えるだろう。惜しむらくは、進行が速い上に画面が小さく照明の影響で見にくかったことだろう。非英語圏の筆者にとっては追い付いていくのが難しいデモであった。
そしてKong Konnectに関連する新機能として、ポータルからMCPに接続する機能、MCPに対するメータリングと課金の機能などを紹介した。
特にMCPのインターフェースを組み込む機能とKongのサービスの中で実行する機能については、2026年の第1四半期に利用可能となると説明した。
その上で前掲の発見からガバナンスまでのデベロッパーワークフローの中に、新しい機能が組み込まれるのを解説。
ここではMCPを意識したAPIの発見からKong InsomniaによるMCPテスト、組み込みと実行がAI Gatewayを通して行われ、最終的にメータリングと課金までが可能になるということを解説した。
またKongが生成AIを使ってAPI関連の質問に答えるチャットボットのKAiもここで紹介した。これはKong KAiと呼ばれるAIアプリケーションで、Kong Konnectの中から発生したエラーの説明をするなど、システムを改善するための変更をアシストする機能を持っている。そしてこの機能はKongのCLIからも利用ができることも説明された。
ここでKAiに関連する新しい機能についてまとめて紹介。
KAiを実行するためのオブザーバビリティMCPサーバー、クライアント、CLIからKAiを使うための機能、Kong Konnectの中で発見したアラートをKAiに統合する機能などが解説された。
この他にもKafkaのイベントをKong Konnectで管理するKong Event Gatewayを紹介。これは2025年5月の時点ですでにプレスリリースされているソフトウェアで、Kongの日本法人のページにも記載があるので詳細についてはそちらを参照して欲しい。
●参考:Kong、イベントドリブン型アーキテクチャを実現する「Kong Event Gateway」を発表
これによりKafkaのデータ交換に関するガバナンスなどを、APIの形でKong Konnect上で管理できるようになるというのがこのソフトウェアの要点だろう。Kafkaは運用の難しさが常に話題になりがちではあるが、Kong Event Gatewayによって少なくともトピックの管理という点ではきめ細かな管理が可能になるということだろう。
一方でKafkaをホストするThe Apache Software Foundationのカンファレンスでは、Javaで書かれたKafkaはすでにレガシーなソフトウェアという扱いであることも確かだ。そのため、Kong Event GatewayにおいてもKafkaの次にRabbitMQをサポートするという。
全般的に多くの情報を詰め込んで生成AI、Kong的な言い方ではエージェンティックAIの時代でもAPIが重要であることは変わらないことを訴求したキーノートとなった。APIを使った開発やAPI自体の運用にコーディングアシスタントやオブザーバビリティのためのアシスタントが投入されたことは良い方向性だろう。Kafkaのトピック管理にゲートウェイが必要かどうかはケースバイケースだろうが、少なくとも分散メッセージングが大規模な分散システムに必須であることは変わらない。
Kafkaの代替として、多くのオープンソースプロジェクトが中国から続々と出てくる中で、何がリーダーシップを取れるのか、慎重に見極めているのかもしれない。