OpenStack専業のMirantis、日本代表が日本でのビジネス展開を語る
プライベートクラウド基盤のOpenStackが静かに浸透し始めている。フォルクスワーゲンが社内の基盤としてOpenStackを採用することを発表し、BMWやAT&T、WalMartなども導入を進めている。また日本でもNECやNTTグループのように社内のシステムエンジニアが積極的にOpenStackのコミュニティに関わってプロジェクトリーダーになる事例も出始めている。またレッドハットやシスコ、ヴイエムウェアなどの大手がOpenStackをパッケージ化して導入の促進を支援する動きをみせているし、日本でも仮想化技術株式会社のようなOpenStackに特化したブティックSIと呼ばれるプレイヤーが現れている。
そんな中、「Pure Play OpenStack Company」というキャッチコピーでOpenStackビジネスで欧米において抜群の存在感を示しているのがMirantisだ。Think ITでは2015年のOpenStack Summit TokyoにおいてCEOのボリス・レンスキー氏、ミランティス・ジャパン合同会社のリージョナルディレクターの下平中氏にインタビューを行った。2016年の初頭には日本での戦略を発表するということだったが、今回、下平氏と2015年12月にミランティスとの提携が発表された株式会社エーピーコミュニケーションズのシステム基盤エンジニアリング事業部事業部長の嘉門延親氏に2016年の戦略について話を聞いた。
--昨年発表されたエーピーコミュニケーションズ(以下、APC)さんとの提携が発表されましたが、APCさんとはどういう会社なのか、ミランティスとしてどう協業するのか、についてお聞かせください。
下平:ミランティスとしては日本の市場でまず大きな案件を取りに行く、ということで実際のシステムの提案やコンサルティングに関してAPCさんと一緒に活動しているということになります。
嘉門:我々は独立系のシステムインテグレーターとして、主に通信事業者向けに受託開発や派遣という形で仕事をしてきました。今回は、ミランティスのボリスさんや下平さんなどと打ち合わせを重ねて一緒に日本でやっていこうということを決めたという感じです。我々は独立系ですので、なにか決断する時はもの凄く速いんですね。その辺がミランティスさんとも合っているところかなとは思います。ミランティスさんも相当速いですから(笑)。
--今回、実際にお話を聞いているといわゆるIT業界の人が想定している「OpenStackの専業メーカー」という見方が実際とはだいぶかけ離れているように思えます。単にインフラの部分をOpenStackで構築します、そのためにディストリビューションを使います、インストーラーを作りました、ではなくてそのインフラがどんなビジネスに使われるのか、そのビジネスの目的は何なのか?などをヒアリングするところから始まるというのは驚きでした。その辺りのことももう少し深く聞かせてください。
下平:もともとのミランティスの仕事が受託開発やお客様の業務を理解してシステムを提案~構築するインテグレーターであったりするところが関係するのかもしれませんが、我々は単にOpenStackを使ったインフラの構築を請け負うベンダーではないのです。先日発表されたフォルクスワーゲンでの導入事例に関してもキチンとしたヒアリングからお客様が要求するPoC(実証実験)のいつくかのフェーズをちゃんとクリアした上で全社的な採用を決めてもらっています。私たちの「Pure Play」というのがどうもOpenStackのディストリビューションを提供するだけという風に理解されているとするとそれはだいぶ違いますね。どちらかというとベンダーロックインをさせないことが重要だと考えています。そのためにインフラであるOpneStackを提供しますが、お客様のビジネスにそれがどういう影響を与えるのか? そのビジネスはどういうものなのか? 本当にクラウドが必要なのか? などの非常に根本的なヒアリングをするところから我々のビジネスは始まるのです。
参考:フォルクスワーゲンがMirantisのOpenStackディストリビューションを採用
嘉門:実際に一緒に提案などを下平さんとやっていますと、非常に良く考えられたシステムの企画の場合などは「一緒にサービスを作りませんか?」というお言葉を頂くことがあります。単なるディストリビューションを作っているベンダーという扱いではないような気がします。
下平:ただ日本のシステムインテグレーターさんの場合だとどうしても最初に機能の比較表にマルバツを付けるところから始まっちゃうんですよね。
--つまり機能の有る無しによって比較しようとすると。
下平:そうですね。ただ私たちの差別化のポイントはそこではなくて、ヒアリングなどのコンサルティングや必要なソフトウェアがない場合にはミランティスのエンジニアがそれを作るところなどですので、カタログやデータシートレベルの比較表では理解していただけないことが多々あります。
--そういう意味で日本の大手システムインテグレーターよりも素早く動いてくれるAPCさんのような会社が最初のパートナーとしては適切だったと。実際にビジネスの目的などのヒアリングから始めるのだとするとシステムインテグレーターやコンサルティングの領域に入ってますよね。
下平:具体的に案件が始まる場合は本社のコンサルティングの人間とテレビ会議などで繋いで直接ヒアリングを行いますし、その際には私が通訳として参加する場合もあります。日本でのパートナシップの戦略としてAPCさんにご協力頂いたということで大手のインテグレーターさんとの協業もこれから進めていく予定です。
嘉門:商談にはミランティスの方と一緒に検討、提案するという仕事をしています。
ーーつまりいわゆる外資系のソフトウェアメーカーがよくやるような、まず販売のチャネルとしてパートナーを増やし、製品をなるべくカスタマイズしないで流せるようにするやり方とは真逆の方法ということですよね?
下平:我々としては数をこなすのではなく、なるべく大きなシステムを構築する、ビジネスにインパクトのある案件を目指すというやりかたです。それを今年の目標にしています。
嘉門:OpenStackの案件というのはその辺に転がっているようなものではないので、コンサルティングも含めてちゃんと提案していく、という姿勢ですね。
--実際にOpenStackで構築したシステムの場合、特にある程度完成してしてしまうとなかなか手が加えられない、アップグレードもできない、拡張も難しいなどといった状況が見られますが、それに関してミランティスとしての解決策は無いのでしょうか? 去年ボリスさんが言っていたアップグレードを容易にするという部分ですが。
下平:ミランティスとしてもその部分の問題点というかカスタマーペインは理解しています。将来のバージョンではその部分を強化していく予定です。実際にはサービスとして提供している部分もありますが、このモジュールのこのバージョンであればといった前提条件が多くなってしまっていますので、多くのお客様に使って頂けるようになるにはもう少し時間がかかると思います。その辺りは今月のOpenStack Summitでもより詳しくお話できると思いますので、ご期待ください。
通常の外資系ソフトウェアメーカーとは真逆のアプローチでOpenStackのインテグレーションを目指すミランティス。OpenStackディストリビューションを作るだけではなくビジネスのヒアリングから入るというのは驚きと言っていいだろう。ある意味、スケールしない、時間と手間がかかる方法論をあえて選択したことで着実に導入事例を増やしていこうという計画だ。4月25日から始まるOpenStack Summit Austinでもより詳しくMirantisのソリューションやサービスについてはお届けする予定だ。
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