OpenStack専業のMirantis、日本法人代表を発表

2016年7月6日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
OpenStack専業のソフトウェアベンチャーMirantisが日本法人の活動を本格化。元Ciscoの磯氏が代表に就任し、パートナーの拡充を目指す

2016年7月5日、米国MirantisのCMOボリス・レンスキー氏が来日し、都内にて日本法人「ミランティス・ジャパン株式会社」の概要が発表された。テレコム業界でのエンジニアリングの経験が深い株式会社エーピーコミュニケーションズとのジョイントベンチャーという形式だ。正式には7月15日設立ということだが、OpenStack Days Tokyoの開催の前日に合わせて発表した形になった。米Mirantisは、新興ながらOpenStackの様々なプロジェクトに積極的に関わっており、コードの提供やパッチのレビューなどの貢献度も非常に高く注目されている企業だ。

特に前回のOpenStack SummitではAT&T、フォルクスワーゲンといったエンタープライズでのOpenStack導入を支援していることが明らかになったことで、日本でも一躍注目を浴びていると行っても過言ではない。今回は、設立の発表と同時に日本での代表、磯逸夫氏の就任も発表された。

記者会見ではまずレンスキー氏がこれまでのMirantisのOpenStackに対する取り組みとして、ベンダーロックインをさせないこと、導入の際のスピードとコストにこだわっていること、などをプレゼンテーションした。

プレゼンテーションを行うMirantis CMO、ボリス・レンスキー氏

その後に日本での代表を務める磯逸夫氏が登壇し、略歴の紹介、市場動向などを説明。その際に就任以前にエンタープライズの顧客からのヒアリングと称してOpenStackを企業が導入するに当たっての懸念されるポイントなどを整理した。「まだ様子見」、「ベンダーロックインやコスト高が不満」、「スケールしない」、「エンジニアが足らない」、などOpenStackに関わったことのあるエンジニアやビジネス企画の人間であればどれもよく聞くポイントだろう。

これらのニーズに対してミランティス・ジャパンは「エンタープライズに最適なソリューションの提案、実装、運用」を提供するという。またOpenStackを安心して利用するための「体制の提供」も行うと説明し、顧客が持つOpenStackを使って何を達成するのか?を支援することが究極の目的であり、インフラだけを提供するベンダーでは無いと強調した。これはレンスキー氏のプレゼンにも共通するゴールであり、ミランティスが単なるOpenStackのパッケージベンダーではないということをことさらに強調した結果となった。

ただし、実際にはCiscoやEMCなどのネットワークやストレージソリューションベンダーとの協調によるソリューションの展開をシステムインテグレータと共に行うと説明した辺りを考えると、エンタープライズのビジネスニーズを理解した上でインフラストラクチャーのアーキテクチャーやその上位に位置するアプリケーションまで含んでシステムを構築するという領域は、本来のシステムインテグレータの仕事であろう。日本でもNTTデータやNEC、富士通などシステムインテグレータでありながら、OpenStackのコントリビュータとして多くのエンジニアを抱え、コミュニティをリードするまでになっている「日本のOpenStackコミュニティ」に対して最後発の「ミランティス・ジャパン株式会社」がどれだけ実質的に提案力と実装力を見せることができるのか、コミュニティに貢献できるのか、お手並み拝見ということだろう。

少なくとも日本の既存のシステムインテグレータが納得するだけのメソドロジーやサービスメニューが無ければ、システムインテグレータとの無駄なオーバラップが発生し、顧客にとって不幸な事態になる可能性は高い。

今回登壇した磯代表、エーピーコミュニケーションズの内田武志代表取締役社長もミランティス・ジャパンとしてのエンジニアの養成には大きな重点を置いていると回答してくれたが、少なくとも既に日本人が活動しているOpenStackのプロジェクトやコミュニティにおいてミランティス・ジャパンとしては具体的に何をするのか?が見えていこない会見であった。パブキッククラウドのパイオニアであるAmazon Web Servicesは日本全国で開催される草の根的な勉強会にも積極的にエバンジェリストを派遣し、エンジニアの啓蒙に勤しんだ。OpenStackをエンタープライズに根付かせるためにも、有償のトレーニングクラスの提供だけではなくコミュニティを盛り上げる活動を期待したい。

左よりエーピーコミュニケーションズ内田氏、Mirantisレンスキー氏、ミランティス・ジャパン磯氏

なお、今回の発表の中で最も具体的だったのはミランティスが提供するトレーニングコースの値引きというもので、税別14万円のものを9,800円で提供するというものだった。これから10月後半のバルセロナでのOpenStack Summitまでく具体的に何が出てくるのか、非常に楽しみである。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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