UMLがオフショア開発のギャップを吸収する

2008年5月15日(木)
竹政 昭利

仕様書のあいまいさ

 日本国内では、今まで「あうんの呼吸」で開発を行っていたので、細かなところはドキュメントに落とさない傾向がありました。そこでは、エンドユーザから変更が多くあるため、きっちり決めても仕方がないという部分もありました。

 そして現在のオフショア開発の対象は実装など下流工程が多く、実装に関してオフショア企業へ事細かく指示するような仕様書を書くくらいならば、いっそ国内で自分がプログラムするほうが早いということになってしまいます。

 仕様書のあいまいさの問題について、アンケートでは、「深刻」「かなり深刻」「極めて深刻」の合計が日本側は80%で、中国側は67%です。どちらも、数値は高く問題になっていることは確かなようです。

 おもしろいのは、仕様書を書いている日本側のほうがより強い自覚があるということです。まだまだ仕様書の完成度は不十分ですが、日本側もこれだけの自覚があるので、仕様書をきっちり書こうとする意志はあるようです。

 詳細設計以降のオフショア開発を行っている中国人技術者に話を聞いたときに、「仕様はきっちり決まってほしいが、細かなところの変更をすべて拒絶するわけではない」と言っていました。日本の仕事をいくつもやっていると、ある程度の仕様変更はやむを得ないと了解しているようです。

 日本、中国とも双方歩みよりをみせているように思えます。そこには、細部まで厳密に決めた仕様のやり取りを行っているアメリカとインドとの関係とは、また違った独自の関係ができつつあるように思えます。

 また、同じ中国人担当者の話ですが、「基本設計書、詳細設計書など膨大な日本語の仕様書が一度に大量に送られてくるが、全体像がよくわからないし、日本語なので読み下すのには苦労する。仕様を厳密に決めたほうがいいからといって、さらにドキュメントを増やされるのは閉口する」というようなことを言っていました。

 こういった問題も、UMLモデルなら全体構造が理解できるし、標準化されたUMLを使えば最小限の情報で正確に仕様を伝えることができるので、解決できるのではないかと思います。

中国側は成長途上

 今回のアンケートの回答者は、中国側、日本側ともにプロジェクトマネージャ、プロジェクトリーダが中心になっています。しかし、経験年数で見ると、中国側は平均4.4年、日本側は平均16.2年となっています。圧倒的に中国側のほうが若くして、プロジェクトマネージャ、プロジェクトリーダになっています。

 実際中国では、経験年数5~6年目でプロジェクトマネージャ、プロジェクトリーダを担当している方が多いです。一方日本側は10年目以上の経験がある方がほとんどでしょう。

 日本のプロジェクトマネージャやプロジェクトリーダは第3次オンラインをはじめとした、大規模システムを手がけてきていますが、中国では、それに匹敵するような大きなシステムというものはないようです。

 こうした規模の大きなシステムの開発経験の差が、システム開発における進捗、品質などの管理に対する意識の差として現れてきているように思います。

 また、そもそもの国民性の差もあります。日本人はオリジナルシステムを作成するのにこだわりますし、見た目のきれいさなど完ぺきを求めます。

 中国人は、既存のシステムを、要領よく既存のシステムをコアにそれをカスタマイズして使っていることが多いようです。街中にあるようなパソコンとWindowsのシステムを組み合わせてそのまま使用しているようです。

 またシステム開発とは離れますが、建物のペンキ塗りなども、むらがあってもそれほど気にしないというようなことも中国の人から聞きました。おおらかなところがあるのでしょう。

 これら経験の違いからくる進捗や、品質に対する意識の差や国民性の違いも、あいまいなところを排除することができるという特徴を持つUMLモデルを使用して、解消していくことが重要です。

株式会社オージス総研
1985年株式会社CSK入社。人工知能システムの開発に従事。1994年株式会社オージス総研入社後はオブジェクト指向システムの開発を中心に多数のプロジェクトに参画。また開発者向けトレーニング、セミナの講師を行う傍ら、雑誌、書籍の執筆を行う。2003年UMTP設立後は、UMLモデリング普及活動も実施。主な著書:「はじめて学ぶUML 第2版」ナツメ社 ほか

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