【地方創生】あなたの地域でも活用中!? 生成AIで変わる地方自治体
はじめに
本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動している8名で運営しています。この記事を通して、ぜひ皆さまも各々の半歩先の未来を想像しながら、色々な価値観を楽しんでいただけると嬉しいです。
加速する生成AIの進化
テクノロジーの世界では、今まさに生成AI革命が進行しています。Google、OpenAI、Microsoft、Anthropicといったテック・ジャイアンツ各社が次々と画期的なAIモデルを発表し、私たちの生活を根本から変えようとしています。特筆すべきは、これらのAIが単なる会話相手の域を超え、私たちの日常的なデジタルタスクを支援する「知的アシスタント」として進化していることです。
例えば、Googleはブラウザ上でリサーチやショッピングのようなタスクを自動化する「Jarvis」というツールを開発中です。これにより、ユーザーは自分で操作しなくても、AIがクリックや入力などを自動で行ってくれるようになります。同じくAI分野で注目されるOpenAIも次世代モデル「Orion」を開発しており、その性能は前作のGPT-4の100倍にもなる可能性があると言われています。さらに、Microsoftは画像認識機能を持つ「Vision」を、AppleはSiriの自動化能力を向上させる新技術を開発中です。
【参考記事】
●2024年10月28日 CIO
Google prepares Jarvis to fight the AI ‘computer use’ war
●2024年10月25日 CIO
OpenAI plans to release its next big AI model by December
こうした最先端のAI技術は民間企業での導入が進んでおり、本連載でも過去に製造業やサービス業など、様々な日本企業での生成AI活用事例を取り上げてきました。
一方で、行政分野での活用はまだ発展途上といえます。そのなかで浮かび上がってきたのが「行政のデジタル化」という課題です。特に地方自治体は人材・予算の制約や従来の業務プロセスへの依存度が高いことから、DXが遅れているとされています。人口減少や高齢化による行政サービスの持続可能性が問われるなか、生成AIは地方自治体にどのような可能性をもたらすのでしょうか。
広がる地方自治体での活用
今年の8月1~2日に開催された「Google Cloud Next Tokyo '24」ではGoogle Cloudを活用する複数の自治体が登壇し、生成AI導入の実例と成果を共有しました。その取り組みはガイドライン策定から業務効率化、さらには観光振興まで多岐にわたっています。
【参考記事】
●2024年9月20日 EnterpriseZine
自治体での生成AI活用の実態とは? ──札幌市/志摩市/宮崎市の担当者が“手応え”を明かす
今回は、各都道府県での生成AI活用に関するニュースを調べ、その活用方法を分析しました。結果的に、5つの活用方法に分類できました。
1. 企業とのコラボレーション
地域の課題解決に向けて、自治体と企業との連携が活発化しています。千葉県のMetagri研究所による農業分野でのAI活用、宮城県とGoogleのDX推進partnership、栃木県日光市とNTTグループの包括的な研修プログラムなど、各地で特色ある取り組みが展開されています。注目すべきは大阪府の試みで、雇用のミスマッチ解消に生成AIを活用する革新的なプロジェクトを推進しています。
【参考記事】
●2024年10月5日 株式会社農情人
【無料セミナー】「農業における生成AIの実践活用」を10月20日(日)に開催
●2024年10月1日 日刊建設工業新聞
宮城県/米グーグルと地域課題解決へ基本合意、生成AI活用などで連携
●2024年6月26日 AIsmiley
大阪府、Googleが取り組む「生成AI実装プロジェクト」に全国初の連携自治体として参画
2. 行政手続き
デジタル時代にふさわしい行政サービスの実現に向けて、各地で画期的な取り組みが始まっています。青森県三戸町では、マイナンバーカードとAIを組み合わせた「書かない窓口」を実現し、住民の手続き負担を大幅に軽減しました。また、奈良県奈良市や徳島県鳴門市は24時間対応のチャットボットを導入し、「いつでも」「どこでも」アクセス可能な行政サービスを実現。山梨県では議会運営や財務会計にもAIを活用し、行政運営の効率化を推進しています。
【参考記事】
●2024年9月30日 PR TIMES
【AIさくらさんで全国初】マイナンバーカード×AIで「書かない窓口」10月1日始動!青森県三戸町が行政DXの新時代を先導
●2024年4月11日 PR TIMES
生成AI搭載「AIさくらさん」が奈良市役所に導入!自治体DXを推進し市民サービスの向上・職員の業務効率化を目指します
●2024年6月24日 ABeam Consulting
山梨県の行政事務における生成AI利活用を支援
●2024年1月31日 AITech
全国初!富山県魚津市が「全住民用 音声入力ChatGPT」を導入
●2024年2月16日 Ledge.ai
徳島県鳴門市がAIチャットボットを導入。イメージキャラクター「にゃるひげ」が市民の問い合わせに対応
●2024年6月28日 日本経済新聞
香川県観音寺市、問い合わせ対応に生成AI 納税や子育て
●2024年9月6日 PR TIMES
【ゆるキャラに移住相談!?】カヤックが会話型AIで愛媛県への移住をサポートする「エーアイ移住コンシェルジュ」サービスを開発
●2024年10月8日 Yahoo! JAPANニュース
「AIコクトくん」誕生 ごみ出し情報など自動回答 鹿児島県奄美市
3. 業務効率化
行政サービスの質を向上させながら業務効率を高めるため、各地で革新的な取り組みが始まっています。富山県では地元IT企業のインテックと連携し、資料作成やデータ検索の効率化に関する実証実験を実施。その成果は、他の自治体にとっても貴重な参考事例となっています。特筆すべきは長崎県西海市の取り組みです。同市が導入した生成AIシステム「ばりぐっどくん」は資料作成が多い部署から高い評価を獲得し、2,072時間相当の業務時間削減を2ヶ月で実現するなど、実用段階での有効性を証明しました。同様の成功例は宮崎県宮崎市や山形県でも報告されており、特に文書作成時間の大幅な短縮が確認されています。
【参考記事】
●2024年1月16日 YAMAGATA DIGITAL NEWS
作業時間の短縮に効果 県、業務に生成!AI導入3カ月
●2024年10月8日 NIC
日本情報通信、栃木県日光市と生成AI(NICMA)を活用した業務変革に向け連携強化
●2024年3月7日 ZDNET
富山県、生成AIとマルチモーダルAIの業務利用効果を検証
●2024年8月22日 中国新聞デジタル
県庁の仕事、生成AIで効率化へ 広島や山口で本格導入 懸念材料も
●2024年9月3日 PR TIMES
生成AI「ばりぐっどくん」を全庁導入した西海市役所、業務効率化の顕著な成果を実現。年間のKPI3,500時間削減の6割にあたる2,072時間相当の業務時間削減を2ヶ月で実現。
●2024年10月18日 PR TIMES
【宮崎市】自治体初! Vertex AIによる生成AIアプリケーションで、庁内業務を効率化します!
●2024年3月19日 FNNプライムオンライン
文書や議事録作成で活用!採用面接にも? 沖縄県の企業・官公庁でも活用が進む生成AI 省力化と労働生産性向上へ
4. 観光産業DX
観光分野では、生成AIを活用した斬新なサービスが次々と登場しています。和歌山県白浜町の南紀白浜空港では、多言語対応の観光案内キャラクター「さくらさん」を導入し、訪日外国人旅行者へのきめ細かなサービス提供を実現しています。一方、福岡県福岡市では独自の「屋台DX」プロジェクトを展開。LINEを通じて利用者の好みに合った屋台を案内する「AIおいちゃん」は、地域の食文化と最新技術を見事に融合させた好例と言えるでしょう。また、静岡県沼津市が開発した生成AI搭載の観光コース作成サイトは、訪問者一人ひとりの興味関心に合わせたカスタマイズ機能で最適なコースを提案してくれます。
【参考記事】
●2024年7月31日 和歌山NEWS WEB
生成AIの観光案内始まる 南紀白浜空港
●2024年10月15日 dmenuニュース
「福岡の屋台DX」が好調 LINEや生成AIを導入して、どうなった?
●沼津観光ポータル
AI(人工知能)が作るおすすめプラン
5. 独創的な取り組み
全国各地で、地域特性を活かした独創的な生成AI活用が進んでいます。なかでも注目すべきは北海道の大規模な取り組みです。1万6000人という膨大な数の職員を対象としたAI導入は、自治体のデジタル変革における1つのモデルケースとなるでしょう。
また、岩手県一関市では生活保護業務支援AIシステムの実証実験を開始し、福祉行政のデジタル化に新たな可能性を見出しています。静岡市は「AI市長」という斬新な発想で政策立案支援を実現し、行政のあり方そのものを問い直す試みを展開しています。
さらに、香川県警によるLINEを活用した詐欺防止イベントは、生成AIを地域の安全対策に活用する新しいアプローチとして注目を集めています。
【参考記事】
●2024年6月10日 日本経済新聞
北海道、ChatGPTを業務に導入 アイデア出しなどに活用
●2024年11月7日 NTT DATA
岩手県一関市と生成AIを活用したケースワーカーを支援するシステムの実証実験を開始
●2024年7月20日 読売新聞オンライン
静岡市に「AI市長」誕生、職員の政策立案へアドバイス…本物の市長も「効率化につながるかも」
●2024年11月6日 中国新聞デジタル
生成AI動画で施策を解説 廿日市市 広島県内の自治体で初
●2024年7月26日 OHK
AI相手に投資・ロマンス詐欺を体験 香川県警などが全国初 被害防止イベント【香川】
未来への展望:
双方向コミュニケーションツールとしての生成AI
これまで見てきた各自治体の取り組みは確かに革新的であり、行政サービスの効率化や利便性向上に大きく貢献しています。しかし、生成AIは行政サービスの効率化だけでなく、もっと驚くべき可能性を秘めているのではないでしょうか。例えば「人と人との対話」を支援する力です。2024年度人工知能学会全国大会で発表された研究結果によると「生成AIには対立する意見の間に入ることで会話をより穏やかにし、相互理解を深める効果がある」ことが分かりました。
【生成AIの介在による具体的な効果】
・共感度が向上
・参加者がより本音を話すようになる
・ストレスが軽減
・対話の雰囲気が温かくなる
特筆すべきは、AIの介入が「第三者の目」として機能し、議論の客観性を保ちながらも温かみのある対話を実現できる点です。人間同士の直接対話では感情的になりがちな議論でも、AIが間に入ることで、より冷静で建設的な話し合いが可能になります。
この可能性を政治の現場で活かした興味深い事例があります。東京都知事候補の安野たかひろ氏が導入した「AIあんの」です。これは候補者の政策を学習したAITuberで、24時間体制で市民からの質問に答え続けます。わずか5日間で6,000件以上の質問が寄せられ、従来の政治家と市民の対話方法を一変させました。「AIあんの」の成功は、市民が政治参加への新しい形を求めていたことを示しています。時間や場所の制約なく気軽に質問できる環境は、特に若い世代の政治参加を促進する可能性を秘めています。また、AIを介することで直接の対面では質問しにくい内容も、より率直に問いかけられるという利点も見出されています。
ただし、課題もあります。AIの発言が時に機械的に感じられ、会話の自然さが失われることもあります。また、感情的な機微を完全に理解することは現状では難しく、デリケートな話題では人間のファシリテーターが必要になる場合もあると考えられます。
重要なのは、生成AIが単なる情報処理ツールではなく、人々の対話を促進し、社会の結束力を高める可能性を持っているという点です。特に行政と市民の関係において、AIが「共感的な対話の促進者」として機能することで、より開かれた、信頼性の高い社会づくりに貢献できるのです。対話の質を高め、相互理解を深めるAIの特性は、私たちの社会に新しいコミュニケーションをもたらすかもしれません。
おわりに
全国の自治体が生成AIを活用して、地域に根ざした課題に取り組む姿は、私たちの未来に大きな希望を感じさせます。
今後も、生成AIに関する最新情報とその深掘りを発信していくので、楽しみにしていただけると嬉しいです。次回の投稿をお楽しみに!
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