UMLがオフショア開発のギャップを吸収する

2008年5月15日(木)
竹政 昭利

UMLモデリング導入への期待

 図3はオフショア開発にUMLモデリングを導入した企業へのアンケート結果です。

 中国側では、「UMLによって生産性が向上する」「UMLによって発注元(日本)からの手戻りが少なくなる」「UMLによって品質が向上する」などUML全般に対する期待が非常に高いことがうかがえます。

 「仕様に対する曖昧性の低減」や「仕様書変更の影響範囲を把握しやすい」などは、日本側、中国側とも、賛成の割合が高くなっています。

 また、「レビューでUMLを使うと、説明内容を効果的に伝えることができる」は、日本側、中国側とも70%前後であり、日本側と中国側とのコミュニケーションの促進にも効果的であることがわかります。

 それは、中国側で「UMLを使うと発注元(日本)との間のコミュニケーションが促進される」が高いことでもわかります。一方日本側では同一の項目が48%にとどまっているのは、日本国内でのコミュニケーションにおいて、UMLを導入することが難しいことを物語っています。

 2007年のモデリングフォーラム(http://www.idg.co.jp/expo/mdl/2007/offshore/index.html)で、オフショア開発についてのパネルディスカッションを行い、中国側と日本側で3人ずつパネラーとして出席しました。

 中国側は「日本(発注側)からの、UMLモデルベースでの発注を期待している」「仕様書の頻繁な変更、発注側である日本企業とのコミュニケーションのずれなどの問題に悩まされてきたが、UMLを導入することによってこの問題を解消しようとの動きが出てきた」といった、積極的な意見が相次いでいました。

 それに対して日本側は、「社内、顧客へUMLを広げるのに苦労している」「クラス図は従来型のSEには使いこなせない」といった意見がありました。

日本側の問題

 このように、UMLモデリングに対する期待は非常に高いですが、さらに導入を広げる上での課題が1つあります。それは教育コストです。

 「UMLは教育が難しい、教育にコストがかかる」というアンケートの質問に対して、賛成の割合が日本側54%、中国側41%になっています。

 どちらも教育が簡単であるとは思ってはいませんが、日本側がより困難だと認識しているようです。先ほども触れましたが、中国側の開発者は若いので、新手法の導入に対しても意欲的です。それに対して、日本側は、保守的なところがあり、新手法の導入を困難にしている様子があるようです。

 実際日本企業での、UMLモデリング導入の状況を聞いてみると、「アクティビティ図は使っているが、クラス図はあまり使っていない」ということをよく耳にします。アクティビティ図は流れを表現する図なので、フローチャートなど今までの延長線上でそれほど違和感がないようです。

 しかしクラス図は分析・設計領域の概念を抽出する必要があり、今までの業務ではあまり経験したことがないのでなじめないと感じているようです。

 このあたりの克服は、日本側のほうが中国側よりさらに努力を必要とする可能性があります。逆に考えれば、日本側がUMLモデルの導入をさらに積極的に行うことで、オフショア開発におけるUMLモデル利用のメリットをすぐに享受できることになります。

 次回は、モデルベースオフショア開発事例についてお話します。

株式会社オージス総研
1985年株式会社CSK入社。人工知能システムの開発に従事。1994年株式会社オージス総研入社後はオブジェクト指向システムの開発を中心に多数のプロジェクトに参画。また開発者向けトレーニング、セミナの講師を行う傍ら、雑誌、書籍の執筆を行う。2003年UMTP設立後は、UMLモデリング普及活動も実施。主な著書:「はじめて学ぶUML 第2版」ナツメ社 ほか

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