技適? 微弱無線? 今さら聞けない電波法規の基礎知識

2017年2月7日(火)
岡田 信孝(おかだ のぶたか)

無線通信を行うためには電波を使用しますが、電波は公共の資源なので勝手に使用することはできません。許可なく電波を送信することは電波法という法律によって禁止されています。電波法では通信のために電波を送受信する装置を無線局と呼ぶので、以下の説明でも無線局という呼び名を使用します。スマートフォンや無線LANルータも電波を送信するので無線局の一種です。電波を受信するだけのテレビやラジオは無線局とは呼びません。

電波を使用するための原則
  • 無線局の設置には無線局免許の申請が必要
  • 無線局を管理する無線従事者(要国家試験合格)が必要
  • この原則に従うと、無線LANルータを設置するために国家試験を受けなければなりませんが、実際にはその必要はありません。それは、特定の周波数と用途においては特例で無線局の申請と無線従事者の資格が免除されているからです。

    以下は例外として無線局の免許申請が不要な無線通信です。

    • 微弱無線
    • 特定小電力無線、簡易無線局、構内無線
    • 小電力データ通信システム

    ここから、各無線局の特徴を見ていきましょう。

    微弱無線

    言葉の通り、著しく微弱な電波しか発しない無線装置は免許の申請や届出が必要ありません。おもちゃのトランシーバなどでは微弱無線が使用されていますが、電波が弱いために遠距離の通信は行えません。

    出展:総務省電波利用ホームページ

    微弱無線の分類であれば申請が必要ないので、本当は強い電波を発しているのに微弱無線として販売しようとする業者がいるかもしれません。実はこのような違法無線機を販売するだけでは罪にはならず、使用した人が罪に問われます。これは、時速300kmを出せるスポーツカーを販売した業者は罪にならず、高速道路を時速150kmで走行した運転者が罪に問われるのと似ています。無線機が車と違うのは、車は制限速度内で走行することができますが違法無線機は使用すれば必ず違法な状態となります。このような事態に対応するため、総務省では微弱無線機の試買制度を実施しています。

    ここでは、販売されている無線設備を実際に購入して電波の強度を測定し、規制値を超えている製品については製品名と製造業者又は販売業者を実名で公表しています。この中で、これらの無線設備を使用するためには電波法に基づく免許が必要となっていますが、これらの製品の無線局免許を申請しても通ることはまずありません。

    自社製品を微弱無線のカテゴリで販売するために、微弱無線かどうかを確認したい場合には2つの方法があります。ひとつは自社で測定器を用意して測定することで、もうひとつは試験機関に持ち込んで微弱無線であることの証明を受けることです。日本自動車用品工業会(JAAMA)と電波環境協議会(EMCC)では微弱無線設備登録制度を用意しており、これらの機関に申請することによって微弱無線のカテゴリであるかどうかを確認して微弱無線適合マーク(ELPマーク)を取得できます。

    日本自動車用品工業会(左)及び電波環境協議会のELPマーク(右)

    特定小電力無線

    2.4GHz帯以外の無線モジュールの多くが該当します。無線局の免許申請及び無線従事者は不要ですが、技術基準適合試験に合格した製品しか使用できません。

    簡易無線

    業務用トランシーバ等に使用されます。無線局の免許申請が必要です。技術基準適合試験に合格した製品であれば無線従事者は不要です。

    構内無線

    倉庫の在庫を管理する用途で使用される920MHz帯の高出力RFIDリーダ・ライタが該当します。一つの建物内での通信に限定されます。無線局の免許申請が必要です。技術基準適合試験に合格した製品を使用すれば無線従事者は不要です。

    小電力データ通信システム

    2.4GH帯及び5GHz帯を使用する無線LAN及びBluetooth等が該当します。無線局の免許申請及び無線従事者は不要ですが、技術基準適合試験に合格した製品しか使用できません

    技術基準適合試験(いわゆる技適試験)とは

    特定小電力無線、簡易無線、構内無線、小電力データ通信システム向けに使用されます。

    技適の認証を受けるためには、無線設備が基準に適合しているかどうかをメーカが認証機関で確認してもらいます。確認済みの装置には技適の認証マークが付与されます。技適の認証で測定される項目についての詳細は省略しますが、基本は他の通信に影響を与えないかどうかを確認するという内容です。送信電力が規定値以下か、通信を行う周波数以外に不要な電波を出していないかなどが確認されます。技適の試験では送信品質の試験は行わないので無線モジュールの性能は評価していません。あくまでも他の通信に悪影響を与えないかどうかを確認しているだけです。

    技適の認証は日本国内のみで有効です。海外で無線機器を使用するには、それぞれの国または地域の規制内容を確認する必要があります。

    ところで、技適認証済の無線モジュールを組み込んだ製品であっても、製品として出荷するためには別途認証を受けなければいかないのでしょうか? 日本国内においては、技適認証済みモジュールに変更を加えずにそのまま組み込む場合には、装置として別途認証を取得する必要はありません。ただし、通信品質の向上のためにアンテナを交換した場合は、装置として技適認証を受ける必要があります。

    次に、携帯電話やスマートフォンはどのような扱いなのでしょうか? 携帯キャリアが取得している包括免許で携帯電話等はカバーされます。これは携帯電話が自分で送信周波数や送信電力を決めることができないことが理由です。携帯ネットワークにおいては端末の送信周波数や送信電力等は携帯基地局からの指示に従います。

    ここまで、電波に関わる法規制についてお話してきましたが、電波は目に見えないのでこっそり電波を出して実験してもばれないと思う方もいるかもしれません。が、そんなことはありません。

    総務省ではDEURASと呼ばれる電波監視システムを運用しており、通信障害の報告があるとすぐに妨害電波の発信源を特定できます。しかも対象が動いている場合でもリアルタイムで電波の発信源を追いかけるので、違法無線機を車に乗せて移動していても居場所がすぐに特定されます。

    出展:総務省電波利用ホームページ

    日本国内向けに認証済みの無線モジュールを使って実験する場合には問題ありませんが、未認証のモジュールや海外専用の無線モジュールを使用して実験する場合には電波を遮蔽するシールドボックス等を使用して、電波が外に漏れないようにしましょう。

    電波法規に関する話題は聞きなれない用語があってわかりづらいですが、実際にはそれほどむずかしくありません。IoT向けの無線の場合には無線モジュールを購入するケースがほとんどだと思いますので、無線モジュールの選定時に日本国内向けに認証の取れたモジュールを選んでおけば問題ありません。

    著者
    岡田 信孝(おかだ のぶたか)
    テクトロニクス
    1992年にソニー・テクトロニクス株式会社(現テクトロニクス社)に入社。信号発生器のマーケティングや営業職を経験したのち、現在はRFアプリケーション・エンジニアとして無線関連の技術サポートを担当。

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