PR

近距離IoT無線の主役ーBluetooth Low EnergyからBluetooth 5へ

2017年2月20日(月)
岡田 信孝(おかだ のぶたか)

IoT向け通信規格の中で、長距離通信用のLPWA(Low Power Wide Area)では様々な規格が主導権争いをしていますが、短距離の低速(低消費電力)通信、特に低消費電力のIoTデバイスをスマートフォンと連携する用途においてはBluetooth Low Energy(Bluetooth LEまたはBLEと略)が主流になっています。Bluetoothなんて1990年代生まれの枯れた規格で新しくはないという意見もありますが、最新のBluetooth LE規格は従来のBluetooth規格とは大きく異なっています。古いBluetoothの常識はいったん横に置いて、最新規格について知っておくことが必要です。BLEの説明に入る前に、Bluetooth規格の全体像から始めましょう。

Bluetooth規格の概要

Bluetoothは2.4GHz帯の電波を使用した近距離通信技術です。周波数ホッピングという技術を用いて、80MHzの帯域幅の中を絶えず周波数を変化させながら通信しています。通信速度は最大で数Mbps程度なので、大容量のデータ転送ではなく低速の近距離通信に使われます。Bluetoothの規格にはいくつか種類があり、初期のBluetoothからサポートされているのは、Basic Rate(BR)という規格です。Basic Rateよりも伝送速度を向上したEnhanced Data Rate(EDR)という規格もよく使われています。BRとEDRは共通点が多く互換性がありますが、Bluetooth Version 4.0で新規に追加されたLow Energy(LE)規格はBR及びEDRとは互換性がありません。Bluetooth 3.0以前のBluetooth(BR及びEDR)をBLEと区別する為にクラシックBluetoothと呼びます。ただし、最近では何も指定せずにBluetoothという名称を使用した場合にはクラシックBluetoothではなくBLEのことを指していることも少なくありませんので注意が必要です。

  • クラシックBluetooth搭載機器の例
    ワイヤレスヘッドセット、キーボード、マウス等
  • Bluetooth LE搭載機器の例
    スマートウォッチ、IoT機器、ウェラブル機器等
図1:Bluetooth規格のバージョン(抜粋)

Bluetooth Low Energy(BLE)について

名前のとおりBluetoothの低消費電力の規格ですが、BLEはクラシックBluetoothを低電力化した規格ではなく、低消費電力用途の為に作られた新しい規格です。従来規格との互換性よりも消費電力の削減が優先されているので、クラシックBluetoothとの互換性はありません。

図2:クラシックBluetoothとBluetooth LEの違い

このように、クラシックBluetoothとBLEはチャンネル間隔といった基本的な仕様から異なっているので、そのままではお互いに通信できません。同じBluetoothという名称がついているのに通信できない組み合わせが生じるので、互換性を明確にするための名称とロゴが用意されています。

図3:Bluetooth SmartとBluetooth Smart Ready

クラシックBluetoothのみ対応の機器とBluetooth LEのみ対応の機器は通信ができませんが、両方の規格と通信できるデバイスもあります。このようなデバイスをBluetooth Smart Readyと呼びます。

携帯電話用ワイヤレスヘッドセットは通常クラシックBluetoothを採用しており、超低消費電力が要求されるスマートウォッチはBluetooth Smartです。一方、最新のスマートフォンはBluetooth Smart Readyなので、クラシックBluetoothのヘッドセットとBLEのスマートウォッチのどちらとも接続が可能です。

iBeaconとは

iBeaconはBluetooth LEの技術を使用したアプリケーションの名称です。位置情報の提供やスマホへの情報伝達に使用します。もともとは位置情報等を提供するiBeacon(BLE搭載)の信号をiPhoneで受信するためにつくられましたが、BLEが搭載されているAndroidスマートフォンであれば、対応するアプリを追加することによってiBeaconの信号を受信できます。

図4:2.4GHz帯の周波数割り当て

2.4GHz帯はBluetoothだけでなく無線LANやその他さまざまの無線システムで使用されています。クラシックBluetoothは80MHzの帯域内を1MHz幅の79chに分けて使用します。BLEは同じ80MHzの帯域内を2MHz幅の40chに分割して使用します。BLEが使用する40chのうち、2402MHz、2426MHz、2480MHzの3つのチャンネルは特別な役割を持っており、アドバタイズメント・チャンネルと呼ばれます。この3つの周波数は重要なので、できるだけ他の通信と干渉しないことが望まれます。無線LANは1チャンネルあたり最大で約22MHz使用しますが、古い規格の名残でチャンネル番号は5MHzおきに設定されており、合計で14チャンネル設定されています。無線LAN同士での干渉を低減するために、2.4GHzの無線LANではch1、ch6、ch11の使用が推奨されています。BLEの3つのアドバタイズメント・チャンネルはこれらの無線LAN信号と干渉しにくい周波数が選ばれています。

Bluetooth Low Energy登場の背景

IoTデバイスでは、無線モジュールにも低消費電力が求められます。IoTデバイスの中で、センサやマイコンと比較してRF回路は桁違いに大きな電力を消費するので、IoTデバイスの電池寿命を延ばすためには無線部分の消費電力削減が必須になっています。

図5:無線モジュールの消費電力削減手法

この中で最も効果的なのはRF回路が動作する時間を短くすることです。ロジック回路と比較して大きな電力を消費する無線回路が動作している時間を短くすることで、平均消費電力を抑えることができます。一般的にIoTで送信されるデータ量は少ないので、少量のデータをできるだけ短い時間で送信することが消費電力を削減するために必要です。

クラシックBluetoothが低消費電力にできない理由

  • 接続開始までに数100msかかる
  • ペアリングが必須
  • 時刻同期の要求仕様が10μs

これらの制約からクラシックBluetoothでは無線回路を動かす時間を減らすことができず、消費電力を劇的に下げることはできません。

図6:Bluetooth LEで採用された消費電力削減手法

Bluetooth LEでは従来規格との互換性を捨てて新しい規格を策定することにより、大幅な消費電力の削減を実現しました。

ネットワーク構成及び通信方式

マスタスレーブ方式

  • セントラル(スマホ等)がマスタ、ペリフェラル(センサ等)がスレーブとして動作
  • 通信のタイミングはマスタ側が制御
  • すべてのBluetoothでサポート
図7:ネットワーク構成(マスタスレーブ通信)

この場合、通信のタイミングはセントラルが管理しています。セントラルからポーリング信号が一定周期で送信され、ペリフェラルはポーリング信号に対して応答を返します。ポーリングが来たら必ず応答する必要があります。

アドバタイジング通信方式

  • 単方向通信及びブロードキャストをサポート
  • 必要があれば双方向通信(マスタスレーブ通信)に移行できる
  • Bluetooth LEで新しくサポート
  • クラシックBluetoothではサポートされない
図8:ネットワーク構成(アドバタイジング通信)

アドバタイジング通信ではペリフェラルのからの信号をスキャナ(スマートフォン等)で受信します。信号を送信するタイミングはペリフェラル側が決めます。

アドバタイジング通信はペリフェラル側からセントラル(スキャナ)への片方向通信又はブロードキャスト通信ですが、セントラルからの要求により双方向通信に移行することもできます。

図9:アドバタイジング通信から双方向通信への移行

アドバタイザ(ペリフェラル)からは間欠的にアドバタイジング信号が送信され、セントラル(スキャナ)はアドバタイザからの信号を受信しますが、スキャナも常時受信しているわけではなく、一定時間毎に受信と休止を繰り返しています。

図10:アドバタイズ・インターバルとスキャン・インターバル
図11:アドバタイズ信号の出力タイミングの例

BLEでは消費電力を減らすためにアドバタイジング中はごく短い時間だけ電波を出し、それ以外のほとんどの時間は電波を出さない待機状態となっています。この例ではアドバタイズ・インターバルが50msに設定されているので、約400μs電波を送信した後50ms休んでいることがわかります。つまり、実際に電波が出ている時間は全体の約0.8%のみとなっています。電波を送信している時間(RF回路が動いている時間)が短いので、消費電力を低く抑えることができます。

このとき、アドバタイズ・インターバルを50msから500msに変更すれば、平均消費電力をさらに1/10近くにまで下げることができますが、信号が検出されるまでの時間は長くなります。

Bluetooth 5の登場

BLE規格は広く普及していますが、IoTの広がりによってLE規格だけでは対応できない用途も増えてきたので、Bluetooth 5という新しい規格が発表されました。Bluetooth 4.2からBluetooth 5への主な変更点は以下の3点です。

高速伝送モードを追加

LE規格をベースに伝送速度を2倍にしたLE 2Mモードが追加されました。低消費電力であるBluetooth LEの特徴を引き継いだままで伝送速度を2Mbpsに高速化しました。LE 2Mと区別するため、Version 4.xのBluetooth LE規格と互換性のあるモードはLE 1Mと呼ばれます。

長距離伝送モードを追加

伝送距離を伸ばすためのLE codedモードを追加しました。このモードではエラー訂正のための冗長コードを付加して伝送するため、実効データ・レートは遅くなりますが通信距離を最大で4倍に伸ばすことが可能です。ただし、伝送速度が遅くなることによって電波を送信している時間が長くなるので、デバイスの平均消費電力は増加することになります。

メッシュ・ネットワークの追加

初期のBluetoothからサポートされているマスタスレーブ通信、Version4.0で追加されたアドバタイジング通信に加えて、メッシュ・ネットワーク構成が追加されました。

図12:Bluetooth 5で追加されたメッシュ・ネットワークのイメージ

Bluetooth4.xまでは1対1または1対多のネットワーク構成でしたが、Bluetooth 5ではメッシュ・ネットワークが構成できるようになりました。メッシュ・ネットワークではペリフェラルが自立的にネットワークを形成することで、遠距離通信を実現したり通信の信頼性を向上したりすることが可能になります。

このように、Bluetooth 5規格はBLE規格に対しての機能拡張となっています。Bluetooth 5に対応した機器は2017年から普及が始まる見込みです。

今回は近距離IoT通信に使われるBluetooth LE規格を中心に説明しました。次回はBLEやその他のIoT向け無線信号を実際に測定してみたいと思います。

著者
岡田 信孝(おかだ のぶたか)
テクトロニクス
1992年にソニー・テクトロニクス株式会社(現テクトロニクス社)に入社。信号発生器のマーケティングや営業職を経験したのち、現在はRFアプリケーション・エンジニアとして無線関連の技術サポートを担当。

連載バックナンバー

Think IT会員サービス無料登録受付中

Think ITでは、より付加価値の高いコンテンツを会員サービスとして提供しています。会員登録を済ませてThink ITのWebサイトにログインすることでさまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think IT会員サービスの概要とメリットをチェック

他にもこの記事が読まれています