第1回:「勘と度胸」に「知恵」を加えた意思決定を実現するには (3/3)

情報の開放
情報の開放が経営を変える戦略的情報活用へのアプローチ

第1回:「勘と度胸」に「知恵」を加えた意思決定を実現するには

著者:サイベース  富樫 明   2007/1/22
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サプライチェーンにおける意思決定

   開発から販売、保守までのサプライチェーン全体の中で、業務品質の向上をはかり、納期を短縮し、そしてコストを削減していくことが求められています。このために、サプライチェーンマネジメントの仕組みを構築し、プロセス全体を自動化している企業は少なくありません。

   しかし、この取り組みの中で最も重要なことは、プロセスの自動化が最終目的ではないということです。例えば、販売の状況がタイムリーかつ正確に開発や生産、物流の現場に提供される、逆に生産の状況が販売の現場に提供され、開発、調達、生産、物流、販売、保守のそれぞれの現場の知恵が最大限に活かされるということが重要なのです。特に、多様な顧客ニーズ、少量多品種の品揃えが要求される状況の中では、情報不足が過剰在庫や販売機会の損失などの大きな怪我につながる危険があるわけです。

   サプライチェーンマネジメントシステムでありながら、定型フォーマットで決まった情報しか提供できない仕組みでは、本質的な問題解決であるとはいえません。解答は、サプライチェーン上の様々なデータを、サプライチェーンに携わる1人1人に開放し、知恵を引き出すことです。

リスク管理における意思決定

   最近でも企業の不祥事が後を絶ちません。このため、企業が自ら襟を正し、社会的な責任を果たすことに対する要請は極めて強いものがあり、いわゆる日本版SOX法や新会社法の中でも内部統制の強化がうたわれています。不祥事に対する社会的な制裁も大きく、企業の存続に関わるケースも少なくありません。

   このため企業のリスク管理体制の強化が急務になっています。例えば金融業では、監督官庁から信用リスク、BIS規制、VaR(Value at Risk:現在価値分析)、そしてオペレーショナルリスクへと極めて高度かつ広範なリスク管理を求められています。また、製造業においては製造物責任(PL)法に代表されるような製品品質に関する問題が最大のリスクになります。

   情報システムの分野では、エンドユーザコンピューティングが情報システム部門の管理から外れてしまうことは珍しいことではなく、各部門で行われている活動に潜むリスクが見えにくくなっています。

   リスク管理を行う上で最大の問題となるのが「情報不足」です。リスクの存在、影響度、根本的な原因を的確に評価できない場合、リスク対応は極めて脆弱になります。

   例えば、基幹業務システムに蓄積されるデータはビジネスそのものであるといえます。システムに対する不適切な入力やデータ変更があれば、その記録は確実に蓄積されます。しかし多くの場合、それらの記録はシステムが吐き出す定型フォーマットによる帳票にはあらわれてきません。そして、せっかく蓄積された記録は意思決定にはまったく貢献しないわけです。

   また、すでに市場に出荷された製品に問題が発生すれば、調達、製造、出荷、物流にかかわるデータを包括的に分析することが必要になります。つまり、過去の履歴を追跡することができる「トレーサビリティ」の能力が重要ということになります。

   リスクを評価する立場の人々が、必要な情報をタイムリーに入手できる仕組みを構築し、リスク感知能力を研ぎ澄ますことが重要です。


医療現場における意思決定

   医療の現場では、毎日多数の処方箋が発行されており、異なるメーカーの異なる薬が組み合わせで提供されています。薬の選択は医師の判断で行われる訳ですが、その情報量は膨大であるとともに医療技術は日進月歩で進化を続けおり、情報が追いつかないことがあります。最新かつ的確な情報が医師に提供されるならば、医療サービスの品質は向上し、医療事故の防止にも繋がります。

   このように、連日人の命にかかわわる無数の意思決定を行っている先生方に的確な情報提供がなされることは極めて重要であり、電子医療の盛り上がりの中で、定型業務を越えた情報提供による意思決定支援は、今考えるべき重要なテーマといえます。


顧客の意思決定を支援

   顧客1人1人、1社1社の要求に対して決め細かな対応を行うというのがCRM(カスタマ・リレーションシップ・マネージメント)の考え方です。ここ数年、このCRMシステムに対して各企業が積極的な投資をしてきました。この活動の一環として、顧客に購買履歴や購買傾向に関する情報を提供し、新しいサービスや製品の提案を行う、という活動を行う企業が増えてきました。例えば、携帯電話の利用履歴に、利用時間帯別の通話時間を記載し、顧客の通話傾向に合ったサービスを提案する、といったものです。

   競争優位を作り出すことが非常に難しい近年、このようなきめ細かいサービスの提供可否がビジネスの成長を左右するといっても過言ではありません。

   このような情報活用を行う場合、非常に多くの顧客の取引データをタイムリーに分析できる仕組みを適切な投資の中で行っていく必要があります。


情報の開放とは

   ここで、意思決定プロセスにおいて「情報を開放する」ことの意味をまとめてみましょう。意思決定は一部の経営者や管理者だけが行う活動ではなく、企業や組織のあらゆる人々が自分の業務と責任の範囲で意思決定を行っているということを認識する必要があります。

情報活用のあり方
図2:情報活用のあり方
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   このような様々な意思決定を支援するためには情報は、できるだけ広範囲に集め、できるだけ多くの人たちが活用できるような仕組みが必要になります。次回は情報を実際に活用するための仕組みについて解説していきます。

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サイベース株式会社 マーケティング本部 本部長 富樫 明
著者プロフィール
サイベース株式会社
マーケティング本部 本部長
富樫 明

日系大手コンピュータメーカで海外ビジネスに21年間携わった後、ベリタスソフトウェア、シマンテックでマーケティングに従事。2006年より現職。著書に「内部統制今知りたい50の疑問」


INDEX
第1回:「勘と度胸」に「知恵」を加えた意思決定を実現するには
  情報を開放する
  「勘と度胸の意思決定」から「知恵を集結した意思決定」への転換
サプライチェーンにおける意思決定
情報の開放が経営を変える戦略的情報活用へのアプローチ
第1回 「勘と度胸」に「知恵」を加えた意思決定を実現するには
第2回 何故、情報活用ができていなかったのか

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