Gen AI Times 61

【シリコンバレーへの挑戦状】教育投資1.5万円の日本が、AI×現場力で世界を逆転する「実戦戦略」

本記事は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属するメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介&深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来に皆さんをご案内します。

田中 悠介

6:30

シリコンバレーの背中を追う必要はない

2026年1月27日(火)〜1月29日(木)、東海地区の中心地である名古屋市で総勢6000名を超えるグローバルなイベントの祭典「TechGALA 2026」が開催された。「日本はもう、シリコンバレーの背中を追う必要はない」と、登壇者は断言した。

世界的なSaaSの失速、AIエージェントの台頭、そしてフィジカルAIへの回帰。激変する世界の潮流の中、なぜ日本の「現場」と「OJT文化」が最強の武器になるのか。3名の生成AIギルドオーナーが、忖度なしで語り合った「世界市場を獲りに行く実戦戦略」の全貌を、筆者自ら解説する。

Tech GALA 2026

去年のセッション数は100を超え、登壇者の数も400を超えるほどの大規模カンファレンスで、筆者も、2年連続で登壇した。

昨年のテーマ:組織論
「生成AIで組織を生まれ変わらせろ!~集団知が未来を切り拓く~」
2025年2月5日(水) 12:45-13:30

【号外:生成AIが切り拓く未来】製造業DX推進における組織変革の実践と挑戦 ー2月5日開催「TechGALA」レポート」(2025/02/28 ThinkIT)

昨年開催時の様子

今年のテーマ:世界戦略
綺麗事なし。東海AI連合が描く、世界市場を獲りに行く実戦戦略
2026年1月28日(水) 14:00-14:45
【登壇者】

  • 村上 拓朗 氏(株式会社FriSti 代表/AI×メタバース起業家)
  • 伊藤 雅康 氏(Studio Veco 代表/AI映像クリエイター・教育活用協会 副代表)
  • 田中 悠介(Givin' Back株式会社 取締役/本記事筆者)

STATION Ai「生成AIギルド」紹介記事

今回は、STATION Aiの「生成AIギルド」を牽引する3名のオーナー陣が集結。昨年の「組織変革」というテーマから一歩踏み込み、今年は「世界でどう勝つか」という問いに対し、忖度なしの議論を展開した。

本記事では、このセッションの全貌を、登壇者である筆者自身の視点で、スライドを交えながら解説する。尚、伊藤氏の視点については、別途他記事にて報告する。

セッション当日の内容(左から田中悠介(筆者)、伊藤雅康、村上拓朗)

世界の潮目は変わった:
SaaSの黄昏と「IP」の台頭

セッション冒頭、我々が突きつけたのは「SaaSの黄金時代の終焉」だ。 村上氏が指摘したように、米国市場ではSalesforceやAdobeといったSaaSの巨人の時価総額が揺らぎ始めている。

「ソフトウェアで人間が効率化する」時代から、「AIが業務を代行する(Agentic AI)」時代への転換点に我々はいる。では、次の勝機はどこか。伊藤氏が提示した答えは「IP(知的財産)とエンタメ」だ。

【参照】「「SaaSの死」業務ソフトにAI代替の荒波 4社時価総額15兆円消失」(日本経済新聞 2026/01/28)

「日本の時価総額トップは自動車産業だが、世界を見ればエンタメ産業が自動車を上回る逆転現象が起きている。日本には『何々くん』のようなキャラが街中に溢れているが、これほど自然にIPを生み出せる国は稀有だ」(伊藤氏)

AIによる空間生成やコンテンツ制作のコストが劇的に下がる今、日本が持つ「コンテンツを生み出す力」は、自動車産業に次ぐ、あるいはそれを凌駕する武器になり得る。

【深層解説】会場がざわついた
「1.5万円 vs 30万円」の真実

次に議論は「人材戦略」へと移った。ここで私が口頭で伝えた内容に会場から大きなどよめきが起きた。それは、日米欧の企業における「従業員1人あたりの教育投資額」の比較データだ。

  • 欧米(米国・EU): 約10万〜30万円
  • 日本: 約1.5万円
英国、EUデータ及び厚生労働省のデータを元に自社にて作成

「日本企業は欧米の1/20しか人を育てていない」。 一見そう見えるこの数字を、私は「日本の勝機」として逆説的に解説した。このデータは、あくまで外部研修などの「OFF-JT」の費用だ。

欧米は「ジョブ型」であり、スキルを持った即戦力を高い金で「買ってくる(OFF-JT)」文化だ。対して日本は、新卒を一括採用し、現場で磨く「OJT(On-the-Job Training)」の文化がある。

先輩が後輩に時間を使い、手取り足取り教える。この巨大なコストは、上記の数字(1.5万円)には表れていない。 日本は教育を「外注」せず、「内製」してきた。これまではそれがブラックボックス化していたが、AI(生成AIや音声解析、マルチモーダルAI)の登場によって状況は一変した。

『背中を見て覚えろ』という、世界で最も分厚い「暗黙知」をデジタル化・資産化できるようになったのだ。 欧米が持っていない「OJTという名の教師データ」。これこそが日本の勝ち筋である。

PwC、Trythbit AIのデータを元に自社にて作成

参照データ(OFF-JT:一人当たりの投資金額)

(日本:厚生労働省)
令和6年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」(厚生労働省 2025/06/27)

(英国:政府データ)
Employer Skills Survey , Calendar year 2024」(Explore education statistics 2025/07/24)

(米国:Industry Report)
2025 Training Industry Report」(training 2025/11/10)

(欧州:eurostat)
Statistics on continuing vocational training in enterprises」(eurostat 2022/11)

AIプレミアム価格 (PWC) 「Beyond the algorithm: Why sustainable AI is the defining human challenge of 2026」(PwC Belgium 2025/12/15)

シリコンバレーが見捨てた「99%の現場」こそが宝

では、モノづくりの集積地・東海エリアは具体的にどこで戦うのか。 村上氏が掲げる「フィジカルAI(ロボティクス)」の議論の中で、私は自身の実体験を交えてこう語った。

「シリコンバレーは今、彼らが見捨ててきた99%の現場を見ようとしている」

実は最近、私がSNS(LinkedIn等)でトヨタの「改善(KAIZEN)」や「なぜなぜ分析」、そして現場の安全管理についての発信を始めたところ、驚くべき現象が起きた。海外のトップエンジニアたちから、直接DMが届くようになったのだ。

彼らはデジタル空間(1%の世界)のことは天才的だが、物理世界の現場(残りの99%)のデータを持っていない。 「人間がどう動けば効率的か」「どうすれば事故が防げるか」。

この泥臭い現場の知見(ドメイン知識)を最も持っているのは誰か? それはGAFAではなく、東海の製造業だ。

彼らが持っていない「現場のリアル」を、我々は持っている。 だからこそ、AI×ロボティクスの最前線では、自動車業界600万人が関わっている中心である東海の現場が世界の実験場として熱視線を浴びているのだ。

日本のOS「アニミズム」

さらに伊藤氏は、このハードウェアに宿る精神性について言及した。 西洋的な価値観では「AI=支配すべき道具」だが、日本には「アニミズム(八百万の神)」がある。ロボットにも針にも魂が宿ると考え、共に生きる感性。

「AIやロボットを『道具』としてではなく、『仲間』『共犯者』として捉える日本の感性。これはヒューマノイドと人間が共存する社会における最強のOS(基本設計)になり得る」(伊藤氏)

「現場のデータ」と「アニミズム」。この2つが揃う東海エリアこそが、フィジカルAI時代の中心地になる。

【参照】「筆者 LinkedIn

結論:エデュケーショナルAI(Educational AI)

セッションの総括として私が提唱したのが、「エデュケーショナルAI」という概念だ。シリコンバレーが目指しているのが「自動化(Automation)」による無人化だとするならば、我々が目指すのは「共育(Co-education)」による人間拡張だ。

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弊社作成の「Physical AI」と「Educational AI」の違い

現場の職人が持つ「勘・コツ・経験」をAIに教え込み、逆に人間もAIから最適解を学ぶ。 「人間とAIが互いに教育し合い、共に成長する」 このサイクルを回せるのは、99%の現場を知り尽くした我々だけだ。

シリコンバレーの手法を否定するわけではない。しかし、彼らがデジタルに寄りすぎた結果、取りこぼしてしまった『物理世界の泥臭さ』にこそ、我々の勝機がある。

あえて過激な表現をするならば「シリコンバレーに中指を立てて、独自の道を行く」。多少過激な表現にはなったが、それくらいの気概で「現場発のイノベーション」を起こすことこそ、東海AI連合の実戦戦略である。

編集後記:TechGALAのその先へ

45分間のセッションと、その後の質疑応答を通じて感じたのは、「現場への回帰」への確かな手応えだ。 オンライン全盛の時代に、なぜSTATION Aiに人が集まるのか。それは、Zoom越しでは伝わらない「本気の熱量」がそこにあるからだ。

2026年、TechGALAで語られたこの戦略は、机上の空論ではない。すでにSTATION Aiでは、数多くのスタートアップと大企業が「エデュケーショナルAI」の実装に向けて動き出している。

我々はもう、「会社でAIの話が通じない」とは言わせない。 ここ(東海)から、世界を変える新しい「共通言語」を作っていく。

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