第1回:CRMの戦略性と定義をめぐる問題 (2/3)

CRMの動向
経営革新を担うCRMの動向

第1回:CRMの戦略性と定義をめぐる問題
著者:デジタルハリウッド大学   匠 英一  2006/3/16
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顧客満足と売上げの目標が持つ問題とは?

   実は、どの顧客にも同じように顧客満足度をあげることは、コスト負担を大きくして企業の成長を阻む要因となる。

   そのため、インフラ系の企業(電話会社など)であれば不満客に対して重点投資し、高級商品を扱う企業なら満足客をさらに満足させることに重点を置く戦略性が不可欠となる。

   また「売上げ」という指標の一面化は、営業の現場を市場シェア拡大に走らせ て、営業利益率(ROI)の低下につながる。

顧客満足と収益性の相関関係
図1:顧客満足と収益性の相関関係

   これらのトレードオフの問題を解決する選択の視点は「顧客満足経営」にはなく、満足度アップが自己目的になってしまうCS(Customer Satisfaction)運動などが多かった。

   こうしたことは、すでに欧米での顧客満足度と企業成長の関係の追跡調査でも明らかになっている。CRMの失敗率が高いといわれる背景には、ITシステム自体の問題よりも、日本では何をするかという目標設定(戦略性)の問題にとくに注目してく必要がある。


CRMの3文字用語に潜む問題

   CRM導入の失敗原因を把握する上で、IT業界の在り方にも目を向けておこう。IT業界では何でも3文字用語で語ることが多い。その典型がCRMであるが、この言葉には次の3つの視点が混同されて使われていることに注意する必要がある。

  1. マネジメントとしてのCRM(図2:マネジメント層)
  2. マーケティングとしてのCRM(図2:マーケティング層)
  3. ITシステムとしてのCRM(図2:ITシステム層)

表3:CRMの3つの視点

CRMの領域区分
図2:CRMの領域区分

   本来のCRMの原義はCustomer Relationship Managementである。ところが、欧米ではもう1つ「Customer Relationship Marketing」というときもCRMと称される。

   特に表3の2についてはマーケティング戦略として、CRMより先にOne to One Marketingが90年代はじめよりブームになったため、その創始者ドン・ペパーズの影響がCRMにも反映されている。ただし、現在ではドン・ペパーズ自身もCRMという言葉を使用して自著を解説することが多くなった(近著「Return On Customer」参照)。

   これらは経営手法の「戦略論」としてのCRMである。そして、CRMをITシステム化の手法として強調する場合、基幹系のERPとの区別するために営業系のSFAも含めてCRMというのが、最近のIT業界では一般的となっている。

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デジタルハリウッド大学 デジタルコミュニケーション学部 教授 匠 英一
著者プロフィール
デジタルハリウッド大学
デジタルコミュニケーション学部  教授
匠 英一

90年に(株)認知科学研究所代表取締役に就任し、以後大手PCベンダーのコンサルティングや国家認定のIT資格試験の受託開発、サテライトオフィス企画などに従事。95年に(株)ヒューコム入社後、インターネット事業を推進。公的な役職として、ネットワーク協議会Eビジネス委員会座長、日本インターネット協会幹事等歴任。2003年に早稲田大学客員研究員に就任。2005年にデジタルハリウッド大学 教授に就任。現在CRM協議会の運営や大手ベンダーなどのCRMコンサルティング・研修業務をヒューコム社の主席コンサルタントとして従事。


INDEX
第1回:CRMの戦略性と定義をめぐる問題
  はじめに
顧客満足と売上げの目標が持つ問題とは?
  CRMの効果とは何か
経営革新を担うCRMの動向
第1回 CRMの戦略性と定義をめぐる問題
第2回 見える化と個人情報保護法から考えるCRMの実践手法

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