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UML導入に関する考察
UML導入に関する考察

第3回:UMLを導入することで期待できる効果
著者:野村総合研究所  田中 達雄   2005/7/14
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組み込みソフトウェア開発からの視点

   次に組み込みソフトウェア開発に関するデータも見てみよう。組み込みソフトウェア開発は、外部リソースへの依存率が80%を越えており(図2)、その理由として「社内リソース不足」が45%を占め、次に続く「自社に技術がないため」の13.4%を大きく上回っている(図3)。
組み込みソフトウェア開発の外部委託
図2:組み込みソフトウェア開発の外部委託
出所)経産省2004年版組み込みソフトウェア産業実態調査より

外部リソースを使う理由
図3:外部リソースを使う理由
出所)経産省2004年版組み込みソフトウェア産業実態調査より

   このように外部依存率が高い開発環境にあって、外部リソースを使っていて課題となっていること(図4)を見ると「要求仕様や設計仕様の共有や伝達が難しい」が32.8%で第1位になっている。

外部リソースを使っていて課題となっていること
図4:外部リソースを使っていて課題となっていること
出所)経産省2004年版組み込みソフトウェア産業実態調査より

   これらの統計データから見ても、外部リソースを使う際の情報伝達の難しさや重要性は組み込みソフトウェア開発に限った話ではない。ましてや海外リソースを使うとなればより難易度は高まるはずだ。


情報の共有

   海外リソースを含む外部リソースとの情報伝達は、技術者がやるから関係ないと思われている方はいないだろうか。しかしこんなデータがある。「失敗プロジェクトを振り返り、何が必要であったか。プロジェクトを成功に導く要因は何か?」との問いに対し、米国のある調査会社が出した結果は、「ユーザの参画」である。

   つまりユーザ自身も自らの要求を伝達したり、技術者がまとめた情報を確認し承認したりする必要があるということである。その情報伝達は文章ではなく、専門領域が異なる者同士が理解し合えるツール(モデル)が必要であり、世界の有力なデファクトがUMLと言えるだろう。


もう1つの生産性の向上方法

   もう一点、増加傾向にある開発量に対し、外部リソースを使うという人海戦術だけでなく、自らの開発生産性を向上するという方法もある。この方法を実現した事例が「株式会社リコー」と「株式会社八千代銀行」である。両事例とも、UMLモデリング・ツールを使いMDA開発を行うことでプログラム自動生成を効率的に行い、自らの開発生産性を向上させることに成功している。

   両事例の時と比較し、昨今のUMLモデリング・ツールはMDA機能がより高度化し、そのプログラム生成精度も向上し、多くの開発現場で効果を出せるレベルにまで到達したと思われる。また、反復型開発プロセスに順応した変更管理機能も充実し始めている。

   今後のソフトウェア開発は、より高品質に、より複雑に、より大規模に、より短期開発になる傾向にある。このようなソフトウェア開発現場にあって、UMLは海外リソースを含む外部リソースとの情報伝達を助け、そして開発プロジェクトを成功に導くユーザの参画を支援し、MDA開発のインプットモデルとして開発生産性の向上を実現するものとして期待できるレベルに達したのではないだろうか。

   次回は、今後のUMLの動向について最近のトピックを交えながら解説したいと思う。

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野村総合研究所
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  田中 達雄
1989年4月に富士通株式会社に入社。ソフトウェア工学を専門分野とし「UMLによるオブジェクト指向開発実践ガイド(技術評論社出版)」を共著。2001年2月に野村総合研究所に入社。現在、情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。Webサービス/BPMなどの統合技術、エンタープライズ・アーキテクチャなどが専門。


INDEX
第3回:UMLを導入することで期待できる効果
  UML採用の目的
  UML導入が目的の成功要因になっている例
  古河電気工業株式会社
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