第3回:日本の人事制度の現状 (2/3)

IT戦略と人材マネジメント〜IT効果による人材革命
IT戦略と人材マネジメント〜IT効果による人材革命

第3回:日本の人事制度の現状
著者:日本ピープルソフト  小河原 直樹   2005/9/2
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日本の人事制度

   日本では資金調達手段として、金融機関からの間接融資が主流であった。これは第二次世界大戦後の経済復興のため、国家的戦略の一環として行なわれた。そのため、日本企業では、株主の利益という考え方が希薄であり、会社は株主のものでなく従業員のものであるという考えが根付いた。そして企業戦略は、従業員の雇用の維持を最重要課題と位置付けた。人事政策の柱として「終身雇用制度」が確立されていった。

   終身雇用の下では、人件費は金利と同様に毎月支払わなければならない固定費である。「終身雇用制度の人件費の固定費化」、これが日本企業に長期的戦略を採らせ、日本経済の牽引車の役割と、社会の安定に寄与した。

   日本企業では、長期的視野にそった企業戦略を立てる上で、人材に関しても、その企業に必要な人材を社内で育成する方針を採用した。そのため、入社時は特定の職種に対する専門性を持った人材よりは、適性を見て配置し、仕事を通じて企業に役立つ人材を調達するため、新卒の「一括採用方式」が採用された。

   このような背景の下で、日本の大学では欧米ほど「卒業後の専門性」を意識したカリキュラムが浸透せず、どちらかというと、知識を身に付けるための授業形式となった。

   また、学生も将来の自分の専攻科目と具体的な将来を見据えた履修という考えは希薄である。大学で何を学ぶかよりも一流大学に入る方が日本では大切なのだ。なぜならば、一流大学に入れば、一流企業に入社できる可能性が高いからであり、学卒のほとんどは、終身雇用の下、一旦入社した企業に定年まで勤めるのが普通だったからだ。

   入社後、仕事を通じて技能を修得し、色々な部門に配属転換をしながら、部門間の人的交流やさまざまな経験を積ませることにより、企業に必要な人材に育てていくやり方が、日本の人材マネジメントの根幹である。

   終身雇用の下で、従業員の配置や昇給・昇格を計画するのは人事部の仕事である。そしてその際に、もっとも考慮される要因が勤続年数である。年功序列制度が終身雇用制度と共に日本の人事マネジメントの両輪になった。

   採用時には皆が同じスタートラインに立ち、横一線に並んで同期同士の激しい競争が始まる。終身雇用下で決定的な昇進の差がつくのは、入社して20年以上経てからである。それまでの期間は、小さな成功を繰り返して大きなミスを犯さないように皆が気をつける。

   最終的な結果が出るには時間がかかるが、手を抜けば脱落に繋がる。ストで電車が止まった時でも、線路の上を歩いて出社する。課長の引越しの時には、休日返上で手伝いに行く。例え昇給の差が数百円でも、相手より勝っていることが重要であり、将来に跳ね返ってくる。終身雇用制度は、社員同士の競争心を煽り続け、勤労意欲を持続させる働きを持っていた。

   しかし、長引く不況とグローバリゼーション、産業構造の変化により、終身雇用と年功序列を日本企業は見直し始めている。第一次オイルショック時に各国の失業率は跳ね上がったが、日本は小幅上昇にとどめ、日本型経営を維持し続けた(表1)。しかし今回の不況は、日本企業の雇用維持努力の許容範囲を超えてしまった。低成長の定着により、企業目標の短期化を助長し、アメリカ型の企業行動に近づきつつある。

- 日本 アメリカ イギリス 西ドイツ
1972年 1.4% 5.6% 3.8% 1.1%
1973年 1.3% 4.9% 2.7% 1.2%
1974年 1.4% 5.6% 2.6% 2.6%
1975年 1.9% 8.5% 4.1% 4.7%
1980年 2.0% 7% 6.4% 3.8%
1982年 2.4% 9.5% 11.7% 7.7%
1983年 2.6% 9.5% 12.3% 9.1%
1984年 2.7% 7.4% 12.7% 9.1%

表1:第一次オイルショック前後の失業率
出典:日本生産性本部「活用労働統計」

   右肩上がりの経済成長期ならば、伸びつづける収益で増えつづける人件費も十分カバーできたが、低成長の定着により、賃金制度自体を見直さざるおえない。固定費の人件費を会社の利益に応じて変動費にするためには、年功序列の賃金制度から、会社の利益に応じた配分方法に変えざるをえない。このような状況下で、成果主義は経営者にとっても魅力的である。短期的には、社員同士の競争心を煽り業績アップをはかることも可能である。その結果、同期入社の社員の間で、年収が何百万円も差がつく現象が起こっている。

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日本ピープルソフト社 小河原 直樹
著者プロフィール
日本ピープルソフト株式会社  小河原 直樹
米国Baylor大学大学院国際ジャーナリズム学科卒業後、SAPジャパン(株)にHRコンサルタントとして入社。その後、外資系金融企業で日本及びアジア地域の人事責任者として勤務。現在日本ピープルソフト(株)でHCM Global Product Strategy. Senior Managerとして日本の製品戦略の責任者。


INDEX
第3回:日本の人事制度の現状
  職務給と職能資格制度〜仕事ありきか人ありきか
日本の人事制度
  成果主義の評価システム

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