ERPの導入によってBRPを提供する

2005年12月15日(木)
鍋野 敬一郎

BPRとERP導入

最近のERPの傾向として、ERPパッケージを短期間かつ低コストでシステム構築を行うアプローチが増えているようです。例えば、高額なERPシステム構築にテンプレートや独自手法を適用して、短期導入や導入コスト抑制を実現しています。ERP導入が顧客にとって、リーズナブルかつコストパフォーマ ンスの高いソリューションになってきたといえるでしょう。

しかしERPパッケージによるシステム構築が身近になった反面、本来のERP導入意義が軽視されているように感じられます。事実、ERP導入企業の多くがその導入効果に十分満足していないという調査報告書もあります。

ERP導入は確かに容易になったのですが、これは「システム構築」という部分だけがベンダーや導入業者の努力によって改善しただけであり、ERP導入で統合マスタ、統合データベースによる全社最適が実現できるわけではありません。

ERP導入のポイント「目標の設定(全社最適の実現イメージ)」
図1:ERP導入のポイント「目標の設定(全社最適の実現イメージ)」


つまり、ERPシステムを入れるだけでERP導入は成功できません。

BPRをやらずして、ERPの成功なし

「ERP導入プロジェクトは全社最適を睨んだ業務改革からはじめる。その具体的な成果物の1つとしてシステム再構築がある」この言葉は1990年半ばにERPが日本に普及しつつある際に、外資系ベンダーが盛んに叫んでいたキーワードです

「BPR(業務改革)の実現とその手段としてのERP(統合基幹システム)」

BPR(ビジネス・プロセス・リエンジリアリング)を説いたマイケル・ハマー氏の著書である「リエンジニアリング革命—企業を根本から変える業務革 新」(日本経済新聞社刊)は、ERPを大企業に提案する手段として有効でした。これは掛け声だけではなく、大手企業が直面していた悩みを実際に解決する手 法として説得力のあるものでしたし、ERPを採用する正当性も明確でした。

冒頭でも説明した通り、ERPシステムを低コスト、短期間で導入するテクニックは以前よりレベルアップしたと思います。しかしBPRの部分については逆行しているようです。

ERP導入を検討する大半の企業は、BPRを予算獲得のための掛け声程度にしか使っていないような気がします。ERPを提案する業者は多くなりましたが、ERP導入を成功するためのBPRをちゃんと提案できる業者は少ないようです。これではERP導入効果が低いのもうなずける話です。

BPRは難しくない?

以前は大企業でしか見られなかった、ERP導入に際する相見積りやRFP提示が中堅・中小企業でもあたりまえに見られるようになりました。ERPシステム構築に関する要件対応もきめ細かく良くなり、価格的にも納得できるものが多数あります。しかし、ERP導入を成功するためにBPRを提案するのは容 易なことではありません。

恐らく大半の導入業者の方は、BPRはコンサルティングファームやお客様社内の問題で提案できないと思っています。また、SIerなどの導入業者にこうしたノウハウが蓄積されていないのも事実です。

コンサルティングファームはこうした業務経験も人材も豊富ですので、BPRに関する提案は上手なのですが、値段も高いので中堅・中小企業の提案に登場することは少ないようです。しかし、Slerなどの導入業者にBPRを含めたERPの提案ができないわけではありません。

ERP導入の大半は、財務会計に絡んだシステム再構築を前提としています。つまり、財務とその周辺魚無の管理がERP導入の軸となります。財務会計に接点がある業務を見直すことが、結果としてBPRとなります。

つまり財務起点で業務プロセスを整理することが、BPRとしての要件を満たすことになります。ERP導入を前提としたBPRですが、これで予想以上のERP導入成果を期待できます。

このアプローチの最大のメリット、コンサルティングファームにBPRを依頼するよりも遥かに安く業務の見直しができること。ERP導入の導入効果を、導入前に予測できること。そして、他の競合する導入業者との差別化が期待できます。コツとしては、報告書を経営層にも読んでもらえるように10ページ 程度(最大でも20ページ程度)にすることです。

お客様へのメッセージ

SIerなど導入業者が、BPRを提案する具体的な方法とアプローチは以下の通りです。

はじめに1〜3ヶ月の期間と経営企画、情報システム、経理財務そしてSIerなど導入業者で、少数精鋭のチームを作ります。次いで、ERP導入対象となる各事業部の主要な業務を選びます。この各業務を受注から請求、回収まで一連の業務プロセスを書き出します。

この業務プロセスの標準処理と例外処理を理解した上で、経理財務の業務に接点があるものを探します。例えば、受注や請求は売上や売掛金に連動しますから営業部門と経理部門の接点があるわけです。購買や在庫管理も、買掛金や資産に連動しますから同様に接点があるとします。

通常これを業務プロセスの可視化と呼び、財務に関係するものがすべて内部統制に絡みます。

ERP導入提案において、他導入業者と差別化できるポイントはERPパッケージの機能や導入実績・費用だけではないと思います。

ERP導入を成功させるアプローチとして、前述のようなBPRフェーズを提案をしてみてはいかがでしょうか。

このBPR作業は多少慣れが必要ですが、コツは「完全なものを作ろうとしない」ことです。完璧性を求めるよりも、「なぜギャップが出ているのか」「ERPシステム導入に直接関係するか」を見つければ結構です。

この作業により、お客様にERP導入を成功するためには「システムに関係しない業務や組織の見直しによる効果」と「システム導入による効果」があることを理解して頂けると思います。

他導入業者に負けないERP導入提案として、「弊社の強みはERP導入効果を最大にするBPRが提案できること」を掲げてみてください。さらにBPRフェーズの検討はシステム開発フェーズにおけるムダな作業や手戻りを減らす効果をも生むと思います。もちろん、まずは案件獲得してからの話なのですが。

ビジネス基盤としてのERP活用

「ERP導入は経営戦略を実現するためのIT戦略に欠かせないものであり、ビジネスを強化するIT基盤である」外資系ERPパッケージベンダーや大手SIerはこのようにいっているようですが、これはいったいどういう意味なのでしょうか。

ERP導入による全社最適の実現は、マスタ統合とデータベース統合による効果としてなんとなくイメージできます。しかし「ビジネス基盤」というのは、いまひとつイメージが湧きません。そもそも「ビジネス基盤」とは何を意味しており、これがあるのとないのでは何が違うのでしょうか。

売上げアップに貢献するERP

ERP導入による期待効果の筆頭はやはりコスト削減にあるといえます。

これは昔も今も変わらないのですが、ERPシステムの基本性能からいえば、もっと活用度をあげることが可能です。お客様企業は単体の業務システムではなく、ERPを導入する狙いには、コスト削減だけでなくやはり「売上げアップ」というメッセージも込めたいからです。

「ERP導入で売上げアップなんてできるのか」といわれる方もいると思いますが、決して不可能ではありません。すべてはERPシステムの導入アプローチと使い方にポイントがあります。

ERPシステムの特徴としてあげられるのは下記の2点にあり、この情報をベースに売上げをあげるための情報をタイムリーに収集することができれば、売上げに貢献できるといえます。

  1. 統合されたマスタ
  2. 統合されたデータベース
表1:ERPシステムの特徴


前回でも説明したように、前提条件としてここでいうERPシステムは、単体の業務システムを寄せ集めただけのバラバラな「にせものERP」の場合には適用できません。

ERPを売上げ向上に活用する方法

売上げをあげるために必要なことを一言でいえば「即効性のある見込み顧客の情報をいかに営業に提供できるか」ということです。

営業部門は毎月の計画にそった活動をしており、その情報も基幹システムであるERPに格納されていると思います。この情報は従来月次報告データとして管理されていると思いますが、まずこれを日次や週次単位で活用する意識改革が必要です。次に営業活動は、通常新規開拓と既存顧客への追加提案の2種類にわかれると思いますが、ERPが貢献するのは既存顧客への追加提案になります。

すでに気付かれた方もいると思いますが、ERPには過去の取引情報が入っているわけですから、この情報から見込み顧客をリストに加えて、できるだけ営業活動としてトップセールスを行ってみては如何でしょうか。

重要なのは担当営業ではなく、社長や部長といった幹部によるトップセールスを仕掛けるところにコツがあります。営業担当者が単独で行くと逆効果でトラブルや日ごろの疎遠を責められかねませんが、トップがふらりと顔をだすというところに商機を生み出すチャンスがあります。

ERPを上手く使えば、日夜忙しい営業の手を一切煩わせることなく、過去の取引情報から即効性のある見込み顧客を探し出すことができます。「ERPでなくてもできるのではないか」と思われる方もいるでしょうが、ERPだからこその強みがあります。それはリスク回避です。既存のお客様とは当然ながら様々な取引がありますが、サポートのトラブルや別件商談などが進行している場合など、現状を知らずにトップセールスを行った場合のリスクはご想像の通りです。ここに情報を統合管理する強みがあります。

お客様へのメッセージ

お客様に対してERP導入のメリットを語る場合、コスト削減は確かに最もアピールできるところです。そして、これに加えて「売上げアップに貢献できるERP」を提案するために、お客様の営業活動が新規顧客と既存顧客のどちらの比率が高いのかをヒアリングしてみてはいかでしょうか。

そして、さらに既存顧客に追加提案するために必要な情報を提案するERPで管理できるかも確認してみてください。

これは、あくまでもERP活用による営業活動活性化の一例ですが、「全社の情報を即時に引き出せて活用できる」ということがどれだけお客様のビジネスに貢献できるかを想像できれば、もっと様々な提案ができると思います。

ERPはお客様のビジネスをよくするための道具ですが、大切なのは道具のよさを説明するのではなく、道具の使い方を提案することではないでしょうか。製造業では、工作機械や各種道具をそのメーカが予想もしない使い方で活用するノウハウが多数あります。某大手自動車メーカにも「からくり」といって標 準仕様の道具や機械に手を加えて独自に活用する考え方があるそうです。

ERPパッケージベンダーにはユーザ会を持つところが多くありますが、これこそ道具をよりよく使うためのノウハウ共有の場といえます。

ERPは豊富な機能を持つという以上に、部門間の情報共有によって従来の予想を超えた使い方を実現する可能性を秘めたシステムであると思います。ERPコンサルタントや営業の強みはこうした上手なERPの使い方を知っていることであり、手作りシステムのようになんでも作れることではないことを覚えておいてください。

ERPをビジネス基盤として考えるということ
図2:ERPをビジネス基盤として考えるということ
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)


ERPを「ビジネス基盤」としてご採用いただくことによって、可能性を語ることができればきっとお客様の心も動かすことができると思います。

次回からは、ERP導入の進め方というテーマで「課題の可視化」について説明します。

1966年生まれ。同志社大学工学部化学工学科卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農 業用製品事業部に所属しマーケティング責任者などに従事。1998年よりERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職しマーケティング担 当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経てアライアンス本部にてmySAP All-in-Oneソリューション立ち上げを行った。現在はERPベンダーのマーケティング・アライアンス戦略の支援や、ERP導入業者のビジネス活動 の支援に従事。

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