負けないERP提案
ERP導入の意義
中堅・中小企業でERPの導入が増えているらしい。確かに、外資系の大手ERPベンダーのみならず国産ベンダーも、中堅・中小企業向けERPの新製品を多く出荷しているようだ。
ERP(Enterprise Resource Planning:統合業務パッケージ)というコンセプトとこれを実現するパッケージソフトが日本に上陸して10年余りがたつ。ドイツに本社をおくSAP ジャパンが1992年(業務開始は1993年)にSAP R/3というクライアント/サーバシステムを持ち込んだのがそのスタートだといわれているが、当時馴染みのないERPというコンセプトや日本の商習慣に対応していない機能面の不足を補って、大手企業に売り込むのは正直相当難しかった。
しかし今また、ERPの導入が中堅・中小企業市場で活性化しており、昔と同様にERPという言葉がメディアにもよく登場するようになってきた。それでもERPの売り込みは難しいといわれている。
以前と違ってERPという言葉は認知されている。しかし、ERPパッケージと呼ばれるパッケージソフトウェアを使って基幹系システムを構築しただけで「ERPを導入した」と勘違いしている企業が多い。本来ERPが目指している「ハイレベルの導入効果を実現できているケース」は少なく、ERPは高額なわりに満足度が低いという報告もある。ではなぜ、ERPパッケージを使って構築したシステムのなかで、高い導入効果をだすものとださないものがあるのだろ うか。
それはERPパッケージを使っただけでは、ERPが本来目指している「ERPのコンセプト」を実現できないからである。「仏作って魂入れず」という言葉があるが、まさにこれと同様のことが起こっている。
最近の中堅・中小企業向けERP市場の活性は大変好ましいことであるが、ERPの導入はシステムの機能や価格といった従来の業務アプリケーションを売るテクニックだけでは足りないものがある。
そこで本連載では、売り手側の立場から「どうすればERPの本来の強みをお客様にわかりやすく、かつ的確に伝えることができるのか」というテーマで格安業務パッケージに対抗して、本来ERPが目指している狙いを正しく伝えるための負けない提案活動を紹介してきたい。
「Why ERP?」なぜERPを導入するのか
お客様からのよくある質問の1つに「ERP導入の意義って何ですか?」というものがあります。この質問にはなんと答えればよいのでしょうか。次のように答えればよいのでしょうか。
- 「部門間で分断した情報を統合して一元管理します。これによって全社最適を実現します。」
- 「BPR(業務改革)することによって、ムダを省き全社の経営資源であるヒト・モノ・カネを最適化します。」
- 「経営レベルにおける意思決定を月次レベルからリアルタイムにすることにより、タイムリーかつ迅速な経営判断が可能となります。」
確かに、上記3つの答えは間違ってないと思います。事実、私も使っています。しかしシステムを入れただけで、本当にそんなことができるわけではありませんし、別にERPでなくてもできそうです。
ERP導入の前提条件として、全社の経営資源(ヒト、モノ、カネ)を経営層が目標とする数字をトップダウンで全社につたえ、これを実現するための日 常業務の結果が速やかにボトムアップで経営層にフィードバックされる手段としてERPという仕組みを使うという理解が必要です。全社の活動を集中管理し、 徹底して「情報を活用する」というところがポイントです。
つまり、「ERP導入の意義」とは経営層と現場の相互コミュニケーションのための手段であり、「集中管理された全社情報を上手に活用するための基盤である」でもあります。
「ERPの会計機能は、実績もありバグも少なくコストパフォーマンスに優れています。老朽化した経理システムのリプレースに最適です。」という紹介をしている方もどこかにいるかもしれませんが、以下のようにもう一言付け加えてみませんか。
「すべての部門でERPを適用した場合、高いコストパフォーマンスを実現するだけでなく、部門と部門、経営と現場のリアルタイムの情報共有が可能となり、全社情報を最適に活用できる基盤が整います。この情報を最大限活用することができれば、御社の強みをさらに強化できると思います。」
業務ソフトとERPパッケージの違い
ERPパッケージの中にも業務ソフトからスタートしてERPパッケージとなったものも多数あります。1972年に創業した独SAP社も最初の製品は IBM社のメインフレーム上で動く原価管理ソフトであったと聞いています。それから30年余りがたち、1992年に販売を開始したSAP R/3は経営とITをキーワードにERPという新しいシステムカテゴリーを作りました。
業務ソフトとERPパッケージの両者はよく似ているのですが、実際にはその目的と仕組みが大きく異なります。以下からは、その点について説明します。
ERPのコンセプト
従来の業務システムは、日常業務を自動化・効率化することを狙いとした現場担当者や管理者のためのITだといえます。これに対して、ERPは企業経営という視点から経営効率や経営資源の最適化を狙いとした経営者のためのITだといわれます。そのキーワードとして、よく「全体最適」と「部分最適」という言葉が使われます。
販売管理システムは、営業部門の効率化や自動化によって、顧客情報の管理向上や受注活動を支援するための情報システムです。生産管理システムは、製品を低コストかつ迅速にムダなく生産するために、工場や生産管理部門の原価管理や製造工程管理を支援します。
また経理システムは、企業の活動を財務という視点で管理し、対外的に報告書を作成するために必要です。
ERPはこうした業務ごとのシステムを寄せ集めたシステムの集合体ではなく、企業全体からみた効率やムダの排除を狙っている経営者に特化したシステムです。経営の視点で情報を管理するということは、部門間にまたがる業務プロセス(ビジネスプロセス)の切り口で情報を見ることを意味します。これにより、ヒト、モノ、カネといった経営資源のムダを見つけやすくなり、コスト削減や業務効率の向上が可能となります。
似て非なるもの
ERPの基本的な機能として、財務管理、販売管理、生産管理といった個々の業務システムの機能を内包していることがあげられます。そして、すべての機能は業務プロセス(ビジネスプロセス)で繋がっており、マスターの統合と全社のデータを一元管理するための統合データベースが完備されています。
この統合マスターと統合データベースというところがERPの特徴でもあり、別にERPパッケージと呼ばれるパッケージベンダーが開発したソフトを使わなくても、このコンセプトが採用されたシステムはERPであると呼んでもよいと私は考えています。
しかし実際には、業務ソフトを寄せ集めて無理やりERPと呼んでいる製品も世の中には存在します。こうした製品は、販売情報と財務情報の同期にタイムラグがあったり、受注から出荷、請求から回収に至る業務プロセス(ビジネスプロセス)に一貫性がなくデータに不整合が生じることがあります。
正直こうした製品はERPと呼べないと思うのですが、ERPという名称のほうが売りやすいので勝手にセールストークとして使っているようです。見ている目線が違っているのですから、やはり業務ソフトとERPパッケージでは「似て非なるもの」といってよいと思います。
大企業ではERPパッケージを業務システムの一部として活用することもあります。その理由は、ERPが業務システムとしても十分な機能を備えておりかつ短期間での導入が可能だからです。
しかし、本来10ある機能を1、2しか活用していないわけですからコストパフォーマンスがよい使い方とはいえないのが事実です。業務ソフトとしてERPパッケージを採用した場合、他システムとの連携のためインターフェースのアドオン開発費が必要になります。
また保守サポートのためのメンテナンス費用やアップグレード費用も業務ソフトより高額です。お金や人員に余裕がある大手企業には可能な使い方ですが、信頼を失いかねないので中堅・中小企業のお客様に提案する際には真似しないことをお勧めします。
お客様へのメッセージ
ERPパッケージは、業務ソフトの機能を内包しており特定の業務システムとしても機能させることも可能です。しかしERP本来の強みは、経営者の視点で全社にまたがった業務プロセス(ビジネスプロセス)の切り口で情報を統合管理することにあり、部門間の情報共有・統合を意識した仕組みが特徴です。
ERPパッケージの強みは、部門間の壁をなくしガラス張りにできるマスターの統合と全社のデータを一元管理するための統合データベースを備えているところにあります。したがってERPパッケージを導入するためには、関係する全部門の参加と協力が必須となります。当然のことながら経営者が最高責任者となり、経営を良くするためのITという位置づけが重要です。
ERPパッケージの導入を成功させる秘訣は、異なる部門が協力してERP導入を行うことです。間違っても、「ERP導入作業はすべて我々コンサルタントにお任せ下さい。」などとはいわないほうが良いと思います。お客様の部門間の壁を取り払えるのは、やはりお客様だけだと思います。
次回は、ERP導入効果を最大化するというテーマで「BPRとERP導入」について説明します。