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システム開発における品質・工期・生産性
ソフトウェアメトリックス調査報告〜システム開発における品質・工期・生産性

第2回:品質・コスト・工数の関係
著者:日本情報システム・ユーザー協会   2005/11/4
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品質とコストの関係

   品質とコストの関係を考える上での問題は、「どこまで品質を高めると、いくらコストは高くなるのか」ということが明確にならないことである。
適切な品質とコストの関係
図1:適切な品質とコストの関係

   図1は、「納入時の潜在欠陥が500万円単位に1個の欠陥で収めることが出来る実力ベンダーに、10倍の品質にまでシステムを良くした場合、どの程度費用は高くなるのか」という見積評価尺度を質問した時の図である。

   このようなユーザの要求に対して、「それなら、これこれの理由でxx%高くなります」と透明性を持って見積回答をしてほしいのだが、そのような基準は存在しないのがソフトウェア産業の常識である。日本だけでなく世界中のソフトウェア産業において、発注者と受託者の間にはこのような問題が山積である。

   「何かこの品質と価格の関係の糸口を見つけたい」、そのための調査が必要と考える。


標準工期(適正工期)の考察

   プロジェクト全体工数と全体工期がともに記入されている105件のプロジェクトについて、工数の3乗根と工期の関係をグラフ化して回帰直線を引いた。工期・工数共に実績の回答がある場合には実績の工期・工数を、計画しかない場合には計画工期・工数を採用している。その意味ではほぼ実績ベースの分析と言える。

回帰直線
図2:回帰直線
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   回帰の有意性が確認され、回帰直線が「Y = 2.67X + 0.1」と求められた。Y切片をゼロとして回帰をし直すと「Y = 2.69X」 となり、ほぼ 「Y = 2.7X」である。(Xは工数の3乗根)

   これは、COCOMO法(注3)とほぼ同じである。

※注3: ソフトウェア開発の工数・期間の見積もり方法

回帰統計
重相関 R 0.709626016
重決定 R2 0.503569083
補正 R2 0.498749365
標準誤差 5.245340313
観測数 105

表1:回帰統計

分散分析表
  自由度         変動 分散 観測された分散比 有意 F
回帰 1 2874.649 2874.649 104.4810341(注4) 2.37782E-17
残差 103 2833.9 27.5136    
合計 104 5708.549      

表2:分散分析表

※注4: 「F(1,120,0.01) = 6.85」であるので高度に有意

表3:切片・工数3乗根
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大表示します)

   適正工期の判断(工期乖離度)について、標準工期に対して、単工期、長工期の基準を、それぞれ全体の20〜25%に設定することを前提にして、Yからの標準誤差(t値)を以下のように確定した。

短工期 -0.7(注5 )> t
適正工期 -0.7 ≦ t < 0.7
長工期 0.7 ≦ t

表4:工期乖離度

   その結果、工期乖離度別の割合は下記のとおりとなった。

※注5: 正規分布の片側22.5%点が0.75である事から設定した
  短工期 適正工期 長工期 全体
件数 22 67 16 105
割合 21.0% 63.8% 15.2% 100.0%

表5:工期乖離度別の件数・割合

   正規分布のように、対称な確率密度関数であれば、平均値から同等の距離で切った場合の面積(斜線の面積 = 確率)は同じ。

対称な確率密度関数
図3:対称な確率密度関数

   ところが、今回は、短工期が大きくて、長工期が小さい。ということは、図4のような分布になっている事が想定される。

短工期が大きくて長工期の場合
図4:短工期が大きくて長工期の場合

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社団法人 日本情報システム・ユーザー協会
著者プロフィール
日本情報システム・ユーザー協会
社団法人 日本情報システム・ユーザー協会
ユーザーの立場からの産業情報化の推進を目的とし、大手ユーザー企業を中心に、約250社の会員を擁し、経営とITに関する様々なテーマや、立場に応じた40以上の委員会、研究会、研究プロジェクトを実施し、毎年、各種調査・研究報告書の刊行や、提言を行っている。1962年、日本データ・プロセシング協会として創立、1992年社団法人日本情報システム・ユーザー協会として、全面的に拡充改組。
http://www.juas.or.jp/


INDEX
第2回:品質・コスト・工数の関係
品質とコストの関係
  規模(工数、KLOC、FP)別工期およびその比率に関する分析
  品質基準の有無と欠陥率
  予算 Vs. 工数分布(特異点を抜く)