ロゴを制作する、その前に。
CI(コーポレートアイデンティティー)
レイモンド・ローウィというデザイナーをご存じでしょうか。
「口紅から機関車まで」をデザインしたと評される、20世紀を代表するデザイナーの1人です。彼は、日本とも深いかかわりを持ち、ピース(タバコ)や昭和シェルのロゴマークをはじめ、今なお、その痕跡を見つけることができます。
では、なぜ彼のデザインがこんなにも長い間、愛され続けるのか。筆者は、単純にデザインが優れているというだけではなく、企業や商品そのもののあるべき姿を表現しているからだと考えています。
では、「あるべき姿」とは何なのか。それはアイデンティティー抜きに語ることはできません。まずはそこから考察したいと思います。
1980年代後半からのバブル全盛期、日本では「CIブーム」と言われる社名・ロゴの変更ラッシュが起こりました。企業の大小にかかわらず、社名やロゴを変更し、「CIを導入しました」「CIを統一(変更)しました」といったプレスリリースが相次ぎました。
期を同じくしてはじまった、CGブームと相まって、近未来的なデザインや斬新なデザインのロゴが現れたのもこのころです。ここで少し考えていただきたいことは、CIというものは「ブーム」に乗って「導入」したり、「変更」したりするモノかということです。
CI=Corporate Identity(コーポレートアイデンティティー)であることは周知の事実ですが、ではアイデンティティーとは何でしょうか。Wikipediaによると、「同一性/自己同一性」などと紹介されており、その内容はかなり哲学的な話になってしまいますが、筆者は「AがAであるための理由/根拠」と解釈しています。
この解釈を正しいと仮定すると、軽々しく「導入」したり、「統一」したりするものではないことがご理解いただけると思います。
例えば、「株式会社インプレスITは、本日よりインプレスITである理由を導入(統一)しました」と言われたら、皆さんはどう感じるでしょうか。おそらく「?」となることでしょう。
CI=VI+BI+MI
言葉遊びのようになってしまいますが、企業が導入(統一)したのは「VI=Visual Identity(ビジュアルアイデンティティー)」のことです。Visual(視覚性)の統一であれば、納得できると思います。
では、CIとは何なのでしょうか。
筆者はCI=VI(ビジュアルアイデンティティー)+BI(ビヘイビアアイデンティティー)+MI(マインドアイデンティティー)と定義しています。
BIとは、その企業の活動、社員によるサービスや言動を指し、MIとは、その企業の理念や社会に対する考え方を指します。
つまり、「AがAであるための、視覚・行動・理念」を総称したものがCIなのです。そして、VI/BI/MIはそれぞれに明確な意味を持ち、お互いに補完しあってCIを形成しているのです。わかりやすい例を挙げると、友人があなたを認識する条件ともいえます。外見や行動、性格がそろってこそ、あなたと認識されるのです。
ところが残念なことに、CI=VIと勘違いしているデザイナーやディレクターも少なくありません。
理念やサービスなど、企業の根幹を成す部分を理解しないまま見た目だけ変えても、それはアイデンティティーとはなり得ません。中身が同じものをパッケージだけ変えると、一時的な売り上げは向上しますが、結局、飽きられてしまい消えていくのと同じことです。逆に外見はパッとしなくても、中身がしっかりしていれば、いつかは必ずユーザーに認められるのです(ただし、Webの場合は少し事情が違います。第3回にて詳しく紹介します)。
レイモンド・ローウィのデザインが、なぜ、現在も生き続けているのか。それは、商品や企業の本質を完ぺきに理解し、そのアイデンティティーを可視化したからだと言えるでしょう。