クラウド時代のデータセンター
データセンターに要求されるスペックが変わる
クラウド・コンピューティング・サービスが市場に浸透するのにともなって、基盤となるデータセンター(以下DC)のニーズにも変化が現れ始めている。
従来は都市型のDCが好まれる傾向にあったが、クラウドを利用するようになると、ネットワークさえ繋がっていればDCはどこにあってもよいため、土地や運用コストが安い立地も選択可能となった。
また、この考え方は、地域分散にもつなげることができる。ディザスタ・リカバリ(災害復旧)を目的としたDCの配置において、ユーザー企業にDCの場所を選択してもらう必要がなくなった。データやシステムの保管場所や冗長性をサービスとして提供することも可能となった。
ハードウエアでなくコンピューティング・リソースをサービスとして提供するということは、ユーザーの依頼に対してDCオペレーションや保守対応を即座に行うことが必須でなくなることを意味する。DCの運用体制も、従来のDC現地における手厚い対応から、リモートからの集中管理にシフトすることが想定される。
クラウド・インフラとしてのDCの特性は、何といっても高密度化である。クラウド・インフラは、規模の経済を有効に働かせるため、大量のサーバーやストレージをDCに導入し、仮想化をベースとした技術で統合的に構築・運用するのが一般的である。このため、DCは、従来以上のIT機器収容効率が求められる。この結果、10KVAといった大電力容量のラックが標準的に求められるようになってきている。
IT機器の変化・高性能化も目覚ましく、DCファシリティ(設備)にも柔軟性が求められる。1度ビルを建ててしまえば、ファシリティとしてのスペックは決まってしまうが、クラウドに利用されるDCは、その時代に即したファシリティを段階的に拡張できるモジュラ構造であることが望まれる。
クラウドは、ファシリティに要求するスペックを見直す機会にもなる。従来のDCは、とにかく堅牢性が要求された。複数系統の受電と無停電電源装置(UPS)、さらに非常用自家発電機を組み合わせた、IT機器への電力供給を絶対に止めない給電システム給電システムがその一例である。
自然災害への対策としては、地震に対する免震構造や、津波に対する立地選定(海抜や海岸線への近接性など)も求められてきた。空港が近いというだけで、その立地が忌避されることもある。従来のDCは、いかに絶対に壊れないことを前提として作れるか、が競われてきたのである。
各レイヤーで重厚な冗長化を図っていた。 |
図1: 従来のITシステム構成(クリックで拡大) |
これに対し、クラウド利用のDCにおいては、過剰ともいえるファシリティ・スペックを簡略化できる可能性がある。アセット(資産)としてのIT機器はクラウド事業者が所有するのだから、提供サービスとして冗長性やデータの保全が担保できれば、極端な話、壊れてもよいという前提に立ったDCを利用してもよいわけだ。
堅牢なDCファシリティを構築するコストと、データの分散保持やレプリケーションのネットワーク・コストを比較する。ここで、後者にメリットがあるのなら、DCファシリティは、もはや完ぺきな堅牢性を持つ必要はないということになる。
冗長性はクラウド・サービスの一環として提供できればよいため、クラウド内のDCファシリティ構成の簡素化が可能 |
図2 クラウド・サービス化による全体最適(クリックで拡大) |
環境配慮への取り組み
一方、DCには、従来以上の省エネルギ化の取り組みが求められる。
IT機器の国内総消費電力量は、2025年には2006年の約5倍となる試算がある。DCに限らず、産学官共通の取り組みとして省エネルギ化が推進されているが、その中でも特に注目に値するのは、DCの消費電力量の伸びである。
DCの省エネルギ化は、突き詰めれば2つのポイントに集約できる。すなわち、(1)DCに設置するIT機器の省エネルギ化と、(2)それ以外の付帯設備の省エネルギ化、である。
(1)IT機器の省エネルギ化施策としては、高効率電源装置の採用、ファン回転数の最適化、低電圧CPUのラインアップ拡充など、枚挙にいとまがない。SPECpower_ssj2008といった消費電力あたりの処理性能を表す指標が市場にも浸透し、各IT機器ベンダーが積極的に測定値を公表し始めていることなどから、メーカーからユーザーまで広く関心が高まっていることが伺える。
(2)DC付帯設備の電力利用効率を最もシンプルに表す指標としてはPUE(Power Usage Effectiveness、電力使用効率)がある。従来型のDCでPUE 2.0程度と言われているが、クラウド時代のDCでは限りなくPUE 1.0に近い値を目指し、各DC事業者が知恵を競っている状況である。
図3: PUEはデータセンターの電力利用効率を表す指標 |
日本国内においては、ここで1つ、大きな矛盾が浮き彫りになる。
DCは、IT機器の収容において、電力利用の最適化、すなわち環境配慮・温室効果ガスの総排出量削減にいかに貢献できるかを競い、進化を続けている。ところが、優秀なDCが普及し、そこにIT機器が集約されればされるほど、温室効果ガスの削減義務が課せられた場合に、そのDCの負担が大きくなるという現実がある。
この問題の解決にあたってDC事業者は、国政や自治体とよく協議を行い、グローバルに競争力のあるITの発展・推進という大きな視点で取り組む必要があるだろう。
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