客先常駐を「悪の組織だ」と思っている僕へ
はじめに
今回は、客先常駐に約1.5年、請負案件に約1.5年、自社サービス業務に約1年関わってきた僕が、客先常駐について感じたことを書いていきます。
最近の君は志望していたIT企業から内定が出て喜んでいたのに、ネット上で「客先常駐はヤバい」「客先常駐はやめとけ」というような文章をたくさん目にしてすっかり不安になっていることと思う。その不安な気持ちを誰にも相談できず、客先常駐というものを何かよくわからないけど恐ろしい、悪の組織みたいなものとして認識しだしている。君はその後結局内定をもらった企業で働き出し、客先常駐という働き方も経験することになる。それは確かに君にとって最高の働き方とは言えない面もあったかもしれないが、そんなに恐れるほど「ヤバい」ものでもなかったのではないかな?
客先常駐とは
僕が就活をしている時に不安だったことの1つに「客先常駐」という言葉がありました。IT業界に就職をしようとしている方なら一度は目にしたことがあると思います。今はどうなのか分かりませんが、僕が就活の際にインターネットで情報収集をしていたときは「客先常駐はやめとけ」というような論調の記事をよく見ました。
「客先常駐はやめとけ」という言葉は今の会社に内定が決まった後もうっすらと頭の片隅に存在し、「本当にこの会社でいいのだろうか…」という内定ブルーのような気持ちになっていました。自分なりに調べてみてもよく分からず、またなんとなく会社の人に聞いて良いのか分からず、相談もできませんでした。
そんな不安な気持ちから、タイトルにもある通り客先常駐を悪の組織みたいなものとして認識していました。
IT業界の客先常駐とは、自分が所属する企業ではなく、別の企業(客先)に常駐する形で働く勤務形態のことです。SES(システムエンジニアリングサービス)と呼ばれることもあります。客先常駐では、企業間で「準委任契約」という契約が結ばれます。これはエンジニアへの指揮権は自分が所属する企業にあり、エンジニアは成果物ではなく働く時間に対して報酬を受け取る、というものです。
これとは逆に「請負契約」は、エンジニアへの指揮権は自社にあるところは共通していますが、エンジニアが納品した成果物に対して報酬を受け取ります。SIer(システムインテグレーター)が扱うシステムは巨大なシステムであることが多く、システム開発に携わる人員の数も多く必要なため、このような準委任契約を結ぶことが多いです。常駐先の企業はプロジェクトごとに変わります。弊社では1つのプロジェクトに携わる期間は半年から長くて3年程度になっています。
客先常駐のメリット
客先常駐という勤務形態で働いていて、良かったことも良くなかったこともあったように思います。ここでは、僕が感じた客先常駐のメリットとデメリットを紹介します。
まず、メリットとしては、①様々な環境で働くことができる、②様々なシステムを見ることができる、です。
①様々な環境で働くことができる
客先常駐ではプロジェクトごとに働く場所が変わるため、様々なオフィスで働くことになります。そのたびに新しいオフィスや街に出会えるので楽しかったです。普通に生活しているだけではきっと関係のなかった街で、深い思い出を作ることができます。
昼休憩のときなどはオフィスの周りを散歩して「あ、こんなところに美術館あるんだ~」とか刺激をもらってました。プライベートの会話の中でも「あ、そこ昔通勤してた。あのお店のランチが~」などの話ができるようになりました。
また、人間関係の点でも自社で働いていたら出会えないような人々に出会うことができます。エンジニアには個性的な人も多いので、そのような人たちと知り合えるのも楽しいですね。
②様々なシステムを見ることができる
プロジェクトの数だけ新しいシステムを見ることができます。システムはそれぞれに歴史や文化が異なるのでそれを知るだけでも楽しいです。また、システムが違えば使用している技術も違ってくるので、幅広い技術要素や製品に触れることもできます。
エンジニアとしてのキャリアの最初に様々なシステムを見て、様々な技術を触り、そこから自分に合うものを探せるのは結構贅沢なことではないかと思います。僕はUPS装置という、データセンターが停電したときでもサーバに電源を供給できる大型バッテリーのような機械を設置、構築したことが楽しかったです。UPS装置はインフラエンジニアの中でも触ったことのない人が多いと思うので、貴重な経験ができたと思います。
客先常駐のデメリット
一方で、デメリットとしては、①働き方の自由度が低い、②仲良くなった自社の人と一緒に働けない、ということです。
①働き方の自由度が低い
客先常駐では常駐先のオフィスのルールに従うため、働き方に関して自由度が低くなりがちです。自社は私服OKなのに案件先ではスーツ着用だったり、自社はフレックス制度を取り入れているのに案件先では適用されない、などがあり得ると思います。自社のルールならある程度改善できるかもしれませんが、案件先のルールを改善するのはなかなか難しく、これはちょっと残念に思うこともありました。
②仲良くなった自社の人と一緒に働けない
客先常駐では自社の社員全員と一緒に働くわけではないので、結構寂しかったです。新卒で入社後、3ヶ月の研修期間中に同期たちと仲良くなったのですが、研修が終わっていざ働き始めるとみんな別々の場所に配属されるため、めったに会うことができませんでした。そのまま同期とはなんとなく疎遠になってしまい(もちろん自社でたまに会えば会話はしますが)、自社の人と仲良く居続けるのには努力が必要だったりします。
また、入社前に知り合った尊敬していた自社の先輩社員とも一緒に働く機会に恵まれず、残念な思いもしました。それでも、案件先では自社の人たちとチームを組むことが多く、そのチーム内の人たちとは仲良くなることができるので、孤独や寂しさを感じることはありませんでした。
なぜネガティブな意見が多いのか
なぜ、SESにはネガティブな意見が多いのでしょうか。それは「IT企業」という言葉が指す範囲の広さゆえのミスマッチが原因だと個人的には考えています。IT企業という言葉には、幅広い範囲の企業が含まれます。自社でWebサービスを開発している企業、システム開発を取りまとめるSIer、エンジニアの派遣を主とするSES企業、広義では社内でITを活用している企業なども入ってくるかもしれません。
それに対し、IT業界を志望していた頃の僕がイメージするIT企業はもう少し限定的でした。僕はもともと海外で働いたり、フレックス制で時間を気にせず働くようなエンジニアに憧れてIT企業を志望した面もありました。そういったキラキラしたエンジニアをイメージしていると、SESという働き方とはミスマッチが生じるかもしれません。そこでミスマッチを感じてSES企業から別のIT企業に移った人が盛んに情報発信するため、ネガティブな意見が目に付きやすいのではないかと考えています。
おわりに
今回は、IT企業でよく見られる客先常駐という働き方について解説しました。ネット上ではネガティブな意見も目にしますが、僕個人の感想としてはそれほど悪いものではないと感じています(もちろんメリットもデメリットもありますが)。これからIT企業を志望する方は自分がどのような仕事をしたいか、どのような働き方がしたいかなどを整理して、後悔のない就職先を選んでいただけたらと思います。
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