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  インタビュー

レッドハットのマネージャーに訊いた女性エンジニアを増やす方法とは?

2020年4月15日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
レッドハット株式会社の男性マネージャーに、女性エンジニアを増やすためのアイデアについて訊いてみた。

女性エンジニアがインフラストラクチャーの分野にいないことについて、レッドハットの女性エンジニアにインタビューを実施した。その際、「性別に関わらずいかにソフトウェアやコンピュータに興味を持つか?」という部分が大きなトピックとして盛り上がり、男性上司への相談については普遍的な男女のすれ違いとも言える内容について話が尽きなかった。その続きとして、今回は彼女らの上司であるマネージャーにインタビューを行った。

参考:レッドハットの女性エンジニアに訊いた「こんな上司は苦手」の真相

参加してくれたのは、三木雄平氏(テクニカルセールス本部パートナーソリューションアーキテクト部上席部長)と須江信洋氏(テクニカルセールス本部ミドルウェアソリューションアーキテクト部アソシエイトマネージャー)だ。

自己紹介とコンピュータに初めて触ったのはいつ頃かを教えてください。

三木:私はレッドハットにもう13年くらいいますが、ずっとプリセールスのエンジニア、そしてここ6年くらいはマネージャーとして仕事をしています。初めてコンピュータに触ったのは、PC-9801かな。高校までは数学ばかりやっていて、男性ばかりの理系だったんですけど、突然、司馬遼太郎にハマってしまって、大学は文学部に進み、周りは女性ばかりという感じでした。

最初に新卒で入った会社は独立系のソフトハウスで営業志望だったんですけど、そこの会社が新卒は全員プログラミングを経験しないといけないという社風だったので、3年ぐらいプログラミングやってましたね。そこから営業よりもエンジニアとして仕事を始めました。その後、外資系に移ってそこではサポートエンジニアをやっていたんですが、それが合わなくて。

合わないというのはどんな感じなんですか?

三木:当時の仕事の内容は、製品のバグを調べることで毎日コアダンプを読むんですよ。それが楽しくて仕方ないというエンジニアが隣にいたのですが、私自身はそういうのが全然楽しくありませんでした。それよりは、お客さんと接しているほうが向いてるなと。だから途中で社内のジョブチェンジの機会に応募して、プリセールスのエンジニアになりました。それがとっても楽しかったという記憶がありますね。なのでそれ以降は、ずっとプリセールスのエンジニアです。

須江:私は工業高校出身で、大学では物理をやっていました。新卒で入ったのは外資系のコンピュータメーカーで、インフラストラクチャー周りの仕事をしてました。ちょうどJava EEが出てきたくらいの時で、R&Dをやりながらお客さんのシステムにも関わるみたいな仕事で楽しかったですね。

でもそのコンピュータメーカーはソフトウェアがあまり得意じゃなくて。その後はコンサルティング会社とか他の外資系に転職してプリセールスのエンジニアをやってました。三木とはある外資系のソフトベンダーで一緒になったこともあります。レッドハットに入ったのは3年ほど前で、マネージャーとしてはまだ1年くらいという感じです。コンピュータとの出会いは比較的早くてシャープのポケコンを自分で買って、プログラミングしていましたね。シューティングゲームを作っていましたが、その時は速度が出ないのでアセンブラで書いたり。

バリバリのコンピュータオタクですね(笑)。

須江:そうですね。三木は大学は文系ということでしたが、私はずっと理系で周りには女性は数人しかいないという環境で学生していました。

前回のレッドハットの女性エンジニアにインタビューした際には、初めてコンピュータやソフトウェアに触った時の印象が良かったから続いたみたいな話がありました。お二人はコンピュータはすでに知っていてIT系に行こうとして就職活動されたのでしょうか?

三木:そうですね。当時はやっぱりIT系は仕事がいっぱいあって、とりあえず入っておけば何かあるだろう、みたいな雰囲気はあったと思います。

今回は「どうしてインフラストラクチャーのソフトウェアの周りには女性エンジニアが少ないのか?」ということを掘り下げる記事をシリーズで書いています。女性エンジニアには日本アイ・ビー・エムのエンジニアにも話を聞きましたし、先日はレッドハットの女性エンジニアにもインタビューをしたので、今回は男性のマネージャーの側にも訊いてみようという趣旨なんですが、管理職として女性エンジニアと仕事をする上で困ったことはありましたか?

三木:最初の会社の仕事におけるお客さんのシステム更新のプロジェクトに関する話ですが、結合テストとか大掛かりなタスクになると、どうしても深夜とか徹夜でやることになる仕事があります。パトライトを回せるのは、そういう時間しかありませんから。そういう場合、男性エンジニアだけならあまり気も遣いませんが、女性がそこに入ると「仮眠はどうするんだ」などを気にしなきゃいけないということはありましたね。その時は先輩の女性エンジニアだったので、余計に気を遣ったということもありましたけど。

須江:私の場合は、製造業のお客さんの際に体験がありますね。その会社が地方に工場を持っていて、そこにシステムを納める時にプロジェクトメンバーでそこに行きますが、場所によっては肉体労働がメインの場所だとそもそも男性しかいないので、女性のための施設、例えばトイレがないなんてこともありましたね。こちらが男女混成のメンバーで行くと、お客さんの側がちょっと慌てちゃうというか、「悪いけどトイレは別の棟まで行って下さい」という感じで。20年くらい前はそんなことがちょくちょくあった気がします。

インタビューに答える三木氏(左)と須江氏(右)

インタビューに答える三木氏(左)と須江氏(右)

レッドハットでも日本アイ・ビー・エムでも女性のエンジニアから「チームでお客さんのところに行って女性エンジニアがメインとなって説明しても質問は男性エンジニアに来る」ということを聞きました。こういういうことに心当たりはありますか?

三木:それはあるでしょうね。ただ、男性エンジニアでもコミュニケーションが極端に苦手というか知っている相手なら話がスムーズに行くんだけど、知らない人がいると途端に喋れなくなる人っていますよね。

須江:そういう人、結構いますよ、この業界は。だからそういう状況の原因は、性別じゃないっていう可能性もありますね。

レッドハットにもいらっしゃいますか?

三木&須江:あははは。いますね(笑)。

マネージャーとして、スタッフに対してどんな感じでマネージメントしていますか?

三木:私はスタッフの良いところを見つけて伸ばすことを最優先していますね。だから強い所を常に褒めて、そこを伸ばして欲しいなと思ってます。

須江:私はまだ経験が浅いので目指すところという感じですが、得意不得意があるのは良いとして、ちょっと不得意なところも頑張る、ストレッチするみたいな努力はやっていて欲しいと思いますね。常に自分を鍛えるという感じで。得意じゃないところから逃げるんじゃなくて、敢えてそこにチャレンジするみたいな気持ちは大事かなと。

三木:私の過去の経験からの見方ですが、否定的な感じの人よりも常にチャレンジを後ろから押してくれる上司になりたいなと思いますね。冒険というかチャレンジさせて欲しいと。常に「それは大丈夫か?」って細かくチェックするような人よりは。

須江:私の経験では、ネガティブなフィードバックを間接的に伝える人はちょっと苦手でしたね。ネガティブなことは直接に、ポジティブなことは逆に人を介して伝えるみたいな。私はそうしたいと思っています。

三木:私はどっちもダイレクトに言っちゃいますね。良いところはもっとやれ!って言うし、上手く行かないと思った時は「ああああ、それはちょっとダメちゃうかなぁ」って。

そこは関西弁なんですね(笑)

三木:それはそういうネガティブなことを伝える時に、標準語ではどう言えば良いのかというボキャブラリーが私に足らないんだと思います(笑)

インフラストラクチャーに限らずミドルウェアの領域にも、女性エンジニアが少ないという現状に対してその原因はなんだと思いますか?

三木:私は大学は文学部で周りは女性ばっかりでしたけど、どうも女性は文系、男性は理系みたいな刷り込みがあるんだろうなとは思いますね。それが具体的にどこから始まるのかはわかりませんが、それによって素質がある人にそもそもそこに至る道が閉ざされていると。あと、仕事自体はインフラストラクチャー関係だとケーブルの配線をやったりとかラックに入れたりとかという肉体労働っぽいこともあるので、管理する側が女性にやらせないようにしたんじゃないかなぁとは思いますね。

須江:やはり知らないということが大きいと思いますね。女性を増やすためには、ロールモデルとなるような人が必要だと思います。もう一つは女性が働きやすい環境を作るという意味で、家庭の仕事を男性もちゃんとやるということですね。それで女性が働きやすくなると思います。

あとこれは女性に限らずですが、エンジニアって1人で集中するという時間がとても大事だと思うんですよね。なのでそういう時間を作ることをやらないといけないと思います。これはレッドハットに入って気がついたんですが、レッドハットってフェイストゥフェイスのコミュニケーションをとても重要視しているんですよ。チャットとかオンラインのコミュニケーションも重要ですが、それとはまったく別のモノとして。レッドハットのオフィスで、誰かが言い出してササッとエンジニアが集まってディスカッションを始めることがあります。技術的には相当高い内容の議論で、それが意外とヒントになることがあります。人によってはそれが「レッドハットの福利厚生」っていう人もいますけど、それぐらいタメになる。

三木:でもそれに参加するためにも、基本的なコミュニケーション能力っていうのはレッドハットではすごく重要なんですよ。なので面接の時に、そこはちゃんとチェックしますね。そうやって議論して同僚に認めてもらうということが大事なんです。

レッドハットで働くには社内のコミュニケーションだけではなくオープンソースのコミュニティの中でもコミュニケーションが重要になってくると思いますが、それに関しては?

須江:それぞれのコミュニティのCode of Conductをちゃんと理解して、コミュニティに馴染むという努力は必要ですね。それはもう当たり前のことですけど。あと、女性に関して言えば、男性が多いコミュニティに女性が入ってくると変に目立ってしまうというのはよく見ますね。それは男性が女性を特別扱いしちゃうというかかまっちゃうというか、気を遣い過ぎたり、馴れ馴れしくしてしまったりという感じで。どうやってそれを回避すれば良いのか、これといったアイデアはないのが実情です。実際、レッドハットの中では、そのような例は皆無なんです。

最後にこれからエンジニアを目指す人にアドバイスがあれば。

三木:IT業界って今はかなり細分化されているし、いろいろな仕事があるんですよ。それを知って欲しいなと。違う仕事でも垣根が低いので、自分が何に向いているのかわからない人は、どんどんチャレンジして欲しいですね。ジョブチェンジは簡単にできますから。

須江:まずはソフトウェアで何か作って欲しいですね。社会の問題や何かを変えるっていうのは大きな仕事ですけど、ソフトウェアはそれがすごく低いコストでできるのが魅力だと思います。使うだけだとこの楽しさはわからないので、まず何かを作るっていうことでその楽しさを味わって欲しいですね。今はScratchとかMINECRAFTもあるので、そういうものから始めるのでも良いので。

レッドハットのように世界に分散したオフィスで仕事を進めている企業であっても、オフライン、リアルのフェイストゥフェイスのコミュニケーションの重要性を語ってくれたことが印象的だった。これもオープンソースソフトウェアのコミュニティが、年に数回のイベントでリアルに対面することが重要だと強調することにも通じる話だろう。これからも日本でインフラストラクチャー、オープンソースに関わる女性エンジニアをクローズアップする記事を続けていく予定だ。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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