コロナ禍における心の健康を考える

2022年8月2日(火)
幡野 敦

はじめに

2019年に中国の武漢市で発生したとされる新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活を大きく変えました。初めての緊急事態宣言の際には街から人が消え、外出して良いのかさえ分からない状態で得体の知れないウイルスに戸惑うばかりでした。

それから2年以上が経過してワクチンも開発され、症状は比較的抑えられるようになりましたが、コロナ禍前の生活に戻ることは難しく感じています。

そんなコロナ禍において、生活スタイルが変わった人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

『毎日通勤をしていた生活が在宅勤務になり、1歩も家から出ることなく1日を家の中で過ごす』
『家族以外の人と話すことなく1日を過ごす』
『同僚との打ち合わせはいつもオンライン』

などなど、在宅勤務が浸透してきたことにより、人と会うことが前提だった仕事の仕方も大きく変化しました。

今回は、生活スタイルが変わったエンジニアの方も多くいる中で、コロナ禍における心の健康について考えていきます。

心の健康と向き合う上で大事な2つのこと

私も生活スタイルが変わった1人です。最初の緊急事態宣言が2020年4月7日に発令されましたが、その1週間前に長年勤めていた通信会社での仕事を辞めて生まれ育った土地を離れ、新しい土地へ移住。新しい仕事に就いたところでした。人生の一大決心にコロナ禍が重なったのです。生活の変化、仕事の変化と共に社会の変化が重なり、私自身を取り巻く全ての環境が大きく変化しました。

新しい仕事は出社が前提だったので、緊急事態宣言が発令されている中でも職場へ通っていましたが、それでも生活は職場と自宅の往復のみでした。緊急事態宣言が発出されているので、友達に会うことも、お芝居(演劇)をすることや写真を撮るなど趣味のために出掛けることもなくなり、日課にしていたジョギングさえもできない日々が続きました。

新天地での仕事と生活、そこに新型コロナウイルス感染症の影響が重なったストレスで徐々に体と心に変化が出てきました。寝てもすぐに目が覚めてしまう日々が続き寝不足になり、ついには動悸まで出てきてしまったのです。業務に支障をきたさないようにはしていましたが、寝不足と動悸があると余計に自分自身が追い詰められていくように感じられました。そんな中で私が大事にしたことが2つあります。

外部から心を知るきっかけを作る

まず1つ目に大事にしたことは人とコミュニケーションをたくさん取ることです。ストレスフルな生活の中にあると、なかなか客観的に心の動きを見ることができなくなるほか、自己否定に陥りネガティブな感情になりがちです。

“自分はダメな人間なのではないか”
“自分には能力がないのではないか”
“自分は上手くできない”

そういう感情に支配されるときもあるのではないでしょうか。ネガティブな感情になるとその気持ちに長い間支配されやすくなります。1人で考えていても、その感情からは抜け出しにくくなってしまうのです。

信頼のおける友達や仲間、そして家族に不安や悩みを聞いてもらうと、アドバイスをもらえたり解決に向けたアイデアが生まれたりします。話すことで頭が整理されて、ネガティブな感情の沼から抜け出すきっかけにもなります。

自分自身で心に向き合う時間を作る

そして2つ目に大事にしたことは客観的に自分自身の心の状態を見ることです。“自分がどう感じているのか、どう考えているのか”を俯瞰して見ることを意識しました。

心理学では「メタ認知」という言葉があります。自分の頭の中の感情や考えを客観的に認知することを言います。

例えば「業務で失敗をしてしまい、自分のやっていることに自信が持てない」と感じたときに、“今、自分は自信を持てていないな”と客観的に自分を見ることです。客観的に自分の心の動きを知った上で、そのような考えに至った原因を考えます。

例で見てみると“自信が持てなくなっているのは業務で失敗したからだ”と、どうして自信を持てなくなったかに目を向けていきます。ただただ、“自信を持てない”と塞ぎ込んだままでいると、底なし沼のようにどんどんマイナスの感情にとらわれていってしまい、不安が募ってしまいます。

“自信を持てない”という自分の考えを知り受け止めることで、その原因に目を向けることができます。また、どういうときに自分は自信を持てないと感じることが多いのかを分析することもできます。分析することで、同じようなことが起きた際に対策ができるようになります。

対策できるようになれば塞ぎ込む機会も減っていき、前向きな気持ちでいる時間に繋げていくことが可能です。

孤独感を解消するために

内閣官房孤独・孤立対策担当室が全国の満16歳以上11,867人に行った孤独・孤立の実態把握に関する全国調査の中で、孤独感を感じているかどうかの調査を行ったところ、孤独感を感じる人は全体の36.4%にも上っています(引用元:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/zittai_tyosa/zenkoku_tyosa.html)。

孤独な時間が多いと“自分の良いところも悪いところも含めて受け入れられる力(自己受容)”や“自分の良いところも悪いところも含めて価値があると思う力(自己肯定感)”が低下してしまいます。人から感謝されたり、頼りにされたり、反対に誰かに感謝したり、頼りにしたり、そういった人との関わりの中で自分を受容・肯定する感覚が生まれていきます。

また、このコロナ禍の生活で人と関わる機会も減り、孤独な時間が増えています。家族がいても、仕事で孤独と感じてしまうことはあるのではないでしょうか。1人で作業をしている方がはかどることもありますが、転職をしてまだ仕事に不慣れであったり、新しく仕事を始める新入社員にとって在宅勤務が続くことは、同僚とコミュニケーションを図る上で、より難しさを感じることがあるかと思います。

在宅勤務で1人で仕事をしていると、本当にこれで良いのか? 上手くできているのか? とふと感じることがあるかもしれません。業務を行う上で不安が募っても誰にも相談できなかったり、気軽に話すことさえままなりません。

そういった中では自己受容や自己肯定感を育むことが難しいです。最近では在宅勤務をしている中で、オンラインでコミュニケーションを取る手段がいくつもあり、導入している企業も増えてきています。企業によってはバーチャルオフィスを導入したり、業務報告として定例のWebミーティングを朝晩に開催していたり、工夫を凝らしてコミュニケーションを活発化しようとしています。

一方で、結局は1人でパソコンの前にいるため、孤独感の解消には至らないこともあるため、オンラインだけでなく実際に会ってコミュニケーションをとることも非常に大切です。

笑う門には福来る

私の周りにもコロナ禍に入ってから心の不調をきたす友人や仲間が増えています。在宅勤務で1日中家にいるがゆえに気持ちがふさぎこみやすくもなります。同僚や友人とのたわいもない会話から、仕事に対する悩みであったり不安を相談したりもできますが、コロナ禍における現代ではその雑談する時間さえも減っているのが現状です。

“笑う門には福来る”という言葉があります。最近、誰かと話をしながら笑っていますか? 表情を動かしていますか? 無表情でいる時間が増えてはいませんか? 在宅勤務が増える一方で人とのコミュニケーションが希薄になり、私自身も表情のない時間が増えていると感じています。

自然と笑顔になることで、気持ちもふさぎこみにくくなります。

私は最近、ようやく趣味であるお芝居(演劇)をすることができています。仲間と一緒に公演に向けて稽古を重ね、新型コロナウイルス感染症対策を十分にした上で先日は少人数ながら公演を行いました。稽古や公演といった仲間との時間は笑顔にあふれて、達成感を覚えることができました。

友人や仲間と一緒に楽しいと思える時間を多く持てるようになることで、ストレス軽減にも繋がり生活に張りが出てきます。

おわりに

1日中家にいる日も多いかもしれませんが、たまには空の下に出て、風を感じて、音や香りを感じてみませんか。散歩をして人とすれ違ったり、ジョギングして汗を流したり久しぶりの友達と会ってみたり、新型コロナ対策をしっかり行い、少人数から趣味を再開してみたり。家の中にいると気持ちも内にこもりがちになるので、外に出る機会を増やしてベクトルを外に向けて欲しいです。

コロナ禍という難しい時代の中で心の不調は起きやすくなっていますし、また誰でも起こり得ることなので、不調になる前に一度立ち止まって自分の心に向き合って、素直に心の状態を受け止めてみてください。そして、人とコミュニケーションを取る機会を増やせば、表情豊かな時間も増え、心を明るくしていけると思います。

今回お伝えした内容から、皆さんが自分自身の心に向き合う機会が増え、そしてコロナ禍におけるストレスの軽減の機会に繋がれば嬉しいです。

株式会社パソナテック
大学で心理学を専攻し、卒業後はIT関連企業へ就職。大手損害保険会社のDCのサーバー管理、運用・保守業務をしたのちに、大手通信会社のサービスマネージャー、フロントSEを経て、大学のときに勉強をしていた心理学を活かすために児童福祉施設の仕事に従事。その後、2020年にパソナテックへ入社。企業へのDX推進を進めるビジネスプロデューサーとして九州・中四国にて従事後、2022年より全国の様々な開発業務の委託提案を行う。
パソナテック https://www.pasonatech.co.jp/

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