ネットワークにおいて、最もわかりづらい「プロトコル」を理解しよう
はじめに
皆さん、こんにちは。ネットワークスペシャリストで、ITライターの左門です。本連載では、難しいネットワークを、身近な事例に置き換えながらわかりやすくお伝えしていきます。
1回目の前回では、ネットワークとは何か、その仕組みについて郵便と対比しながらイメージを膨らませてもらいました。また、ネットワークに関するIPアドレスやMACアドレスなどの言葉、ネットワークの分類としてLAN、WANとインターネットについて説明しました。
2回目となる今回のテーマは「プロトコル」です。法律や言葉、環境などのあらゆるものが異なる海外と、どうしてうまく接続できるのか。これを解く鍵がプロトコルです。今回も、身近な事例として郵便に置き換えて解説します。
インドの友達に年賀状を出したら、
いくらで届く?
インターネットが普及した時代ですから、海外の友達がいてもハガキを送ることは稀です。実際に送ったことがある人も少ないでしょう。では、ハガキを出すとしたら、いくらかかるのでしょうか。そもそも、日本の切手で良いのでしょうか。また、どこに出せば良いのでしょうか。家の近くにあるポストにハガキを投函すれば届くのでしょうか?
海外にハガキを送ったことがない人にとっては、いろいろと疑問がありますよね。実は、海外へのハガキは90円(定型サイズ、アジアや米国などに送る場合)です。このことを初めて知ったときには驚きました。海外旅行は何十万とかかるのに、ハガキはたった90円で送れるのはすごい! って。では、なぜこんなに安い料金で送れるのでしょうか。
加えて、別の疑問も沸いてきます。そもそも、異国に送るときに日本の切手を使っても良いのか、という点です。実際、日本と海外では郵便事情が違います。例えば、宛名の書き方です。日本では「106-0032 東京都港区六本木2-4-5」と書きますが、海外の場合は「2-4-5 Roppongi, Minato-ku, Tokyo-to 106-0032 Japan」のように、番地から先に書く決まりです(※余談ですが、日本の場合は同じ地名が複数存在するので、都道府県から書くやり方は日本には合っていると思います)。
また、宛名の書き方さえ違う海外に、日本独自の切手で届くわけがない。アメリカならアメリカの、インドならインドの切手を貼らなければ、海外の郵便局は収益を得られない、などと感じるわけです。
海外の友達にハガキが届くのは、
プロトコルのおかげ
さて、日本の切手で海外にハガキが届けられるかという点ですが、日本の切手で届きます。これって、すごいことですよね(よく分かっていませんが、若い子の言葉だと「やばい!」でしょうか)。でも、事情を知っている人からすると、当たり前のことのようです。
では、なぜたった90円で、しかも日本の切手を使って、海外にハガキを送ることができるのでしょうか。それは、日本と海外の国々の間で、事前にしっかりと取り決めがされているからです。まず、日本の郵便局は、ポストに海外宛てのハガキがされていても、事前に海外との取り決めがあるため混乱しません。取り決めに従って、海外へ発送するルートに乗せるだけです。海外の郵便局も同じです。日本からの日本の切手が貼られたハガキを受け取っても、事前に取り決めたルールに従って配達をします。このような、通信する際の「取り決め」が「規約」と訳される「プロトコル」です。
この取り決めは、前述の料金や住所の書き方、ハガキのサイズ、切手の種類など、多岐にわたります。決めることが非常に多いので、内容によってその取り決めをグループ化(階層化)します。そうやって整理したほうが分かりやすいですよね。
ネットワークの世界も同じことが言えます。日本で作ったパソコンやケーブル、ソフトウェアを使ってメールを送ったものが、海外で作ったパソコンやソフトウェアで受け取ることができます。これは、国際標準化機構であるISO(International Organization for Standardization)が、ネットワークにおける取り決め(プロトコル)をしているからです。
また、この取り決めは、内容に応じて7つの階層に分けて整理されています。これが「OSI参照モデル」です(難しい言葉ですね)。OSI(Open System Interconnection)は、そのフルスペルにあるように、異なるメーカや機種などのオープン(Open)な相互接続(Interconnection)のためのモデルです。
「OSI参照モデル」とは
OSI参照モデルの7つの層とは、第1層から順に、物理層、データリンク層(第2層)、ネットワーク層(第3層)、トランスポート層(第4層)、セッション層(第5層)、プレゼンテーション層(第6層)、アプリケーション層(第7層)です。下図にOSI参照モデルの7つの層と、その内容、代表的なネットワーク機器を整理しました(現時点では、細かい内容まで理解していただかなくても構いません。第3回目以降で順に説明していきます)。
この7つの層のイメージを膨らませてもらうために、郵便で考えてみましょう。まず、物理層が、どの船を使うのか(または飛行機か)という運搬に関する物理的な取り決めです。データリンク層は通信のルールで、運搬時の船のスピードや複数コンテナへの梱包方法などの取り決めです。ネットワーク層が(太平洋の)どの経路を通るか、アプリケーション層がハガキのサイズや住所の書き方、などの取り決めです。厳密に言うと、そう単純に当てはめられるものではないのですが、各層の雰囲気を理解してもえれば幸いです。
階層ごとに役割を分ける
OSI参照モデルでは、ネットワークの取り決めを7つの階層に分けました。加えて、多くの場合、階層ごとに、その階層を担当する機器やソフトウェアを分けます。私は、この発想はとても理にかなっていると思っています。ネットワークなんて、通信しているだけの単純なものと思っている人も多いでしょうが、ネットワークの仕組みは非常に複雑です。そのため、大手の通信キャリアでも、ネットワーク障害が発生すると何時間も通信できないような事態が起こるのです。
話を戻しますが、OSI参照モデルは階層ごとに役割を分けています。そして、他の階層とはお互いに関与しない、という考えです。こうすることで、ネットワークに何かしらの不具合があっても、誰の役割(および責任)なのか分かりやすくなります。
では、「他の階層には関与しない」ということについて、メールを送る場合を考えてみましょう。まだ各層の詳しい説明はしていないので、あくまでも雰囲気を味わってもらえば十分です。
PCのメールソフトが第7層(アプリケーション層)でメールを作成します。メールソフトは、メールを決められたフォーマットで作成するなど、第7層の役割に専念します。このとき、メールソフトは他の層に関与しません。具体的には、第3層(ネットワーク層)で、どのような経路制御をしているのか、第1層(物理層)でどのようなケーブル(光ケーブルやLANケーブル)なのかを全く意識しません。逆に、第1層(物理層)ではLANケーブルなどで電気信号使って相手と通信します。この際、第3層(ネットワーク層)や、メールの中身を作成するアプリケーション層は全く意識しません(そもそも、第1層(物理層)では、上位層でメールを送っているのかインターネットを閲覧しているのかも知りません)。
このように、メールを送るという、一見すると単純な処理に関しても、レイヤごとに処理する機器やソフトウェアが違います。先のOSI参照モデルの図では、レイヤごとに代表的なネットワーク機器を記載しました。例えば、ルータは基本的に第3層(ネットワーク層)の機能を担います。スイッチングハブは第2層(データリンク層)の機能です。第3層の機能には関与しません。つまり、機器ごとにどの役割を担うかを理解しておく必要があります。そういう意味で、ネットワークを理解するには、OSI参照モデルの7階層の理解は必須なのです。
おわりに
さて、今回は、多くの方が最も理解しづらい用語である「プロトコル」について解説しました。皆さん、なんとなくでも雰囲気を掴んでいただけたでしょうか。「よく分からないよー」という人もいらっしゃるでしょう。ですが、最初から理解できる人はほとんどいません。それどころか、ベテランSEでも、あまりよく理解できていない人もいます。そのため、今は「いろいろな取り決めを7つの層に分けて整理しているんだな」くらいに考えておいてもらえれば十分です。
3回目以降の記事では、今回で紹介したOSI参照モデルの各層について、第1層の物理層から順番に解説していきます。
左⾨ ⾄峰 著 |
ストーリーで学ぶ ネットワークの基本実務にひもづく基本知識が身に付く!
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