OSI参照モデルを紐解いていこう ー第1層(物理層)
はじめに
皆さん、こんにちは。ネットワークスペシャリストで、ITライターの左門です。本連載では、難しいネットワークを、身近な事例に置き換えながらわかりやすくお伝えしていきます。
2回目の前回では、プロトコルとOSI参照モデルという7つの層について説明しました。今回以降では、OSI参照モデルの各層について、第1層から順番に解説していきます。今回は第1層の物理層です。引き続き、身近な事例に置き換えますが、今回は第1回でも登場した糸電話を題材に説明します。
糸電話ってなぜ音が伝わるの?
今の若い人たちは、小学校のときなどに糸電話を使った実験をしましたか? 私が子供のころ(もちろん昭和です)は、糸電話で友達と話すという体験をしました。糸電話を使うと、小さな声が教室の端と端でも届くのでです。つまり、「糸」が音を伝えるのです。科学の不思議さに、ちょっと感動した思い出があります。そして、糸を指でつまんで押さえてしまうと、音が伝わりません。または、糸をピンと張らずに、緩めてしまっても伝わりません。面白い現象です。
では、糸電話は、どうやって音を伝えているのでしょうか。どう考えても音が糸を伝っていることは明らかですが、素朴な疑問があると思います。それは「音が糸を通るの?」ということです。当時は信じられなかったのですが、糸は音を伝えることができるのです。
もちろん、糸がなくても空気中で音が伝わるのですが、糸という物理的な媒体が振動を伝えやすくしています。ですから、少し遠く離れて(20mくらい)、糸電話を使わずに会話をしてみましょう。この場合は、空気を伝って音が届きます。しかし、小さい声だと会話が聞こえません。でも、糸電話で話をすると、相手の声がはっきりと声が聞こえます。糸が音を伝えているからです。
余談ですが、糸が音を伝えるとき、音は波となって相手に伝えます。中学の理科で習ったかもしれませんが、波は波長や周波数を持ちます。その波長や周波数を変えることで、いろいろな音を出すことができます。
コンピュータネットワークでは、
糸の代わりにLANケーブルを使う
では、パソコンやスマホのデータはどうでしょうか。皆さんは自宅でLANケーブルを使って接続したりしていますか。概ね想像がつくと思いますが、これが糸電話の糸に該当します。音を運ぶのも、画像やファイルを送るのも基本的には同じ理屈です。送る媒体(糸やLANケーブル)があれば運ぶことができます。
ただ、糸電話とLANケーブルのネットワークが同じかと言うと、もちろん同じではありません。例えば、糸電話は信号を波で送るアナログ方式です。LANケーブルは、電気信号の0か1かで送るデジタル方式です。ここでは、これらの仕組みの厳密な説明はしませんが、どちらも音や光などの信号を伝えるという点だけ意識してください。
話を糸電話に戻しましょう。糸によって相手に音を伝えられることは分かりました。でも、これが、海外の人の糸電話だったり、相手が外国人の方だったらどうでしょう。もしかすると、糸の太さや言葉が違うかもしれません。そもそも、海外に糸をつなぐなんてできない、という突っ込みが入りそうなので、LANケーブルを使った話で説明します。
LANケーブルで通信する場合に、通信する者同士で取り決めが必要だと思いませんか? お互いが全く違うLANケーブルを用意しても、接続できそうにありませんよね。なので、ここでも前回で説明した規約(プロトコル)が必要です。具体的には、LANケーブルを例にすると、LANケーブルの形状や、通信可能な最大の長さ、通信スピードなどを、あらかじめ決めておくのです。
第1層(物理層)のネットワークに関する機器
では、OSI参照モデルの第1層(物理層)について、詳しく見ていきましょう。物理層は、糸電話で言うと糸が該当し、郵便で言うと配達員の方が郵便物を運ぶための車や道路が該当します。また、コンピュータネットワークにおける物理層の機器としては、NICやLANケーブルがあります。
NIC(Network Interface Card)は、パソコンなどに付けられた、LANケーブルを接続する部分です。2台のパソコンのNICをLANケーブルで接続することで、とても単純なネットワークが完成します。
以降では、NICとLANケーブルについて詳しく確認していきます。
NIC(Network Interface Card)
皆さんのパソコンには、LANポート(またはNIC)が搭載されていますか。ここで言うポートとは差し込み口のことで、インターフェース(Interface)とも呼ばれます。
なぜNICと呼ぶかと言うと、パソコンを自作する場合や、大規模なサーバなどの場合には、下図のようなカード(Card)を装着したからです。ただ、多くのノートPCの場合は内蔵されているので、カードにはなっていません。
また、このLANポートの形状をRJ-45と呼びます。RJ-45という世界で統一された規格があるので、例えばアメリカに行って自分のパソコンをネットワークにつなげる際も、アメリカにあるLANケーブルで接続できます。
最近、無線LAN(つまり電波)で接続するケースが増えたことで、LANポートがないパソコンが増えてきました。その場合、USBのポートから変換ケーブルを使うことで、LANケーブルを接続することもできます。
LANケーブル
続いて、ネットワークを物理的に接続するケーブルについて解説します。ネットワークで利用するケーブルを大きく分けると、LANケーブル、光ファイバーケーブル、同軸ケーブルの3つがあります。ただ、同軸ケーブルは、今ではほとんど使いません。
皆さんが最も使うのはLANケーブルで、ケーブルの伝送距離や酒類などによってカテゴリ分けがされています。カテゴリ(category)は「区分」という意味で、ケーブルの規格と考えてください。具体的には、周波数やノイズ耐性、距離などの要件が定められています。
例えば、1Gbps(1,000Mbps)の通信速度であれば、その速度に対応するカテゴリ5e以上の規格のケーブルを使います。10Gbpsであればカテゴリ6a以上の規格のケーブルを使う必要があります。参考までに、カテゴリと最長距離などを整理します。
ここで、STP(Shielded Twisted Pare)とUTP(Unshielded Twisted Pare)について解説します。我々が一般的に使っているLANケーブルはUTPです。Twisted Pare(ツイストペア)は、その言葉の通り、2本の電線を対(ペア)にして「より合わせた(ツイストした)」ものです。Unshieldedは、シールドで保護されていないという意味です。
一方、STPはケーブルがシールドで保護されており、ノイズに強いという特徴があります。その結果、高速な通信を実現できます。シールドに覆われていないUTPケーブルはSTPケーブルに比べてノイズを受けやすいのですが、取り扱いが簡単で安価であることから広く普及しています。
糸電話は何m届く?
さて、皆さんが小さい頃に作った糸電話ですが、最長でどれくらいの離れたところまで声が届きましたか? 私の場合は、10mくらいは届いた気がします。参考までに、「大人の科学実験村」(株式会社Gakken)にて実験された結果が載っています。雨の中、神奈川の津久井湖に出向いての実験だったようです。
さて、その結果ですが、なんと500mでの会話に成功したとのことです。もちろん、条件が良ければさらに遠くまで聞こえることでしょう。皆さんの努力に感動するとともに、私も一緒に参加したかったという思いが湧いてきます。
一方、LANケーブルの場合は長さが最大100mと決められています(糸電話より短いのです)。ですから、LANケーブルのメーカは信号が100m届くようにケーブルを作っていますが、例えば300mの長さでも販売されています。そのため、好きな長さに切って100m以上の長さのケーブルを作ることもできますが、減衰(距離とともに信号が弱くなる)や遅延(信号を送るのに時間がかかり過ぎる)などが原因で、正常に通信できなくなります。ただし、100mというのはあくまでも規格で定められている値なので、実際にはもう少し長くても使える場合があります。逆に真夏の高温な室内などでは抵抗が大きくなるため、100mも届かないこともあります。
企業の工場などでは、100m以上離れたPCとも通信する必要がありそうですよね。そのような場合、次々回(第5回)で説明するスイッチングハブなどのネットワーク機器でLANケーブルを中継することで、100m以上のLANを構築できます。スイッチングハブで信号を整えたり増幅したりできるのです。
おわりに
今回は、OSI参照モデルの第1層(物理層)について解説しました。光ケーブルの話もしたかったのですが、拙書の「ストーリーで学ぶ ネットワークの基本」に、光ファイバーの構造やコネクタ、モード、ケーブルを分解した様子などを詳しく記載しています。ぜひ、そちらも読んでいただけると幸いです。
次回は、第2層(データリンク層)について解説します。
左⾨ ⾄峰 著 |
ストーリーで学ぶ ネットワークの基本実務にひもづく基本知識が身に付く!
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