「スマートコントラクト」の仕組みと「NFT」の事例

2023年8月24日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
第6回の今回は、ブロックチェーン基盤を活用した「スマートコントラクト」と、その仕組みを利用して取引される「NFT」の事例を解説します。

はじめに

前回までブロックチェーンの仕組みを解説してきました。今回はブロックチェーン基盤を活用した「スマートコントラクト」と、その仕組みを利用して取引される「NFT」について解説します。2021年2月から3月にかけてのNFTバブルはだいぶ落ち着きましたが、NFTの活用は着実に広がっています。このタイミングでNFTについてきちんと理解しておきましょう。

NFTとは

NFTは「Non-Fungible Token」の略で、日本語では「代替不可能なトークン」となります。まずは、この言葉の意味するところからスタートしましょう。

トークン

Tokenという英語は「しるし」や「証拠」という意味です。汎用的な言葉でいろいろな使われ方をするので、日本人にはちょっと分かりづらいですね。

私が初めてこの言葉を聞いたのはトークン・リング・ネットワークというLANの規格でした。これは、トークンと呼ばれる認証情報をリング上に循環する通信方法です。その時代の王者であるIBMが開発・推奨していたのですが、その後はイーサネットが主流になりました。

いっときネットバンキングなどにワンタイムパスワード用の専用デバイスが使われていましたが、あの認証デバイスのこともトークンと呼びます。こちらも最近はスマホが主流になっていますね。

仮想通貨においては、デジタル通貨そのものをトークンと言います。これに対しNFTのトークンは通貨だけでなく、デジタルアートやゲームのキャラクターなどデジタル資産全般を対象としたものです。正確に言えばデジタル資産そのものではなく、その資産が「本物で自分のものである」というデジタル証明書がNFTです。デジタル資産はコピーが容易なので「あなたが持っているものがオリジナルの本物です」と証明してくれるわけです。

実は、NFTの対象はデジタル資産に限りません。映画で使われていた小道具やスポーツのメモリアルグッズ、有名人のカードなど、リアルなものをデジタル証明するのにもNFTは使われています。そして、このデジタル証明に偽造や改ざんが難しいブロックチェーン技術が使われているのです。

代替不可能

では、Non-Fungible(代替不可能)という単語は何を意味するのでしょうか。これは、そのデジタル資産が唯一無二であるということです。例えば、ADOのファンが9月17日の横浜アリーナのコンサートで最前列のVIP席(指定席)を購入したとしましょう。そのチケットは世界で1枚しかないのでNon-Fungibleです。

一方、地下アイドルのライブのS席(自由席)のチケットはどうでしょうか。こちらはS席とA席には分かれていますが、S席エリアの中は自由席なので、そのチケットは代替可能(同じものが複数あって交換可能)です。

さて、ここで質問です。ビットコインのような仮想通貨はNFTの一種でしょうか。答えはNoです。例えば佐藤さんが持っている1ETHと鈴木さんが持っている1ETHに違いはなく、それらを交換することもできます。仮想通貨そのものはトークンと呼ばれますが、こちらは代替可能なのでNFTではないのです。なお、ETH(イーサ)はイーサリアムの仮想通貨で、現在の1ETHは約26万円です。

代替可能トークンと代替不可能トークン

図1:代替可能トークンと代替不可能トークン

NFTとスマートコントラクト

前回で、Ethereum(イーサリアム)は仮想通貨(ETH)だけでなくブロックチェーン技術を利用したスマートコントラクトの仕組みをプラットフォームとして提供していると説明しました。NFTは、このスマートコントラクトの技術を利用して作成され、ブロックチェーン上で管理されるデジタル資産です。スマートコントラクトはNFTの作成や取引、改ざん防止、所有権の確認などNFTのライフサイクル全体をサポートします。

図2のデジタルアートの例で説明しましょう。ブロックチェーンは、連鎖的につながるブロック上に取引情報を保存するというのはこれまでの説明で理解できていますね。中央管理者を持たないP2P(ピア トゥ ピア)型の分散データベースで、イーサリアムの場合はPoSというコンセンサスアルゴリズムにより各ノード(バリデータ)がトランザクションの正当性を検証します。バリデータはイーサリアムネットワークの運営に貢献することで、GAS(ガス)と呼ばれるスマートコントラクト手数料をETHでもらえるのです。

スマートコントラクトは、事前に定義されたルールや契約に基づいて自動的に実行されるプログラムです。ブロックチェーンの「取引を分散記録する」「契約内容が改ざんされない」などの特性を利用し、これに「中央管理者がいなくても自動的に契約が実行されるロジック」であるスマートコントラクトを載せてNFTの取引を支える基盤となっているのです。

この例では、アーティストが作成したデジタルアートのNFTを作成し、コレクターが仮想通貨を支払って所有権を獲得しています。ブロックチェーンの仕組みを利用しているため、NFTのコピーが作られたり、同じNFTを同時に複数の人に譲渡したりすることはできません。取引はブロックに分散記録され、各ノードがトランザクションの正当性を検証しています。仮想通貨のトランザクションが記録されて誰がいくらもっているかを証明できるように、NFTのトランザクションがブロックに分散記録され、誰が現在の所有者なのかを証明できるのです。

NFTとスマートコントラクト

図2:NFTとスマートコントラクト

プログラマビリティ

絵画やサイン入りTシャツなどは売却して手放せば終わりです。一方、スマートコントラクトは事前にプログラムしておき、いろいろな機能を持たせることができます。この特性はプログラマビリティと言われています。

プログラマビリティ

図3:プログラマビリティ

1. 収益の分配

スマートコントラクトは、事前に定義されたルールや契約で取引されます。例えば、自分が作った作品のNFTが取引されるたびに売買額の一定割合を受け取るようにプログラムすれば、アーティストは売って終わりでなく、取引のたびに一定のロイヤリティを受け取ることができます。

2. 特性の変動

NFTはデジタルアートのほかにゲームでもよく使われます。ゲームの収益モデルの1つはアイテム課金ですが、自分のキャラクターがNFT、すなわち唯一無二であれば思い入れもことさらでしょう。プログラマビリティによりキャラクターがミッションを終了したり、戦いに勝ったりするたびに能力値やアイテムが増える仕組みなどをプログラミングできます。

3. カレンダー連動

東京タワーは2003年からライトアップ色が変わるようになりました。それまで夏は白、冬はオレンジでしたが、今はクリスマスには赤と白、元旦は白と金、バレンタインデーはピンクと赤というように季節やイベントに応じて色が変わります。

これと同じような効果を付けるのがカレンダーに連動するプログラミングです。デジタルアートやゲームのNFTキャラがバレンタインデーやハロウィーンのときに特別デザインへ変わるような感じです。今なら東京タワーの例よりGoogleページのデザインが変わる例の方が分かりやすいですね。

4. 外部データ連携

カレンダー連動は予め決まった日にアクションを起こすものですが、外部データと連携して動的に内容を変えることもできます。例えば、プロサッカー選手が自分のNFTを作成し、それをファンが購入するようなスキームはたくさんあります。限定1個なのでそれだけでもファンからすると垂涎のレアアイテムですが、その選手が得点やアシスト、ハットトリックをした日にデザインやエフェクトを変えたりすれば、さらに喜びを分かち合えるでしょう。

5. ブリーディング

バーチャルペットもNFTゲームの代表的な例です。ゲームの中で2つのペットをブリーディング(交配)させ、両方の遺伝子を持つ新しいペットが生まれてユーザーのウォレットに追加するような利用方法です。競走馬の種付けと同じく、親の価値によって子供の価値が左右されたりするので面白そうですね。

NFTの事例

実際にどのようなものがNFT化されているのでしょうか。これまでに話題となったトピックのいくつかを表1に示します。これらの事例を見てゆくと、NFTがどのようなものかイメージが明確になると思います。なお、金額は当時の為替レートのおおよその額です。

表1:話題となったNFT取引の例

アイテム・作者 日付 対象のNFT 売買額 概要
CryptoKitties
(ゲーム)
2018年9月6日 ゲームの猫キャラクター 1,900万円 2021年3月11日にDragonが1.38億円で売買された
Axie Infinity
(ゲーム)
2021年2月8日 ゲーム内の仮想区画 1.6億円 ゲーム内で購入した区画を売却
3LAU
(ミュージシャン)
2021年2月28日 音楽アルバム 3.7億円 同月、過去のアルバム33枚をNFTとして12.6億円で発売
NBA TOP SHOT
(コレクション)
2021年2月22日 トレーディングカード 2,270万円 同年4月にこのカードは4,480万円で落札された
CryptoPunks
(コレクション)
2021年3月11日 デジタルアート
作品#7804
8.1億円 2022年2月12日には#5822が27億円で売買された
Beeple
(アーティスト)
2021年3月11日 デジタルアート 75億円 作品名「Every−The First 5000 Days」
Jack Dorsey
(Twitter創設者)
2021年3月22日 初ツイート 3.2億円 初ツイート「just setteing up my twittr」
著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役会長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部、2019年東証スタンダード上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」「エンジニアなら知っておきたい システム設計とドキュメント」「徹底攻略 JSTQB」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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