LPI日本支部がパートナー向けの説明会を開催。来日した本部のエグゼクティブディレクターにインタビューを実施
オープンソースソフトウェアの資格試験を実施する非営利団体のLPI(Linux Professional Institute、本部はカナダ、オンタリオ)のエグゼクティブディレクターが来日し、日本のパートナー向けの説明会を実施した。ミーティング自体はパートナー向けで非公開だったが、エグゼクティブディレクターのG. Matthew Rice氏とLPI日本支部のコミュニケーションディレクターの伊藤健二氏にインタビューを行った。
今回はパートナー向けのミーティングということですが、主なトピックは何でしたか?
Rice:今回の目的のひとつには認定試験の値上げについて説明することでした。皆さんに納得してもらえるように努力しましたが、実際にどう感じられたのかは直接聞いてみるしかないですね。
伊藤:今回はまだLPIのボードメンバーからの承認が下りていない段階だったので、あくまでも予定として説明したことになります。正式にボードからOKが出れば告知をすることになりますが、その前に日本のパートナーには説明をしておこうというのが主旨です。
今の日本の社会ではさまざまなモノの値上げが続いていますが、これもそれに倣ってということですか?
Rice:値上げをしなければいけない理由はちゃんとありますよ。
便乗値上げではないと。
Rice:LPIの認定試験が始まった時はまだ数種類の試験ができたばかりでしたが、現時点ではLinuxだけではなくオープンソースの認定試験、そしてエンジニア向けというよりもビジネスにオープンソースを使う経営層に向けた試験などもあります。すべての試験内容のメンテナンスも必要ですし、それらのすべての作業をボランティアに委ねることはできません。ちゃんと責任のある仕事をしてもらうためには報酬は必要です。
日本はいままで価格の改定をしていなかったということもありますが、何より日本の価格レベルはアフリカの諸国と同じレベルだったのです。実際に国際的に見てもかなり安いレベルの価格を維持してきましたが、今回はそれを改定したいというのが我々の願いなのです。価格にはそれぞれの国の状況に合わせて設定してありますが、日本はその経済状況からみればかなり安かったというのが実態です。
一番価格が高いのは?
もちろん、アメリカです。あとカナダも同様のレベルになっていますね。
少し話題を変えますが、最近、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)が盛んに認定試験を開発しています。Kubernetesに関する管理者向け認定試験に加えてデベロッパー向けの試験、セキュリティに関する試験など範囲を拡大する方向に向かっていると思います。これに関しては?
Rice:素晴らしいことだと思います。試験という仕組みを通じてエンジニアの技能を高めることができるのですから。彼らの意図がどこにあるのかは知りませんが、我々LPIの目的は最初から個人のプロフェッショナルがより良い仕事に就けるように技能を高めることだったのです。そのために試験を作り、それに対応したトレーニングマテリアルを提供してきましたし、それは今も変わりません。
私が最初にLPI-JapanとLPI日本支部の話を聴いて感じたのは、LPI-Japanは認定試験を受ける個人をお客だと思っているということだったんです。一方Mattさんが所属しているLPIのほうは、認定試験を受ける人を同僚もしくは仲間として扱っているという違いが個人的に今でも記憶に残っています。
ここで触れているLPI-JapanとLPI日本支部の違いについては以下のRice氏へのインタビュー記事を参照して欲しい。
●参考:オープンソースの資格制度を運用するLPIが日本支部を結成 LPI-Japanとの違いとは?
Rice:同僚というかコミュニティと言った方が良いかもしれませんね。同じ非営利団体でもメンバーシップとして個人に特化している団体と、The Linux FoundationやCNCFのように企業のメンバーシップから多くの資金が入る団体ではやり方が違うのは当然でしょうね。どうしても企業の意見が強くなって、その意向に従わないといけなくなる可能性は高いと思います。
また別のトピックについてお訊きしたいと思います。Hashi CorpがElasticやMongoDBのようにパブリッククラウドのフリーライドを避けるためにライセンスを変えたことが話題になりました。ベンチャー企業がアイデアを形にしてオープンソースで開発を続けながら、ビジネスとしても持続するというやり方はかなり難しくなっているのではないかと思います。それについて何かコメントはありますか?
Rice:IBMがHashi Corpを買収すると言う話ですね? IBMはかなり前よりハードウェアの会社からサービスの会社になろうと努力をしてかなり成功したのではないかと思いますが、少し前にオープンソースへの大きな投資を行いました。10億USドル規模の投資だったと思います。それによって、エンタープライズがオープンソースを使うことを推進しましたし、それは良かったと思います。今回のHashi Corpの話もIBMのポートフォリオとしては良いことになるから行ったんだと思いますが、Hashi Corpのように常に成長を投資家から求められる状況では、オープンソースのようにライセンスからの収入がないというビジネスモデルは難しいんだろうと思います。そのため、AWSがフリーライドするならライセンスで禁止してそれでも使うなら金を支払えということになるだろうなと思います。ただこの流れが今後も続くのかどうかはわかりません。
Hashi CorpにしてみればOpenTofuのようなフォークしたソフトウェアが出てくるとは思っていなかったのではないかと思いますが。
Rice:オープンソースコミュニティが反発したという形ですね。ライセンスの変更では往々に起こることだと思います。買収によってブランド価値を壊すというのはとても簡単な仕事で、最近だとVMwareはBroadcomに買収されたことで大きく価値を損なったと思います。
Broadcomの意図がよく分かりませんが、これまでVMwareが持っていた仮想化ビジネスに関する顧客ベースの信頼というか評判を一夜にして失った感がありますね。私が知っているエンジニアも何人もVMwareを離れていますし。
Rice:Broadcomが意図的にやったのか、意図せずにやったのかはわかりませんが、意図的にやったんだとしたらその意図は一体なんだったんでしょうね。あそこまでブランド価値を壊す必要はなかったと思います。
最後にMattさんに来年のチャレンジをお伺いしたいと思います。
Rice:チャレンジはLPIを黒字に戻すことですね。パンデミック以来、多くの変化によって我々の活動も変わってしまいました。非営利団体ですので利益を株主に還元するということはできませんが、それでも余剰金があることによって可能になることは多くあります。メンバーのための施策もありますし、今回のようなパートナーとの活動も大事です。なので黒字化を来年の目標にしています。
少ない予算の中で日本を訪れて、パートナー向けのミーティングや懇親会でも積極的にメンバーと意見交換をしようとするRice氏の真摯な姿勢が印象的だった。
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