DevRelにおけるコミュニティ・マネージャーの仕事
はじめに
DevRel関連職の1つに「コミュニティ・マネージャー」があります。最近では企業におけるコミュニティ運営も活発となっており、CMC_Meetupのようなコミュニティ・マーケティングをテーマとしたコミュニティや、一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会なども設立されています。
今回は、今後ますます需要が高まるであろうコミュニティ・マネージャーという職種について、DevRelの観点から解説します。ぜひ参考にしてください。
コミュニティ・マネージャーとは
コミュニティ・マネージャーはその名の通り、コミュニティを管理・運営する職種になります。コミュニティは本来、地域に根ざした社会的なものを指しますが、開発者コミュニティの場合は、特定の技術やプロダクトに関心を持つ人々が集まる場所を指します。また、企業の場合は、その企業のサービスをテーマにしてコミュニティ(ユーザーグループ)が形成されます。
コミュニティ・マネージャーはコミュニティの窓口であり、コミュニティが成長するために必要な役割を担います。コミュニティ・マネージャーの代替わりによって、コミュニティが衰退してしまうケースは少なくありません。つまり、コミュニティ・マネージャーの人柄が、そのコミュニティの成否を決めると言っても過言ではありません。それくらいコミュニティ・マネージャーは大事な役割です。
コミュニティの種類
開発者周辺でのコミュニティは、いくつかの種類に分類できます。
企業コミュニティ
企業が主導して運営するコミュニティです。自社サービスを利用する人・企業だけを募ると、パートナー会になります。企業が自社サービスの認知拡大、また事例増大のために運営します。また、パートナー同士のつながりを生み、新しい共創を生み出すのも大きな役割になります。
ユーザーコミュニティ
あるサービス・製品などを利用する人たちが集まったコミュニティです。運営はユーザーが行い、サービスプロバイダー(企業側)は運営に関与しないケースが多いです。日本で最も有名なものとしてはJAWS-UGになるでしょう。ほかにも、UnityやSORACOM、kintoneなどさまざまなサービスにユーザーコミュニティがあります。
技術コミュニティ
特定の技術やソフトウェア、フレームワークに関するコミュニティです。運営は利用ユーザーによって行われますが、その製品に関わるサービスを提供する企業の担当者が運営に参画している場合もあります。
企業としては、そのテクノロジーやフレームワークにおけるプレゼンスを向上し、知名度を高めるために運営に参加します。とはいえコミュニティを私物化することはできないので、あくまでも運営の1人として活動します。プレゼンスを高めるためには、登壇したりナレッジをシェアするところが肝心になります。
主なタスク
コミュニティ・マネージャーの業務は多様で、確立したものがあるわけではありません。ここでは筆者がコミュニティ・マネージャーとして活動する際の主なタスクを紹介します。
運営メンバー探し
ユーザーコミュニティを一から作る場合、初期メンバー候補を探します。個人的にはこのプロセスは十分に時間をかけます。実際に会いに行って、話をしたり、興味があるかを確認します。このときには自分の肌感覚が重要で「候補者がいないから」と無理に決めてしまうと、後で後悔することになります。慎重に選びましょう。
ユーザーコミュニティでは、企業から運営メンバー候補を挙げてもらい、実際にその方に会いに行きます。実際に企業のサービスを利用している方なので、運営ではなく登壇者としてぴったりな場合もあります。定期的に連絡して、どういったお話ができそうかを確認します。
イベントの実施
イベントを実施する際には、会場探しや登壇者探し、当日のタスクなど、さまざまな仕事があります。
- 登壇者探し
- 会場探し
- イベントページ作成
- 会場の準備
- 受付
- 司会進行
- 懇親会の準備
- 懇親会・二次会
- 片付け
- レポート
チャンピオンプログラム
ユーザーコミュニティや企業コミュニティを運営する中で、その活動が突出したメンバーを探します。そのようなメンバーを「チャンピオン」などと呼び、表彰や特典を提供します。AWS Samurai、IBM Champions、Google Developer Expertsなどがその例です。
コミュニティ・マネージャーとしては、そうしたメンバーをノミネートしたり、選考を担当します。また、チャンピオンプログラムが公正、かつ継続的なものになるように、そのフレームワーク設計にも関わります。
オンラインコミュニティの運営
オンラインコミュニティは、主にSlackやDiscordなどで運営されます。オンラインコミュニティ内で質問に答えたり、新しい情報を提供します。
オンラインコミュニティを活性化するアイデアとして、良い質問の存在があります。コミュニティ側には答えてくれるメンバーが数多くいるので、良質な質問が良質な答えを生み、コミュニケーションが生まれます。コミュニティ・マネージャーとしては、質問しやすい雰囲気や場の雰囲気を良い状態に保つ必要があります。
オンライン、かつテキストだけのやり取りでは感情がこもらずに場が荒れてしまうケースがあります。その際には、コミュニティ・マネージャーとして公正な対応が求められます。知り合いを贔屓したり、事なかれ主義に走らないよう注意しましょう。
求められるスキル・素養
コミュニティ・マネージャーに求められるスキルとしては、以下のものがあります。一部は本人の生まれもったものになりますが、取り組み方次第で克服できるはずです。
コミュニケーションスキル
コミュニティ・マネージャーに求められるのは傾聴です。相手の話を聞いて、良さを引き出すコミュニケーションスキルが必要となります。そのためには相手やその取り組みに対して、本心から興味を持たなければなりません。
コミュニティ・マネージャーの基本は「人が好き」である、興味があるという点に尽きます。他人に興味がない人や、仲が良い人にしか興味がない人にコミュニティ・マネージャーを務めるのは難しいでしょう。
技術スキル
傾聴は大事ですが、常に聞く体制になっていると、コミュニケーションではなくインタビューだと思われてしまう可能性があります。また、相手の話の技術的な本質を理解していないと、相手からの信頼は得られません。
DevRelのコミュニティ・マネージャーとしては、やはり技術スキルがある程度必要だと感じます。技術的なスキルが全くないと、登壇者と参加者の期待値に応えるのは難しいでしょう。
登壇スキル
コミュニティ・マネージャーが積極的に登壇する機会は多くありませんが、企業によってはエバンジェリスト的な動きを求められることがあります。また、司会進行する際にも登壇スキルが役立ちます。
自分自身も登壇スキルを持っていれば、他に人に登壇を勧める際にアドバイスすることもできるでしょう。
ソーシャルスキル
コミュニティは拡大を求められます。そのためにオンラインツールの利用は欠かせません。XやFacebook、LinkedInなどのツールを活用し、参加者や登壇者とつながったり、コミュニケーションを行う必要があります。
また、オンラインサービス(ソーシャルやチャットツールなど)は炎上しやすい傾向があります。そういった傾向が見えそうなときに早めに対処するなど、オンラインサービスを常日頃から利用し、感覚を養っておきましょう。
きめ細かい気遣い
コミュニティは一朝一夕でできるものではありません。コミュニティメンバー、企業などとの日常的なコミュニケーションが大事です。ユーザーコミュニティの活動が鈍ってくる前兆として、運営メンバーの職責が変わったり、転職があったりします。そうした予兆を掴んで早めに対処する、イベントのネタを提供するなど継続的な運営に協力しましょう。
また、コミュニティは単なる枠組みではなく、人と人のつながりです。個々人のつながりがあってこそ、健全なコミュニティが保たれます。そのため、何となく疎遠になってしまうとコミュニティから離れたり、ちょっとした対応を間違えたために信頼を損ねるケースもあります。
瞬発力・即決力・権限
コミュニティメンバーが新しいアイデアをくれた際に、そこに即座に反応できる瞬発力が必要です。上司に確認してなどと返信して数営業日経ってしまったら、やる気もなくなってしまいます。もちろん予算が大きくかかるものは難しいですが、新しい地方コミュニティの立ち上げなどであれば、すぐに出張を決定するなど素早い反応が求められます。
そのためにコミュニティマネージャーには必要な権限が求められます。すぐに返信する瞬発力、どこへでも出張する身軽さ、会場などで費用がかかる場合の決裁権限などが備わっていると良いでしょう。
おわりに
今回は、DevRelの観点からコミュニティ・マネージャーの仕事について取り上げました。DevRel界隈はもちろん、それ以外の界隈でもコミュニティ・マネージャーの需要は高まっています。特にDevRel界隈では、技術スキルを伴ったコミュニティ・マネージャーが必要です。
開発者出身でコミュニティ・マネージャーになっている人も大勢います。キャリアプランの1つとしてもお勧めです。