KubeCon North America 2024、日本からの参加者を集めて座談会を実施。お祭り騒ぎから実質的になった背景とは?

KubeCon+CloudNativeCon North America 2024に日本から参加したエンジニアを集めて座談会を実施した。参加者はパナソニックコネクト株式会社の黒田茂生氏、同じく小六泰輔氏、株式会社Preferred Networksの上野裕一郎氏、薮内秀仁氏、NTTコミュニケーションズ株式会社の野山瑛哲氏、佐藤一樹氏の6名だ。AIがメインテーマとなった感があったカンファレンスだったが、パリで見られた狂騒感が薄れてより実地的な内容となったことを各々語ってくれた。
では皆さん、簡単に自己紹介をお願いします。
黒田:パナソニックコネクトの外部の顧客向けビジネスのためのクラウド基盤の設計と開発、運用をするクラウドエンジニアリングセンターという部署でセンター長をやっています。小六さんは同じ部署でプラットフォームチームのテックリードをやってもらっています。主に利用しているのはパブリッククラウドでAWSとAzureを使っています。
薮内:社内外の機械学習の基盤開発をやっています。機械学習ではGPUなどのアクセラレータをうまく使う必要があるので、そのためのPodのスケジューラーをどうやって動かしたら効率が上がるのかとかを主にやっています。上野さんはもうちょっと低いレイヤーのネットワークとかの仕事もやっています。うちはオンプレミスのクラスターがメインで、データベースなどのパブリッククラウドのほうが面倒が少ないような機能についてはパブリッククラウドを使うという使い分けはしています。
野山:社内の機械学習基盤の開発をやっています。まだ社内で機械学習のアプリケーションをやっているところが少なくて、3つのグループが作っているAI関連のジョブを実行するためのインフラストラクチャーの設計と開発ですね。うちもオンプレミスのクラスターです。
3社ともそれぞれ同じ部署からKubeConに参加したというわけですね。KubeCon参加はPreferred Networksの薮内さんが2回目で他の皆さんは初めてということですが、印象はどうですか?
黒田:他のテックカンファレンス、例えばAWSのRe:Inventなどに比べると、だいぶエンジニア向けのイベントって感じを受けました。営業っぽさが前に出てなかったですね。
佐藤:KubeCon EUのパリの時はほんとに「CLOUD NATIVE ?AI」みたいな感じではしゃいでいた感じだったのですが、今回だいぶ落ち着いた感じはしましたね。何しろ最初の日のキーノートの始まりがパテントトロールの話でしたから(笑)。
野山:個人的にはAIのネタもいっぱいありましたが、細かな部分、Kubernetesの機能を深く解説をするようなセッションもちゃんとあって本当に開発者が話をしているんだなと思いました。
では今回のセッションで気になったものはありましたか?
小六:私達の部署ではマルチテナントのクラウド基盤を構築しているので、その関連のセッションを多く聴講しました。しかし、結果的にはあんまり収穫がなかったですね。あるセッションで聞いたのはその企業はマルチテナントのために『しっかりとノードプールを分けて運用しています!』みたいな感じで弊社とは目指すところがだいぶ違うと感じました。弊社のケースだとマルチテナントでありつつなるべくリソースを共有してコストを下げたいので、そこは各社それぞれニーズが違うんだなと。
佐藤:今回は機械学習ジョブのスケジューリングに関するセッションが多く、KueueとかDRA(Dynamic Resource Allocation)のセッションは気になりましたね。パリで浮かれてしまったのでもうちょっとまじめに話をしよう! みたいな感じだったのかも。
薮内:単純にKubernetes上で生成AIを動かしてみました! みたいなのは少なかった印象があります。単に動かしてみた、という話から「こういう場合はこうしたほうが良い」とある程度経験を積んでベストプラクティスが整理されてきたのかもしれません。例えばGPUのリソースをどう管理するかについてはパリに引き続きDRAに関するセッションが見受けられました。パリでは「使ってみた/動かしてみた」といったセッションが多かったように感じましたが、今回は問題を解決するためにDRAを利用するような、より具体的な内容に踏み込んでいたように思えます。特に同じPCI Expressバスを共有する近いトポロジーのGPUとRDMA NICをDRAを活用することで、Podから宣言的に利用できるよう、課題提起から解決まで説明しているセッションが印象に残りました。
LLMもそうでしたけど、体系的にまとめることが可能になってきたということなんだと思います。
野山:AIの運用に関するセッション、特にちゃんと観測して動かしましょうみたいなセッションが4つぐらいあって、ずいぶんと地に足がついた感じの内容だったのが良かったですね。
上野:AIがもてはやされていた感じですけど、ハードウェアのオブザーバービリティを高めて壊れないGPUクラスターを作るみたいなセッションがあったと思うんですね。単にAIという言葉だけじゃなくて実際にクラスターを運用する立場からどうやったら壊れないGPUクラスターを作れるのか? というテーマで地に足がついていたセッションで良かったと思いますね。もうKubernetesというソフトウェアのカンファレンスじゃなくてKubernetesに関わっていれば何でもオッケーなカンファレンスみたいな内容でした。これもKubeConでやるんだーとは思いましたけど、私は興味があるのでこれはこれでありがたかったです(笑)。
パリではCNCFのエグゼクティブディレクターのプリヤンカが大はしゃぎしていましたからね。パテントトロールに関する話が最初に出てきたという話がありましたが、それに関してはどう思いますか?
佐藤:あの話が出てきたのは実際にプロジェクトでそういう被害にあったケースが出てきたからなんじゃないかなと思いました。あとパリではしゃぎ過ぎたので少しまじめにやろうと思ったのかもしれません(笑)。
ただあれを初日の最初のキーノートにやった意味は大きいと思うんですよね。つまり参加者が全員いて全員が注目している中であれを伝えたということは、まだ注意力が落ちてないという状態でパテントトロールに脅されても一人で悩まずにCNCFに相談して欲しいと伝えたかったのかなと。別の見方をするとオープンソースプロジェクトというのがトロールの餌食になるほどお金があるような状態になったとも言える気がします。今回のセッション以外でショーケースとかは見ましたか?
佐藤:私はCNCFのプロジェクトのブースが一番好きですね。ちゃんとガイドがそれぞれのプロジェクトを紹介してくれるツアーにも参加しましたし。あれで知らないプロジェクトを知ることもできましたし。
上野:セッションに出るのが目的だったのであまりショーケースは見てないんですが、私もCNCFのプロジェクトがやってる小さなブースはおもしろかったですね。映えるプロジェクトもありますけど、縁の下の力持ちみたいな渋いプロジェクトもちゃんと出てましたし。etcdとか。
小六:私もCNCFのプロジェクトブースはおもしろかったですね。アイコンだけを知っていて中身を知らないプロジェクトもちゃんと出展して説明してくれるので、新しい気付きになります。
黒田:私は前職の関係もありIBMのブースとRed Hatのブースで大手のオープンソースの取り組みを見て、後はオブザーバービリティ関連のブースを見て回りました。やっぱり国内のカンファレンスとは違ってユースケースとしては日本の大手企業では使う場面が限られるようなプロジェクトやプロダクトの企業があったりして、やはりアメリカはスケールが違うなという印象ですね。そんなのだれが使うの? みたいなプロダクトまで幅広く出展されていました。
ショーケースはパンデミック前は本当に通路が狭くていつも大混雑って感じだったのが、パンデミックで空間を空けるために通路が広くなって見易くはなったんですよね。でもベンダーの入れ替えも多くてIBMやRed Hat、AWS、Googleなどは相変わらずですけど、もういなくなったベンダーもいれば新しく参入してくる小さなベンチャーもあり、入れ替わりが激しいんですよね。2025年はKubeCon Japanがありますがそれについてはどんな期待がありますか?
上野:日本でやるカンファレンスなのでセッションのスピーカーになりたいし、会社としてもブースを出してくれると良いなと思ってます。
薮内:海外のカンファレンスは誰もが行けるわけじゃないので、多くの人に参加してもらいたいとは思ってます。弊社からも数人はセッションのスピーカーになって欲しいと思いますけど、1回だけじゃなくて継続できれば良いですね。
小六:自分もスピーカーにチャレンジしたいとは思います。
黒田:うちの社内にはクラウドベンダーの提供するサーバーレスソリューション第一主義というプロジェクトもあるので、そういう人たちにはこういうカンファレンスに参加してオープンソースが進化しているということを知ってもらいたいと思いますね。
最後に何か追加することがあれば。
薮内:キーノートのクイズ大会はおもしろかったですね。kubectlの発音は何が正しいのか?みたいなのがあって。
あれはKubeConでは初めての試みだったと思いますけど、CNCFがやったサーベイの結果を単にスライドで紹介するんじゃなくてクイズの形で紹介するというのは楽しかったですね。『Kubernetesで一番難しいのは何か?』みたいなクイズで最も多かった回答が「ハイアリング(雇用)」だったのは本当に今のIT業界を象徴してる感がありましたね(笑)。
パリで開かれたKubeCon Europe 2024と比べるとだいぶ落ち着いた感じのカンファレンスだったが、初めての参加者もその辺りの感覚は共通していたようだ。生成型AIや機械学習についても「動かしてみた」だけから体系的な整理やベストプラクティスに近づいている内容も多く、本来の姿に戻ってきたと言える。2025年はKubeCon Japanも開催される予定だ。CFPに通るのは激しい競争となるだろうが、日本企業のユースケースや失敗談を期待したい。
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