動画をDevRelに活用しよう

2023年9月6日(水)
中津川 篤司
今回は、動画を効果的に利用して、より上手にDevOpsを実践するための方法と事例を紹介します。

はじめに

コロナ禍になって、一躍注目を集めたのが動画ではないでしょうか。ミーティングもオンラインで行うのが当たり前になっていますし、動画配信サービスの契約数もぐっと増えたといいます。そして、動画はDevRelの中でも活用されています。

今回は、動画を利用したDevRelについて、事例も含めながら紹介します。

動画の種類

ひと口に動画と言っても、さまざまな種類があります。まず考えられるのは一方通行なのか、相互通信なのかという違いです。一方通行な配信としてはYouTubeやVimeoなどを使った動画アップロードが考えられます。相互通信としてはZoomやGoogle Meetなどになるでしょう。

ライブ配信はその中間に位置するものになります。YouTube LiveやTwitchはチャットを介して視聴者と相互にコミュニケーションできますが、動画は一方通行の配信です。

動画アップロード

動画のアップロード方法には主に2つの種類があります。1つは、ドキュメントやヘルプで利用されるコンテンツを重視した動画です。Webサイトのトップページでサービスの概要を動画で紹介するものも多いです。また、ドキュメントの中に動画を埋め込むことで、理解度を促進させるものもあります。

もう1つは人に注目した動画で、YouTuberなどが該当します。日本でもプログラミングを教えるYouTuberやVTuberなどがいます。コンテンツの品質はもちろんですが、話す人の魅力が再生数やチャンネル登録数に反映されるでしょう。

相互コミュニケーション

動画を相互コミュニケーションに用いる例として、一番多いのがオンラインのミートアップではないでしょうか。徐々にオフライン回帰しはじめているとはいえ、まだまだオンラインでコミュニティイベントを行うケースは多いです。

そうしたときによく使われるものとしてはZoomではないかと思います。また、後述するライブ配信と同じようにYouTube Liveを利用するケースもあります。

ライブ配信

ライブ配信はYouTube LiveやTwitch、Twitter Livestreamを利用した方法が挙げられます。もちろん、他にもライブ配信サービスはありますが、開発者を対象とした場合にはこの3つがよく使われます。

主なDevRelの施策

それでは、こうした動画をどのようにDevRelへ活用するのか、実際の施策を例に挙げて紹介します。

ハンズオン

サービスを試す際に、ドキュメントだけ見ても分かりづらいことは多いです。そうしたときには、画面を見せながら説明するハンズオンが効果的です。オフラインのときには1人でも作業が遅れてしまうとサポートに時間を取られがちでしたが、オンラインの動画であれば各自のペースや時間に任せられます。

筆者の場合はハンズオンの動画をYouTubeにアップロードしておき、それを見ながら各自で作業してもらっています。サポートはリアルタイムなので、必要なときにオンデマンドでサポートする形です。

ハンズオンのプレイリスト

ハンズオンのプレイリスト

ライブ配信

Twitchで数多くのライブ配信を行っているのが「AWS」です。AWSの話はもちろん、技術一般に関する話題も取り上げています。複数の関係者がテーマに沿って話しつつ、チャットで質問が来ればそれに答えるといったものもあります。Twitchは仕事をしながら聞いている人も多く、気になる話題があればチャットで質問するといった緩い参加が可能です。

AWS - Twitch

AWS - Twitch

筆者の運営するDevRel Meetup in Tokyoでは、コロナ禍になってから「DevRel/Radio」というネットラジオを開始しています。ネットラジオといっても毎週1時間程度、ライブで配信しているだけです。これも仕事中の時間帯に行っているので、耳だけ傾けてもらえれば十分といったものになっています。

DevRel/Radio - YouTube

DevRel/Radio - YouTube

コミュニティイベント

コロナ禍による行動制限が明けて、徐々に日常の生活を取り戻しつつあります。しかし、コミュニティイベントはなかなか元に戻っていないのが実情です。これにはさまざまな要因が考えられるため今後のテーマにするとして、その代わりになっているのがオンラインイベントです。

筆者が運営に参加しているPWA Nightはコロナ禍になって以降、オンラインイベントを中心に実施しています。オフラインへの人の集まりづらさもありますが、コロナ禍になって運営メンバーが日本中に散った(引っ越しした)のも要因の1つです。生活スタイルが変わった中で最適なのがオンラインイベントになっています。

オンラインイベントの良さは、参加するための心理的障壁が低いことです。はじめてコミュニティに参加するときは、相当ドキドキするものです。その緊張が嫌で参加を控えてしまっていた人もいるでしょう。オンラインイベントであればクリック1つで参加できるのが魅力です。

そして、多くのオンラインイベントはアーカイブを残しています。これは閲覧側はもちろん、登壇側にとっても嬉しいものです。アーカイブが残ることで、後々動画を見てもらえる機会が得られます。これをきっかけにサービスを知ってもらえれば、DevRelとしてありがたいものになります。

動画のメリット

まず、認知特性を知る必要があります。認知特性とは、簡単に言うと情報を整理、理解する特性のことです。そして、この認知特性は人によって最適なものが異なります。テキストが良いという人もいれば、音声や動画が良いという人もいます。人から説明を受ける方が良い人もいますし、紙の書籍を好む人もいます。

動画は視覚と聴覚に訴えるメディアであり、五感に強く印象づけます。また、テキストのように能動的ではなく、発信している音声や動画を見聞きするという受動的な部分も特徴になります。そうした点が動画の好まれるポイントになるでしょう。

また、YouTubeなどでアーカイブが残せるのも利点です。オンラインイベントなどで後から見返せれば万一参加できなくても安心です。分からないポイントがあれば巻き戻しもできますし、動画のスピードも調整できるので時間の無駄がありません。

そしてライブ配信やオンラインイベントのように、参加するための心理的障壁が低いのが何よりも大きな利点です。多くのコミュニティは首都圏や地方の大都市圏に集中していましたが、オンライン化により日本中・世界中どこからでも参加できます。移動する手間もなく、ワンクリックで参加できるのは手軽です。チャットでコメントしたり、そこで返答がもらえたりする手軽さも嬉しいでしょう。

動画のデメリット

オンラインイベントに代表されるデメリットは体験が弱いということです。コロナ禍になって最初の頃こそ、参加者が数百人といったケースも多々ありましたが、今ではそこまで多くは参加しません。むしろ参加者同士のコミュニケーションが弱くなってしまったことで、参加意欲が弱まっている感さえあります。アーカイブが残るため、参加ブログなどを書きたいと感じる意欲が減っているのも問題です。

また、動画はテキストではないため、テキスト検索に弱いのも課題です。動画のタイトルや概要で検索はできますが、話している内容すべてが対象になるわけではありません。動画とは別にテキストを書き起こし、専用のページを設けるのが通常です。これによりテキストが認知特性に合っている人にも利用しやすいコンテンツになります。

そして、編集コストの大きさも課題です。動画を見やすくするためには編集作業が欠かせません。アクセシビリティを向上させるために字幕を付けたり、不要な部分をカットしたりします。動画は一部だけを差し替えることが難しいため、後からミスが分かるとすべて作り直しになることも多々あります。動画編集のコストをなくすため、前出のDevRel/Radioはライブ配信をそのままアーカイブしています。

最後に、ライバルは他の動画であるという問題があります。オンラインイベントをYouTubeに配信している場合、視聴者の画面にはおススメとして他の動画が右側に出ているはずです。他のYouTuberが作った、もっと魅力的な動画が多数並んでいるのです。これに対抗するのは非常に難しく、ちょっとでもダレたり配信が止まったりすれば、即座に別の動画へ移動してしまうでしょう。これを防ぐにはコンテンツを洗練したり、編集が必須になりますが、編集コストが大きいという問題は前述の通りです。

動画配信用サービス

それでは、最後に配信に関連したサービスをいくつか紹介します。

StreamYard

PCから配信する場合にはOBS(Open Broadcaster Software)などを利用します。OBSは高機能なソフトウェアで、さまざまなことができますが、PC負荷が大きかったり、操作が複雑だったりします。「StreamYard」はその配信周りを手軽に実現してくれるソフトウェアです。

StreamYard

StreamYard

配信先はYouTube、X、Facebook、Twitchなどはもちろん、カスタムRTMPサーバーもサポートしています。

oVice、SpatialChat

oVice」や「SpatialChat」はオンラインイベントを行う際に度々利用しています。Zoomなどの会議ツールでは分かりづらい、人の距離感をオンラインで再現しているのが特徴です。アイコン同士が近くにいると音声が大きくなり、離れると聞こえなくなります。

SpatialChat

SpatialChat

この手のソフトウェアをバーチャルオフィスとして利用している企業もあるでしょう。オンライン会議ツールのように、かしこまらずに話しかけられるのが手軽で便利です。

Discord

Discord」はチャットサービスですが、25人まで参加できる動画チャンネルを作成できます。ステージチャネルという特定の話し手のみ音声が使えるチャンネルであれば1,000人まで参加できます。

Discord

Discord

Slackのハドルのように使えますが、有料なのでコミュニティではなかなか使われません。そこでDiscordでコミュニティを作り、そこで音声チャンネルを利用します。筆者が運営に参加しているさくらインターネットのさくらのマイクロコミュニティでは、Discord上でイベントを行っています。

おわりに

最近ではDevRelに関連する求人内容に動画編集スキルが求められるなど、動画による世界中での認知度向上施策は注目されています。スマートフォンの登場以降、これだけ注目されている動画ですから、今後もっとシェアが上がることはあれど、下がるとは考えられません。

動画を効果的に利用することで、サービスの認知や利用度を向上できます。ぜひ活用してください。

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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