秋の情報処理技術者試験の傾向と いまからでも間に合う直前対策とは?
国家資格を取って
昇給や昇進、就職、転職に有利に
経済産業省の主導により、ITに関する国家試験として、年に2回実施される情報処理技術者試験。前身の試験から数えると40年近く続いている資格だが、今なお多くのIT企業において必要不可欠な資格とされ、昇給や昇進の条件とされる場合も多く、就職、転職の際にもかなり有効な資格だ。
平成24年度秋季試験の開催日程は10月21日だが、残り期間1カ月を切ったいま、受験者の皆さんは追い込みをかけている段階であろう。今回は、情報処理技術者試験の中から「基本情報技術者試験」「応用情報技術者試験」「情報セキュリティスペシャリスト試験」の3つをピックアップして直前対策情報をお届けする。
情報処理技術者試験を専門とするプロの講師の方々にお話しを伺い、試験問題の出題傾向から短期間で実力をアップさせるための勉強法、試験の現場で役立つテクニックまで、合格のノウハウをうかがったのでぜひ役立ててほしい。
総合力が問われる『基本情報技術者試験』
スキルレベル2の基本情報技術者試験は、文字通りITに関する基本的知識を網羅したものであり、プログラムの問題が必須となるなど、他の試験と異なり広範囲な知識が要求されることが特徴だ。そのため午前試験の対策としては、得意分野に限らず広く復習しておくことが重要となる。
「最後の仕上げとして、自分の弱点を知るためにも、出題範囲やシラバスに一通り目を通しておくと良いでしょう。もし分からない単語が出てきたら、その場で調べて復習するようにします」とアドバイスするのは、日本工学院八王子専門学校のITカレッジで講師として活躍する大滝みや子先生だ。
IT企業にて、地球科学分野を中心としたソフトウェア開発に従事した後、現在、日本工学院八王子専門学校ITカレッジ(ITスペシャリスト科)に勤務。主な著書に「徹底攻略 基本情報技術者教科書 平成24年度秋期・平成25年度春期」(監修、インプレスジャパン)、「応用情報技術者 合格教本」「応用情報技術者 試験によくでる問題集【午前】」「要点早わかり 応用情報技術者 ポケット攻略本」(以上、技術評論社)、「基本情報技術者スピードアンサー338」(翔泳社)「基本情報技術者 かんたんアルゴリズム解法―流れ図と擬似言語」(リックテレコム)、「基本情報技術者 午前の集中学習」「基本情報技術者 午後の集中学習」(以上、オーム社)「基本情報 SQLドリル」「基本情報+ITパスポート 計算ドリル」(以上、実教出版)がある。
ITパスポートのCBT化の影響で
問題を応用情報から流用している
基本情報技術者試験の試験範囲とシラバスは、2012年の5月に改訂があったが、その改訂後初めての試験となる今回は、特に改訂された個所から出題される可能性が高いという。出題範囲の変更によって過去問の解答が変わる(適切な解答がない)ケースも出ており、十分な注意が必要だ。
また、ITパスポート試験がCBT方式に移行したことによる影響も指摘されている。「ITパスポート試験が随時実施されるようになったことで問題数が不足し、基本情報技術者試験の午前試験より問題を流用する傾向が見られます。それにより、今度は基本情報技術者試験の問題が不足してきたため、応用情報技術者試験の午前試験から流用する例が見られようになりました」
そのため午前試験に関しては、応用情報技術者試験との垣根がなくなってきているという。過去問を一通り解けるようになったら、応用情報技術者試験の午前問題にチャレンジすることで、実力の底上げにつながるだろう。ただし、個人で問題の解説文を掲載しているような、ネット上の試験情報サイトには注意が必要とのこと。「内容が誤っていたり不十分なケースもあるため鵜呑みにしてしまうと危険です。まずは、きちんとしたテキストで勉強することを原則としてください」と大滝先生。
なお、過去問を解く上でポイントとなるのが、単に解答だけを丸暗記するのではなく、正解以外の選択肢にも注意を払っておくということだ。「正解以外の選択肢が何を意味しているのか調べるだけでも、知識の幅を増やすことができます。つまり4択問題の場合は、1問で4つの知識を得られるわけです」。解答群が過去問とまったく同じで、問題文だけが差し替えられた類題が出題されることも少なくない。
混同しやすい用語をまとめておき
試験前に最終確認する
とはいえ、膨大な知識量を要求される基本情報技術者試験だけに、すべてのジャンルを完璧にカバーすることは難しい。そこで苦手なジャンルの問題に関しては、「問題文にこのキーワードが出てきたら解答はこれ」という具合に、キーワード同士の関連で暗記していく方法が有効だという。「どうしても覚えられない用語や、『フェールセーフ』と『フェールソフト』のように混同しやすい用語はメモに書き出しておき、試験の直前に見ておくようにします。それで試験が始まったら、まずその用語が出てくる問題から取り掛かるんです。実はこれ、プロの講師も使っているテクニックなんですよ(笑)」
『応用情報技術者試験』は得意テーマを重点的に
スキルレベル3の試験である応用情報技術者試験では、基本情報技術者試験と同様に広範な知識を要求されるのはもちろん、その難度も格段にアップしている。情報処理技術者試験に関する教材提供やセミナーなどを行う、株式会社わくわくスタディワールド代表取締役の瀬戸美月先生は、「応用情報技術者試験は、高度情報処理技術者試験の内容すべてをマスターして、はじめて全体が理解できるほどのレベル。すべてを完璧にこなして合格することが難しいため、必要なことだけを勉強して、60点の合格ラインに到達することが重要」と強調する。
株式会社わくわくスタディワールド代表取締役。わくわくする学びをテーマに、企業研修やオープンセミナーなどで、単なる試験対策にとどまらない学びを提供中。情報処理技術者試験を中心としたブログ「わく☆すたブログ」はファンも多く、「試験対策なのに癒された」「日々やる気がもらえる」と大好評。保有資格は、情報処理技術者試験全区分制覇(旧15区分+α)、高等学校教諭一種免許状(情報)他多数。著書は、「徹底攻略 応用情報技術者 教科書」(インプレスジャパン)「新 読む講義シリーズ 8 システムの構成と方式」「インターネット・ネットワーク入門」「新版アルゴリズムの基礎」(以上、アイテック)他多数。
直前になったら、実際の試験時間より
短めの設定で問題を解く訓練が有効
午前試験のポイントは、ずばり苦手対策だ。特にプログラミングやシステム開発の実務経験がある人の場合は、比較的簡単に午後試験を解くことができるため、むしろ総合力が問われる午前試験対策に重点を置くとよいとのこと。とはいえ、応用情報技術者試験における午前試験の6~7割は過去問の再出題(類題を含む)であり、最後の試験対策としては過去問を丸暗記するだけでも効果を期待できる。ちなみに問題だけでなく解答群がまったく同じ場合も多く、「計算問題を計算せずに解答できることも珍しくありません」と瀬戸先生。
ただし、12問中6問を選択して解答する午後試験に関しては、きちんとテーマを絞り込んで学習することが重要となる。「問題による当たり外れがあるため、得意な分野だけを集中して復習するのではなく、いざという時のため追加で1~2つのテーマを勉強しておくのがコツです」。知識の範囲に余裕を持っておけば、万が一、難しい問題にぶつかっても回避することが可能となる。
また得意分野の学力を伸ばすためには、情報セキュリティであれば「情報セキュリティスペシャリスト試験」の問題を解いてみるなど、1つ上の段階にチャレンジすることも有効だという。
なお、150分で6問を解答する必要のある午後試験では時間が足りないのが基本であり、難しい問題にハマり込んでしまうと1時間かけて解けないケースも少なくない。そのため過去問に取り組む際には、実際より短めの時間で解く訓練をしておくと、本番でも慌てずに済むという。「大事なのは完璧に答えることでなく、60点を取ることです。30分経ったら、まだ解けていなくても次の問題に取り掛かるなど、時間を有効に使うことを意識して勉強してみてください」
設問の指定数字を十分に確認
試験会場へは応用の効く服装を
午後問題に登場する記述問題に関しては、回答欄の字数が少ないこともあり、聞かれたことに対して正確に答えるテクニックが必要となる。瀬戸先生によると、記述問題では「小数点第二位まで記載すること」と書かれているのに第一位までしか書かないといった、問題の見落としによるイージーミスが非常に多いという。対策は、とにかく過去問をこなすことだ。
最後に、試験会場におけるアドバイスとして「暑すぎる、寒すぎるといった会場に当たったときのため、体温調整のできる服装が望ましい。時計がない会場もあるため、腕時計は絶対に忘れないようにしてください。あと、携帯電話の電源切っておくことをお忘れなく。試験中に携帯が鳴ったため、退場させられる人が決して少なくありません」とのこと。くれぐれもご注意を。
記述問題の対策が明暗を分ける
『情報セキュリティスペシャリスト試験』
スキルレベル4の高度情報処理技術者試験において、プロジェクトマネージャ試験やネットワークスペシャリスト試験と並んで人気の高さを誇るのが、情報セキュリティスペシャリスト試験だ。しかし、合格率がわずか13.7パーセント(平成24年度春期)という難関資格でもある。そのため「午前試験の対策でつまずいているようでは、合格は難しい。今の段階であれば、少なくとも午前IIの過去問で、コンスタントに8割の点数が取れるようになっていることが前提といえます」と語るのは、企業研修を中心に活躍するベテラン講師の五十嵐聡先生だ。
1964年横浜市生まれ。60社を超えるIT系メーカやソフトウェア企業などですべての区分をこなせる情報処理技術者試験対策などの講師として25,000名以上の指導実績がある。各研修先では、その指導力とキャラクタから常に高合格率を誇っている。「応用情報技術者過去問題集」「情報セキュリティ過去問題集」「徹底攻略ポケットシリーズ」(以上、インプレスジャパン)、「ITパスポートパーフェクトラーニング過去問題集」(技術評論社)など著書は40冊を超える。
最新トレンドを追わなくても
基本を押さえておけば合格点には届く
情報セキュリティスペシャリスト試験では、常に新しい技術や規格が問題に取り入れられる傾向がある。とはいえ直前対策では、新しいトレンドを追い求めるのではなく、過去に繰り返し出題されているテーマを重点的に復習することが大事と五十嵐先生。午後試験において、得意分野を徹底的に伸ばすことが点数アップにつながるのは、応用情報技術者試験と同様だ。
また午後試験では、特定の状況における問題点の指摘や解決策の提示を求める実践的な問題が多いが、実務経験がある人ほど深読みしてしまう危険があり注意が必要だという。「実務で似たような状況を経験している場合、問題文にはない余計な要素を組み込んで考えてしまいがち。試験では、与えられた条件だけから、素直に答えを導き出すことが重要なんです」
午後問題で一般論解答はNG
設問に応じた具体的な解答が必要
記述問題に関しては、一般論に逃げないこともポイントとなる。「試験で求められているのは、あくまで問題文で設定された状況に対する、具体的な解答です。あいまいで具体性に欠ける一般論では、たとえ内容的に間違っていなくても点を貰うことができません」。実務経験がある人の場合は、クライアントにどう説明するかイメージしながら問題を解くことが、具体的な解答を導く助けになると五十嵐先生はアドバイスする。
「逆に、解答文の文字数や読点の有無など、表面的なことにこだわる必要はありません。模範解答を見れば分かりますが、制限よりずっと少ない文字数になっているものもたくさんあります。ただし採点者が見ることを意識して、丁寧に記述することは重要です」。実際に、筆圧が低すぎて何が書いてあるのか読めない人や、「漏洩」や「認証」といったキーワードの漢字を間違えて書いてしまう人は、決して少なくないという。
「1人で学習している場合は、勉強仲間に採点を頼むなど、自分の答案を客観的に評価してもらうことが大事ですね。日本語表現の誤りや思い込みによるミスは、なかなか自分自身では気付きにくいものですから」
【関連書籍紹介】
■基本情報技術者試験(試験日、春・秋)
・はじめて受ける人の教科書『かんたん合格 基本情報技術者教科書 平成24年度』
五十嵐順子&IJラーニング編集部 著
・しっかり全範囲を学びたい人向けの教科書
『徹底攻略 基本情報技術者教科書 平成24年度秋期・平成25年度春期』
月江伸弘 著/大滝みや子 監修
・総復習、直前対策には過去問題集
『かんたん合格 基本情報技術者過去問題集 平成24年度秋期』
ノマド・ワークス 著
・ポケットサイズで通勤中の午前問題対策に便利
『徹底攻略ポケット 基本情報技術者試験 午前対策』
五十嵐 聡 著
■応用情報技術者試験(試験日、春・秋)
・しっかり全範囲を学びたい人向けの教科書『徹底攻略 応用情報技術者教科書 平成24年度』
株式会社わくわくスタディワールド 瀬戸美月 著
・総復習、直前対策には過去問題集
『かんたん合格 応用情報技術者過去問題集 平成24年度秋期』
五十嵐 聡 著
・ポケットサイズで通勤中の午前問題対策に便利
『徹底攻略ポケット 応用情報技術者試験 午前対策』
五十嵐 聡 著
■情報セキュリティスペシャリスト(試験日、春・秋)
・受かるためのポイントを短期間で習得したい人向けの教科書『徹底攻略 情報セキュリティスペシャリスト教科書 平成24年度』
金子正則 寺田佳代子 著
・総復習、直前対策には過去問題集
『かんたん合格 情報セキュリティスペシャリスト過去問題集 平成24年度秋期』
五十嵐 聡 著
・ポケットサイズで通勤中の午前問題対策に便利
『徹底攻略ポケット 高度試験共通 午前I・II対策』
五十嵐 聡 著
■ITパスポート(通年受験)
・はじめて受ける人の教科書『かんたん合格 ITパスポート教科書 平成24年度』
坂下夕里&IJラーニング編集部 著
・総復習、直前対策には過去問題集
『かんたん合格 ITパスポート過去問題集 平成24年度秋期 CBT対応』
間久保 恭子 著
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- ラストスパート!「基本情報」「応用情報」「情報セキュリティスペシャリスト」の効率的な午前試験対策とは
- 基本情報技術者試験(FE)を攻略しよう『アルゴリズム対策』
- 教科書には載っていない午後試験対策「基本情報技術者」「ネットワークセキュリティスペシャリスト」
- 情報処理技術者試験のエントリー資格「ITパスポート」を攻略する
- 出題傾向を分析して備える!「情報セキュリティスペシャリスト」「データベーススペシャリスト」対策
- 「ITパスポート」「基本情報技術者」「応用情報技術者」各試験の特性を知る
- 今始めないと間に合わない午後試験対策!「基本情報」「応用情報」「情報セキュリティスペシャリスト」
- 情報処理推進機構、情報処理技術者試験の出題範囲に「DX」を追加
- 応用情報技術者試験(AP)の午後攻略テーマ選びと『情報セキュリティ』対策
- 南三陸の商業高校がLinuxの認定試験に挑む。志津川高校が始めたチャレンジを定点観測