FinOps Foundationのエグゼクティブディレクターが来日、FinOpsの要点を解説
The Linux Foundation配下のFinOps FoundationがCloud Native Community Japanと協力してセミナーを開催。2024年8月26日夕刻に六本木ヒルズ内にあるメルカリのオフィスで開催されたセミナーから、FinOps FoundationのエグゼクティブディレクターであるJ.R. Storment氏のセッションを紹介する。
FinOpsはStorment氏の言葉を借りれば「アメリカでもFinTechと間違われてしまっていた。『うちは金融ビジネスじゃないから関係ない』と言われることもたびたびあった」というように金融に関するITツールでもコンサルティングビジネスでもない。パブリッククラウドを使うことでコストが爆発的に増えてしまうことに危機感を持った有識者が、パブリッククラウドを巻き込んでコストの比較とクラウドを使用する際の最適化をしたいという発想から、非営利団体として組織化しされたものがFinOps Foundationだ。
クラウドコンピューティングは、現在では多くのビジネスにとって重要なプラットフォームとなっているが、ITリソースの消費という観点からは従来のオンプレミスの資産を使う場合とは大きく異なっていると説明。特に財務の観点からはコスト消費がエンジニアに任されてしまうこと、変動要因が多いこと、そしてニーズに従ってスケールさせることができることなどをその違いとして挙げた。
そしてFinOpsは「運用のためのフレームワーク」であり、企業にとっては「文化的な実践」ための方法論であると説明。FinOpsが目指すところは単にクラウドにおける費用を下げるという点だけに留まらず、クラウドから得られる価値の最大化、タイムリーな予算消費に対する判断を行えるようにすること、そして利用したリソースに対する会計上の説明責任を持つことなどであると語った。文化的実践という部分が具体的にどういう意味を持つのかについては、別途行ったインタビューで詳しく質問と回答を得ているのでここでは割愛したい。
そしてその実践を推進するために作られたのがFinOps Foundationであるとして、すでに2万5千社以上のメンバーが参加しており、コミュニティ活動に併せて教育と認定試験の実施、成功事例の共有などを担っていることを説明した。
そして教育と認定については、イントロダクションのトレーニングに始まり、認定試験として「FinOps Certified Practitioner」「FinOps Certified Engineer」「FinOps Certified Professional」「FinOps Certified FOCUS Analyst」などの種類が存在していることを紹介。
フレームワークについてはFinOpsを実践するための構成要素を整理した内容となっており、守るべきルール(Principals)とそれを「どこに適用するのか?」を明確にしている。それに加えて「誰がやるのか?」を単に職種として整理するのではなく「ペルソナ」として整理しているのが興味深い発想だ。そのペルソナもコアのペルソナと連係するペルソナに分けて設定されている。
ペルソナを使うのは、ビジネスのドメインにおいて肩書きではなく現場で誰がその役割を担っているのかを整理することでより実践しやすいようにという発想だろう。「どこに何をするのか?」という部分ではクラウドのコストに関する理解、ビジネスに与える価値の明確化、利用とコストの最適化、そして実践の的確な管理などが挙げられている。またフェーズとしてクラウド利用現場からコストに関するデータを吸い上げて、可視化して最適化するというサイクルを定義。また成熟度についてもCrawl~Walk~Runというレベルが存在すると説明した。
ここまででクラウドの利用とコストを最適化してビジネスに最大の価値を与えるというFinOpsの目的と方法論については解説を行ったが、組織についても簡単に紹介を行った。メンバーとなっている企業には3大パブリッククラウドベンダー(Google、AWS、Microsoft)は当然として、デロイトやアクセンチュアなどの会計事務所、Master CardやCapital Oneなどの金融機関、NTTデータやAppleなどの名前も見つけることができる。ちなみにIBM Cloudabilityというロゴがあるが、CloudabilityはJ.R. Storment氏がかつて在籍した企業で、Apptioによる買収からその後、ApptioがIBMに買収されてIBM Cloudabilityとなったという経緯となっている。
そしてLF/CNCFと同様に、テクニカルアドバイザリーカウンシルというファウンデーションのメンバーから構成されるサブグループでガバナンスを実行するという形式を採用していることも紹介された。
また米国のFortune 500のランクの内、トップ10社及び50社がFinOps Foundationのメンバーであることを強調。ここでは多くの企業がすでにFinOpsを実践していることを訴求した形となった。
企業におけるFinOpsへの取り組みとしては2024年にFinOps Foundationが行った調査結果(State of FinOps)を元に、企業がエンジニアに対するFinOpsのトレーニングを増やす計画を持っていることを紹介。
同じ調査の「FinOpsを成功させるためには何が必要だと思うか?」という設問については「組織的に推進させること」としてビジネスオーナーが積極的にFinOpsにコミットすることを挙げている点も紹介。シャドーITとも呼ばれるクラウドに対する出費を単に削減するのではなく、クラウドを使うことがビジネスに与える効果を最大化するためには組織として取り組むこと、トップレベルのコミットメントが必要であることが必須だとわかる。
FinOpsの実践者が集うイベントとして、2025年6月の第1週にサンディエゴで開催が予定されているFinOps X 2025を簡単に紹介。そこからセッションのタイトルにあるFinOpsの進化について解説をする内容となった。
ペルソナに新しい内容が追加されたことに次いで、パブリッククラウドを超えてSaaSやプライベートクラウドに対してもコストを最適化するべきという内容を紹介。ここではSaaSに対してもコスト意識を高めるべきという内容となった。
領域という部分では生成型AIについても言及し、これまでパブリッククラウドの利用は「コスト」と「速さ」そして「品質」の三角形の中からビジネスのニーズによって何を最優先するのかを選択する必要があったと説明。この3つの係数をすべて満足させることは出来ず、かならず何かを優先すれば他が犠牲になるという関係だったとしている。そしてその状況は生成型AIについても変わらず、逆に生成型AIに必要となるコストが不透明であることから、さらに難しさが増していると説明した。
そして生成型AIについてはAIをFinOpsに適用する発想ではなく、生成型AIの実践についてもFinOpsを取り入れるべきだとして「AI for FinOps」ではなく「FinOps for AI」を目指すべきだと語った。
その上で生成型AIを加えた領域を提案。ここでは生成型AIについては誰もがまだ始まったばかりだと説明した。
最後にファウンデーションが行っている最新動向としてFOCUSを紹介。
FOCUSは「FinOps Open Cost and Usage Specification」の略で、各パブリッククラウドやSaaSでそれぞれ異なる用語でコスト算出の基礎としていることから、ユーザーからみれば単純に比較を行うことが難しいという状況を打破するために、共通の言語や単位を作ろうという試みだ。FOCUSは1.0というバージョンでGAとなっている。詳細については以下の公式サイトを参照して欲しい。
ここではクラウドプロバイダーからのコストに関するデータがFOCUSのフォーマットで生成されることで、複数のプロバイダーのコストを比較可能になることが説明されている。
簡単ではあるものの「FinOpsとは何か?」とその最新動向を紹介する内容のセッションとなった。クラウドを使うエンジニアなら「思ったよりもコストがかかってしまった」ことは経験があるだろう。それが単一のクラウドならまだしも、複数のクラウドを使ってアプリケーションを実装した場合にそのコストの違いを上司に説明する難しさは容易に想像できる。クラウドのコスト構成要素がバラバラになったままにしておかずに、共通の言語や単位を使って透明性を上げようというのがFOCUSの狙いであり、その苦労を一人で抱え込まずに共有することで大きな流れにしたいというのがFinOps Foundationの狙いだ。
テクノロジーに特化した組織ではなくあくまでも仕様を作るという地味な作業が日本のエンジニア、経理部門、そしてビジネスオーナーにとって受け入れられ、コミュニティとして拡大するかどうかを注視していきたい。
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