なぜスタートアップはシリコンバレーで始めるべきなのか Part 2

2015年1月16日(金)
藤川 幸一(ふじかわこういち)

前回に続き、スタートアップを支えるシリコンバレーのエコシステムについて、その要素を説明していきましょう。

資金

現在では、クラウドや様々なB2Bウェブサービスインフラによって、以前より簡単にイノベーションを利用して事業を進めることができるようになっています。そのため、ただのカネの価値は以前よりも落ちていると言われています。それでも前回説明したように、超優秀な人材をフルに活かすためには、やはり少なからぬ資金が必要です。最近、有望なスタートアップが調達する資金量は増えていると言われていますが、その資金はほぼ優秀な人材を獲得するのに使われています。最近では、コンピュータサイエンスの修士卒であれば、人材の奪い合いが激しいので、新卒でもソフトウェア・エンジニアとして年収1500万円程度で採用されることがままあるそうです。当然、経験のあるエンジニアであれば、それ以上という話も聞いています。ただしこの「経験」とは「シリコンバレーでのスタートアップで通用する経験」ということです(これも前回にあった「共通認識」に関連します)。
このように、VCから調達した資金は優秀な人材を獲得するためのもの、という前提で、シリコンバレーには多くのVCがあり、そのための潤沢な資金を提供しています。
その副作用としてシリコンバレー周辺(サンフランシスコを含む)では記録的な家賃の高騰が起きており、場所によっては一般的な家族が住む2ベッドルームの部屋が平均3500ドル(約42万円)というような、とんでもない高額になっています。

ところで、シリコンバレーには、素晴らしいスタートアップであればいくらでも資金が調達できるのではないかというくらい多種多様の専門性を備えたVCがあります。VCがなぜこのように多くの資金を提供できるかというと、それらのVCが過去の投資で成功しているからです。一般的にスタートアップ投資は、大成功する会社(時価総額$1B、つまりビリオンダラーカンパニーが基準)が少数出るだけで十分なリターンが得られると考えられています。少数とはいえ、なぜシリコンバレーのVCの、投資先のスタートアップから大成功する会社が生まれるかと言えば、それはシリコンバレーのエコシステムがあるからです、つまり、完全にポジティブスパイラルになっています。

もちろんすべてのVCが成功しているわけではなく、失敗したところは淘汰されて残っていないということです。VCもスタートアップと同じですね。ですが結局は、セコイアやアクセルのように大成功しているVCがあるからこそ、資金も集まるのです。加えて、500StartupsYCombinatorなどマイクロVCまたはスーパーエンジェルと呼ばれる新しい形のVCも生み出され、成功しつつあります。

図1:Alex Weber撮影。シリコンバレーの重要な要素であるスタンフォード大学の一角。多くの起業家を輩出していて、最近はY Combinatorによる寄附講座も話題になった。

スタートアップを支えるプロフェッショナルやサービス

これまで見てきたような、スタートアップにフルタイムで関わる人たち以外にも、たくさんの専門家がシリコンバレーを支えています。例えば弁護士一つをとっても、以下のような専門性を備えた人材がいます。

  • スタートアップの実務に精通している企業弁護士
  • 超優秀な人材を海外から採用するための移民法専門の弁護士
  • スタートアップの初期の価値を株価の点から決定する企業評価専門弁護士
  • 特許弁護士

企業評価専門の弁護士には少し説明が必要でしょう。彼らは「409A」と呼ばれる企業の評価プロセスを経て、スタートアップ企業のフェア・マーケット・プライスを決定します。この評価を実施しないとストック・オプションを付与するときに、従業員に過剰な利益を与えたとみなされ、多額の税金を課されることがあるからです。

弁護士以外にも、スタートアップの実務を得意とする会計士や、専門の人材業者(リクルータ)等もたくさんいます。

加えて、最近はそのような専門知識が必要な業務を、ある程度カバーするウェブサービスが大量に登場しています。例えば、古くからの会計ソフト・ウェブサービスを提供しているIntuitという会社は、大企業でありながら自らリーンスタートアップを実行し、QuickBooks Onlineというサービスを生み出しました。我々もこのサービスを使っているのですが、あらかじめ設定しておけば、給与支払いや納税などの入出金を実行し、各種のフォームも自動的に役所に送付してくれます。そのため、以前我々の人数が少ない時には、会計知識に明るくない私でもそれを利用してバックオフィスを回していたことがあり、年に1回の決算のみ専門の会計士にお願いするだけで済んでいました。それが月数十ドルで使えるので、初期のスタートアップには大変ありがたい仕組みです。

他にも、例えば簡単に地域のおいしいレストランからのランチケータリングを可能にするEAT ClubDoorDashといったウェブサービスがいくつも登場しています。大企業でなくても、会社でおいしいランチを提供して生産性を高めるということが、スタートアップでも可能になっています。

これ以外にも人材採用や各種福利厚生のための多種多様なサービスが、それぞれ月数十ドルで利用でき、起業して間もないスタートアップでも、大企業に負けないような福利厚生を提供できるというのも、シリコンバレーのエコシステムの一翼を担っています。シリコンバレーで活躍する日本人起業家で、福山太郎さんがCEOのAnyPerkもその一つですね。

まとめ

このように、非常に強力なエコシステムがポジティブスパイラルを作って、さらに影響力を増しているのがシリコンバレーです。そのスパイラルの中でお互いを洗練し合い、さらに強烈な競争を引き起こし、素晴らしい企業を生み出し続けているのです。

著者
藤川 幸一(ふじかわこういち)
FlyData Inc.
学生時代からStartup (電脳隊・PIM)に関わり,PIMがYahoo! JAPANに買収された後は,エンジニアとしてYahoo!モバイルを開発。アジャイル開発コンサルやデリバティブ取引システムなどの開発経験を経て,シリウステクノロジーズでテクニカルマネージャ&夜はIPA未踏人材育成事業でHadoopのミドルウェア開発プロジェクト。日本JRubyユーザグループ発起人。
シリウスがYahoo! JAPANに買収されたのを機に,2010年FlyData Inc.(旧社名Hapyrus)をUSにて起業。カリフォルニアSunnyvale在住。
Twitter:@fujibee

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