デスクトップ仮想化の特性とコンポーネント
デスクトップ仮想化に利用されるコンポーネント
デスクトップの仮想化では、デスクトップの仮想化を実現するためのハイパーバイザ(仮想化ソフト)のほかにも、必要なコンポーネントがいくつか存在します。デスクトップ仮想化に利用されるコンポーネントに関して、代表的なデスクトップ仮想化製品である米Citrix Systemsと米VMwareの2社について、コンポーネントの違いを見てみましょう。
図2: 各社のデスクトップ仮想化製品コンポーネント比較表 |
- ハイパーバイザ
- デスクトップ仮想化のプラットフォームとなります。VMware Viewでは、VMware ESX(VMware vSphere)を利用します。Citrix XenDesktopでは、Citrix Xen Server、VMware ESX、Microsoft Hyper-Vのいずれであっても利用可能です。
- コネクション・ブローカ
- デスクトップ仮想化の中心となるコンポーネントで、Active Directoryと連携し、ユーザー情報とデスクトップのマッピング情報を保持します。通常、ユーザーとデスクトップのマッピング方法には、固定割り当てとプール割り当ての2種類があります。
固定割り当ての場合、ユーザーとデスクトップが1対1でマッピングされ、特定のユーザーは常に同じ仮想デスクトップを利用することになります。したがって、各ユーザーは自身のデータをデスクトップ内に保存することが可能です。
一方、プール割り当ての場合、複数の仮想デスクトップを1つのプールとして、プールに対してユーザーもしくはユーザー・グループを割り当てます。ユーザーはログインする度に、プール内のいずれかの仮想デスクトップにログインすることになります。
最大同時利用者の数だけ仮想デスクトップを用意すればよいため、図3のように利用者が4名であっても、同時に3名しか利用しないのであれば、仮想デスクトップは3台で運用可能です。ただし、ユーザーはどのデスクトップにログインするかを指定できないので、どのデスクトップにログインしても自身の環境が利用できるようにするために、移動プロファイルやフォルダ・リダイレクトといった機能を併用する必要があります。
図3: コネクション・ブローカのデスクトップ割り当て方法 |
- 仮想デスクトップ・エージェント
- 仮想デスクトップにインストールするコンポーネントです。コネクション・ブローカへの登録処理やクライアント端末からの画面転送プロトコルの接続を受け付けます。各社ごとに異なる画面転送プロトコルを採用しており、Citrix XenDesktopではICA(Independent Computing Architecture)もしくはRDP(Remote Desktop Protocol)、VMware ViewではPCoIP(PC over IP)もしくはRDPを利用します。
- クライアント・ソフトウエア
- クライアントPCにインストールするクライアント・ソフトウエアです。仮想デスクトップ接続時のクライアント・ソフトウエアとして動作します。ユーザーがコネクション・ブローカに初めて接続する際に、ソフトウエアのインストールを促されます。管理者が事前に利用者に対してバイナリを配布する必要はありません。
- 仮想マシン・プロビジョニング
- デスクトップ仮想化環境では、多数の仮想デスクトップが起動することになりますが、これらへのパッチ適用やアプリケーションの追加などを一元的に管理することは困難です。こうした中、管理性を高めるための手段として、仮想マシン・プロビジョニング・コンポーネントが存在します。仮想マシン・プロビジョニング・コンポーネントを利用することで、単一の仮想マシン・イメージ(マスター・イメージ)を用いて複数の仮想マシンを起動できるようになります。
システム管理者は、マスター・イメージに対してパッチ適用を行ったり、アプリケーションを追加したりすることで、多数の仮想デスクトップのメンテナンスが容易に実施できます。また、仮想マシンごとにOSイメージを持たせる必要がなくなるため、ストレージ容量を削減できるというメリットもあります。
Citrix XenDesktopでは、Provisioning Serviceがこの機能を提供します。ネットブート技術を利用して実現しています。一方、VMware Viewでは、View Composerと呼ばれるコンポーネントがこの機能を提供します。こちらはLinked Cloneと呼ばれるVMware ESXのスナップショット機能を応用した技術を利用しています。 - アプリケーション配信
- デスクトップ・プロビジョニング・コンポーネントを採用することで管理性が向上しますが、利用するアプリケーションが部門ごとに異なる場合などは、複数のマスター・イメージを用意する必要性が出てきます。このようなアプリケーションの差異を埋めるため、管理者がアプリケーションを一元管理し、利用者にアプリケーションを提供するコンポーネントです。
マスター・イメージにインストールされていないアプリケーションを、利用者に対して提供することが可能になります。Citrix XenDesktopでは、XenAppを利用して画面転送もしくはアプリケーションのカプセル化によりアプリケーションを配信することが可能です。一方、VMwaare Viewでは、ThinAppを利用することにより、アプリケーションの実行環境をカプセル化して、利用者に配信することが可能です。
図4: デスクトップ仮想化のコンポーネント(クリックで拡大) |
管理性と利便性のトレードオフ
これまで説明した通り、デスクトップ仮想化には、仮想マシン・プロビジョニングやアプリケーション配信といったコンポーネントが登場します。これらのコンポーネントは管理性向上のために大きな役割を果たしますが、必ずしもすべてのコンポーネントを利用する必要はありません。多くの場合、管理性の向上はユーザーの利便性とのトレードオフになります。
例えば、仮想マシン・プロビジョニング・コンポーネントは、仮想デスクトップの管理性を飛躍的に向上させる一方で、利用者からは、自身でアプリケーションを追加したりシステムの設定変更を行うといった自由を奪うことになります。管理者が作成したマスター・イメージの利用を強要されるため、業務上デスクトップ環境の細かなカスタマイズを必要とするパワー・ユーザーからは、カスタマイズができないことに対する不満が出ることになります。
このようなユーザーに対しては、プロビジョニング・コンポーネントを利用せずに、個別に仮想デスクトップもしくはブレードPCを割り当て、自由に利用することを認める必要があります。
一方、ナレッジ・ワーカーと呼ばれ、業務上利用するアプリケーションが限られている利用者に対しては、デスクトップ環境に制限事項が多くても業務上支障はないため、プロビジョニング・コンポーネントの採用が適していると判断できます。
当然、ナレッジ・ワーカーと呼ばれる利用者であっても、これまでとは使い勝手が変わるため、デスクトップ仮想化の採用と同時に不満の声が上がるケースが多くなります。このため、導入時のユーザー教育は不可欠です。