論理分割(LPAR)方式の仮想化

2010年7月8日(木)
上野 仁

サーバー仮想化技術の開発史

各種の仮想化技術の中で最近特に注目されているのが、独立した複数のマシン環境やOS環境を1台の物理サーバー上で動作させる、サーバー仮想化技術です。これまで無かった最新の技術であるかのような誤解もありますが、実は、長い歴史を持っています。

1970年から1980年にかけて、業務処理のためにメインフレーム(汎用機)が使われるようになりました。メインフレームは高価であったため、一度に2台も3台も買えるものではありませんでしたが、新規システムを開発する際には、旧バージョンと並行動作させて確認をする必要がありました。こうして、1台のメインフレームの上で複数のOSを並列に動作させる必要性が生じました。

このようなニーズから、リソースが乏しいCPUコア、メモリー、I/Oのセットを仮想化する、VM(仮想計算機)という考え方が生まれました。日立製作所では、このVM方式を採用したメインフレーム用仮想化制御ソフト「VMS(Virtual Machine System)」を製品化しました。VM方式は、少ないリソースをたくさんあるかのように見せる方式ですが、性能を高めることが難しいため、システム移行時などに一時的に利用するケースが多く、あまり使われませんでした。

1990年頃には、CPU性能やコア数、メモリーの増加などを受けて、メインフレーム1台の性能が格段に向上しました。こうして、種類が異なる複数の業務処理システムを1台のメインフレーム上で同時に稼働させたい、という要求が出てきました。

このニーズにこたえて開発した仮想化技術が、論理分割(LPAR: Logical PARtition、論理パーティショニング)方式です。LPARは、システム基盤のファームウエアなどで実現するサーバー仮想化技術であり、「CPU、メモリー、I/Oは豊富にあるから、仮想化するのではなく、ハードウエアを分割してそのままOSに割り当てる」という考え方です。日立製作所では、「PRMF(Processor Resource Management Feature)」として製品化しました。

メインフレーム以後に使われるようになった商用UNIXサーバーにおいても、VM方式よりLPAR方式の方が主流です。商用UNIXサーバーの主な適用領域である基幹系の業務処理システムに対しては、性能と信頼性が高いLPAR方式が評価されているようです。

図2: 仮想化技術は古くて新しい。基幹業務にはLPAR(論理分割方式)が適する

商用UNIXサーバー以後に登場したIA(Intel Architecture)サーバーにおいても、2000年頃から、VM方式によるソフトウエア仮想化製品がリリースされるようになりました。CPUコア数やメモリー、I/Oなどが貧弱な時代のサーバーなので、メインフレームで言えば1980年頃のVMSの時代に相当します。必然的にVM方式で仮想化を実現せざるを得ませんでしたが、初期のニーズはWindowsとLinuxの両方を1台のサーバーで使いたい、という程度だったので、VM方式でも実用になりました。

こうした中、日立製作所では、「IAサーバーでも、ハードウエア・リソースが増加し、基幹系の業務に利用される時期がやってくる。LPAR方式のサーバー仮想化製品が必要になる」と考えました。こうして2006年、ブレード・サーバー「BladeSymphony」のハイエンド・モデルである「BS1000」向けに、LPAR方式による仮想化機構「Virtage(詳細はこちら)」を開発しました(2006年にItaniumブレード向けに、翌2007年にXeonブレード向けに、それぞれ提供)。メインフレームのサーバー仮想化技術を、IAサーバーに適用したのです。

一方、最近の仮想化技術の中には、単に従来のVM方式を焼き直しただけではなく、メインフレーム時代には無かった新技術を実現しているものもあります。例えば、仮想マシン上で動作するゲストOSを、停止することなく別の物理サーバーに移動する、ライブ・マイグレーション技術です。また、ある物理サーバーのイメージをバイナリのまま仮想サーバー環境に移行する手法も、これまでに無い新技術です。

このように、サーバー仮想化技術は、メインフレーム時代から続く長い歴史を持っていますが、最新の機能も実現されています。古くて新しい技術であると言えます。

日立製作所 エンタープライズサーバ事業部

(株)日立製作所エンタープライズサーバ事業部に所属。入社以来メインフレーム用OS、ファームウエアなどの研究開発を担当。現在はメインフレーム開発で培った仮想化技術をIAサーバに適用するとともに、利用システム拡大のために奮闘中。下手の横好きのゴルフにも頑張っている。
 

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