TOPPERS/JSPによるロボット制御
nxtJSP版のプログラムとTOPPERS/JSP版のプログラムの違い
TOPPERS/JSP版NXT環境の動作が確認できたところで、2輪倒立振子ロボットのプログラムをTOPPERS/JSP版NXT環境で動くようにしましょう。
プログラムはこちら(RunnerThinkIT_v5_P.zip)から取得できます。
- ※展開すると、RunnerThinkIT_v5_Pというフォルダが作成されます。「jsp/OBJ/MINDSTORMSNXT」というフォルダの中にコピーしてください。
- ※サンプルプログラムに設定されている、目標となる明るさは、ロボットが走る環境によって異なりますので、各自調整してください。
イニシャライズ処理の変更
nxtJSP環境では、ecrobotインターフェースの関数を使ってロボットを制御していました。TOPPERS/JSP版NXT環境でもecrobotインターフェースを使ってロボットを制御しますが、提供している関数には若干の違いがあるようです。
nxtJSP環境では、ecrobot_device_initialize()やecrobot_device_terminate()など、システム起動時の初期処理や後始末処理を記述する部分がありましたが、TOPPERS/JSPでは、これがありません。そのため、初期処理をする部分をRunner.cに追加します。
Runner.c
追加した関数の役割を見てみましょう。まず、show_splash_screen関数を呼び出すとスプラッシュ画面(動作開始時のOSの名前を表示する画面)を表示します。
ecrobot_init_nxtstate関数とecrobot_init_sensors関数で、NXT本体の状態とセンサーポートの初期化をしています。show_main_screen関数とdisplay_status_bar関数で、スプラッシュ画面の表示後に操作画面を表示しています。sta_cyc関数はμITRONのAPI関数で、引数に指定した周期タスクの実行を開始します。
例えば、sta_cyc(CYC_Balance);はバランサータスクを開始し、sta_cyc(CYC_Trace);は、ライントレースをするタスクを開始します。
このタスク(tsk_disp)を実行するには、Runner.cfgを編集して、タスクの構成を修正する必要があります。CRE_TSK文の並びの続きに、以下のように記述してTSK_Dispタスクを追加します。
また、バランスタスク(TSK_Balance)やトレースタスク(TSK_Trace)は、TSK_Dispタスクから周期タスクとして起動することにするので、タスク属性の指定から「TA_ACT」をはずして自動起動しないように変更しました。
さらに.INCLUDE("\"at91sam7s.h\""); を削除して、最後に次のようなインクルードを追加してシステムクロックや、シリアルインターフェースを使えるように変更しています。
Runner.cfg
Makefileの変更点
Makefileは、TOPPERS/JSP版NXT環境の、「/jsp/OBJ/MINDSTORMSNXT/MON」フォルダからコピーして、それを編集しましょう。60行目付近にあるソースファイルのディレクトリの定義(SRCDIR)を、「../../..」から「../../../..」に変更します。80行目付近のカーネルライブラリの場所の指定(KERNEL_LIB)も、2ページ目で作成したカーネルライブラリの保存場所を参照するように変更します。
また、コンパイル対称になるソースコードは、複数のフォルダに分割しているため、116行目付近にあるコンパイル対象となるフォルダ名(UTASK_DIR)と、122行目付近にあるコンパイル対象のファイル名(UTASK_COBJS)を変更します。
TOPPERS/JSP版でロボットを動かそう
サンプルプログラムをコンパイルします。
まず、「RunnerThinkIT_v5_P/controller」フォルダをカレントフォルダにします。次にメイクファイルの依存関係を生成し、コンパイルします。すると「jsp.rxe」というファイルが作成されます。
cd /jsp/OBJ/MINDSTORMSNXT\RunnerThinkIT_v5_P/controller
make depend
make
作成された、「jsp.rxe」ファイルを教育用レゴ マインドストームNXTにダウンロードします。
sh rxeflash.sh
ロボットの動かし方は、開発環境の確認をしたときの方法と同じです。「WAIT BLUETOOTH CONNECTION」と表示されて、右ボタンを押すと音が鳴り、初期処理が実行されます。このときにジャイロセンサーが動かないように、ロボットを静止させておきます。次に、ロボットを立てて、タッチセンサーを押すと、ライントレースを始めます。
これで、TOPPERS/JSP環境で2輪倒立振子ロボットを動かすことができました。プログラム本体をさわることは少なく、nxtJSP環境のプログラムは、TOPPERS/JSP環境に比較的移行しやすいことがわかりました。
TOPPERS/JSPでの走り
また、同じCygwin環境下では、GNUARMとnexttoolのインストール場所に注意すれば、nxtJSPとTOPPERS/JSP環境は、共存できることもわかりました。
その他、TOPPERS/JSPのOBJフォルダには、すでに、2輪倒立振子ロボット用のサンプルプログラムなどがいくつか用意されています。これらも参考になります。
さて、本連載では、2輪倒立振子ロボットを使ったETロボコンや、PID制御、イベントフラグの使い方、TOPPERS/JSP環境などを紹介してきました。本連載の内容が、少しでもみなさんの参考になれば幸いです。
【参考文献】
「TOPPERSプロジェクト/JSPカーネル」(アクセス:2010/08)