UMLの現状とSysMLの最新動向
SysMLの現状
SysMLの認知度は、まだUMLほどは高くありません。書籍、参考資料、適用事例、など、一般に公開されている情報は、あまり多くありません。しかし、徐々にですが、ここ1年少しの間に、表記言語的な解説のレベルを超えて「SysMLを使って、どのようにシステムをモデリングしていけばよいか」という観点を含む本や記事が増えてきつつあります。
車載電子機器向けのドメイン特化アーキテクチャ記述言語として注目されつつあるEAST-ADL2がSysMLをベースとしている、などの理由から、最近特に、自動車業界を中心にシステム工学やSysMLに対する関心が高まってきているように感じられます。
現状でSysMLを利用可能なモデリング・ツールには、表1に示したものなどがあります。UMLを利用可能な主要なモデリング・ツールの多くは、すでに何らかのかたちでSysMLへの対応を進めているようです。
SysMLを利用可能なモデリング・ツール
ツール名 | 開発会社 |
---|---|
Enterprise Architect | オーストラリアのSparxSystems |
Rational Rhapsody | 米IBM |
Artisan Studio | 米Artisan Software Tools |
MagicDraw | 米No Magic |
Pattern Weaver for SysML | 米Foundatao |
Papyrus for SysML | Eclipseベースのオープン・ソース |
OMG認定のシステム・モデリング技術者資格であるOCSMP(OMG Certified Systems Modeling Professional)も、準備が進行中です。まずは、全部で4レベル分が計画されているうちの最初のレベルである"Model User"から順次開始されていく予定です。
SysMLの展望
現在、システム開発は、大規模化/複雑化してきています。今後作られるシステムも、さらに規模や複雑さが増すものと予想されます。例えば、最近の自動車が搭載するECU(Electric Control Unit: 電子制御ユニット)の数は、普通車で50個前後、高級車では70個以上になります。「自動車」というシステムは、すでに車内通信機構を介して協調動作する複雑な分散制御系になっている、といえます。
これらの「複雑さ」に対処するため、これまで主に航空・宇宙・軍事分野で発展してきたシステム工学的な手法を、民生品開発分野へと転用するやり方が模索され始めています。先述したEAST-ADL2やSysMLの標準化などは、こうした流れの中の一部としてとらえることもできます。
システム工学的なアプローチでは、トップ・ダウンによる要素分解と機能割り当てを基本として、システム全体のバランス取り(最適化)を行います。この方法は、人工衛星や戦闘機のように「1機種1シリーズ」なものには効果的に機能するように思えます(新しい機種を作る場合は、アーキテクチャや組み込む機構など、構成を大きく変えることができる)。
ところが、自動車をはじめとする民生機器の多くは「製品シリーズ」を持っており、1機種1シリーズではありません。このため、現状では、先代機種と新機種との間でシステム構成要素の配置/構成を大きく変更することは難しくなっています(図3)。
図3: 全体最適にともなう既存モジュールの配置変更のイメージ |
このため、システム工学的な視点を活用して全体最適な構成を導き出しても、「既存モジュールの配置/構成変更にコストがかかる」という理由で、最適構成をあきらめる、といったことが起こります。これでは、せっかくのシステム工学のうまみが半減してしまいます。
今後は、このような課題に対応できるような、再構成/再配置/置換が容易な開発プロセス/設計手法/実行環境の研究/整備が求められるものと思います。
また、MBSEのうまみをしっかり生かせるように、メカ/エレキ/ソフトを含むシステム全体としての要求/構造/特性の明確化、モデル・ベースの検証/シミュレーション機能の充実、などが求められるようになるでしょう。
これらの環境が十分に整備されてくれば、ハードウエア・ベースの試作機を用意して実験/検証/調整を行うというような費用と時間のかかる作業の多くを削減し、システム開発の上流段階であるモデル上において、試行錯誤と実現方式案の絞り込みを効率よく行えるようになります。
このような状況の中、SysMLはシステム工学分野における標準的な技術要素の1つとして、今後さらに重要度を高めながら普及していく可能性が高いと考えます。