BPMN 2.0の概要とビジネス・プロセス・モデリング

2010年9月10日(金)
岩田 アキラ (いわた あきら)

BPMN 2.0

BPMNの歴史は、図10の通りです。2004年にBPMIがBPMN 1.0を公開した後、6年の歳月を経て、ようやくBPMN 2.0が2010年中に最終採択される予定です。2010年6月5日に発行されたBPMN 2.0ベータ2の仕様書冒頭のコピーライト宣言文には、次の企業/団体が名乗りを上げています。

  • 米Axway
  • 英BizAgi
  • 米Bruce Silver Associates
  • 独IDS Scheer(独Software AGが2009年に買収)
  • 米IBM
  • 仏MEGA International
  • 米Model Driven Solutions
  • 米Object Management Group
  • 米Oracle
  • 独SAP
  • 独Software AG
  • 米TIBCO Software
  • 米Unisys

図10: BPMN開発の歴史(クリックで拡大)

これまでのBPMN 1.xは、記述モデルと分析モデルの用途に主眼が置かれていました。一方、実行可能モデルの用途として見た場合は、図形要素や属性が不足しており、不完全でした。

これに対して、BPMN 2.0では、米IBMや独SAP、米OracleといったメジャーなBPMSベンダーが中心となって開発を進めたことにより、実行可能モデルの用途で使うための仕様強化が図られています。

また、記述モデルと分析モデルの用途においても、ビジネス・アナリストやプロセス・デザイナによる5年以上の現場適用経験がフィードバックされ、改良されています。

BPMIが当初掲げていた「BPMN開発コンセプト」(前回の図4)が、BPMN 2.0になって、やっと現実味を帯びてきたと言えるでしょう。

ただし、BPMN 2.0では、ビジネスからITまでの広い範囲のモデリング要件をカバーしたことにより、図形要素や属性の種類が多くなり、複雑になった感があります。この問題を解決するためにBPMN 2.0ベータ2で追加されたのが、"BPMN 2.0適合基準"です。この概念を、図11に整理しました。

図11: BPMN 2.0の適合基準(クリックで拡大)

適合基準(Conformance)は、BPMツールにおけるBPMN 2.0仕様の実装レベル(言い換えれば、準拠レベル)を定義しています。当然、この基準作りには、ビジネス・プロセス・モデリングの一般的な方法論と設計ステップが配慮されています。

また、モデル駆動型開発で言うところのPIM(Platform Independent Model、プラットフォーム独立)とPSM(Platform Specific Model、プラットフォーム依存)の領域が明示されています。図11左の「プロセス・モデリング適合」はプラットフォーム独立(PIM)を、右上の「プロセス実行適合」はプラットフォーム依存(PSM)を表しています。

図11右下の「コレオグラフィ・モデリング適合」は、BPMN 2.0から新たに追加された、プロセス間のメッセージ交換手順やルールを図で表記する基準です。この適合基準は、PIMの領域に限って規定しています。この表記については、最終回(第4回)で解説する予定です。

プロセス・モデリング適合では、記述モデル、分析モデル、実行可能モデルの3つのステップで使用する図形要素と属性の範囲を、それぞれ、記述適合クラス、分析適合クラス、共通実行可能クラスの3つのクラスに対応させて、規定しています。

分析適合クラスは、記述適合クラスを包含します。共通実行可能クラスは、分析適合クラスを包含します。このように、スーパークラス/サブクラスの関係を明示して、モデルで定義する内容の詳細度を段階的に拡大しています。

適合基準は、かなり厳しい基準です。"BPMN 2.0完全準拠のプロセス・モデリング・ツール"と呼べるのは、共通実行可能クラスで規定した図形要素と属性の範囲に加えて、コラボレーション図やカンバセーションズ図(BPMN 2.0から新たに追加された図表記)、そのほかの諸規定を100%満足した場合に限る、と規定されています。ツールの使用者であるユーザーにとっては、製品選択の基準が明示されたわけであり、朗報と言えるでしょう。

BPMN 2.0を完全に包含したソフトウエア製品は、今のところ存在しません。BPMSベンダーは、BPMN 2.0ベータ1の公開と同時に、BPMN 2.0仕様の製品実装を始めたばかりの状況です。次回は、その中でもいち早くBPMN 2.0の実装を始めたベンダー製品に焦点をあて、プロセス実装設計の最新動向を解説します。

著者
岩田 アキラ (いわた あきら)

岩田研究所代表。日本BPM協会 運営幹事。自己の研究対象をデータモデリングからプロセスモデリングに6年前に転向。ビジネスプロセス表記標準BPMNの国内普及に邁進。日本BPM協会ではBPM推進フレームワークの開発やセミナーなどの講師を務める。「岩田研究所」ブログで自身のBPM/SOA開発手法研究成果を公開。

連載バックナンバー

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています